酒井邦嘉著「言語の脳科学」を読む ― 2(完) ― 「遺伝子―脳―言語」という認識が、言語の脳科学の前提、ブローカ野が文法処理に特化している、 7歳までが勝負

酒井邦嘉著「言語の脳科学」を読む ― 2(完) ― 「遺伝子―脳―言語」という認識が、言語の脳科学の前提、ブローカ野が文法処理に特化している、 7歳までが勝負

 

 

酒井邦嘉著「言語の脳科学:脳はどのようにことばを生みだすか」を読んでいます。

 


 

「第4章 普遍文法と言語獲得装置: 言語学とは何か」に入ります。

 

 

p093

 

インド・ヨーロッパ語族という分類は、・・・

インドが含まれるのは、サンスクリット(梵語)で用いられる語彙とその活用変化が、

ギリシャ語やラテン語とよく似ていたからである。 サンスクリットの文法体系は、

古代ギリシャの伝統文法よりも進んでいたと言われている

 

==>> このことは、現代でも世界で共通する世界の祖語があるんじゃないかという

     言語の起源に関する論争になっているんだそうです。

 

     サンスクリット語(梵語)と言えば、お釈迦様が残した言葉が、仏典として

     バーリ語やサンスクリット語で残されているというのが、原始仏教あるいは

     初期仏教を学ぶ上でのより所となっているようです。

     もちろん、日本仏教は中国仏教を下地にしているのですが、元々のインドでの

     仏教はどんな仏教だったのかを知るためにはバーリ語やサンスクリット語で

     書かれた仏典が必須のようです。

     中国語に翻訳された仏典には、道教や儒教などの思想が混じり込んでいると

     いうことだそうです。

 

p095

 

ピンカーは、コミュニケーションのために適応したのが言語の起源だと主張しているが、

そもそも必要があって生まれるという考えは誤りである。 言語の起源に関するどんなに

もっともらしい議論も、実証性のあるものは一つもなく、まして科学的に受け入れられる

説は全くないということをはっきりさせておきたい。

 

==>> 言語に起源に関する著者の意見は明白ですね。

     もちろん、言語が生まれた頃の時代にどらえもんのどこでもドアーで飛んで

     いけるわけもないので、実証不可能であることは確かだと思います。

     

     進化は目的があってなされるものではない、ということに関しては

     こちらのyoutubeにあるリチャード・ドーキンスさんの解説が参考になるかと

     思います。

     進化とは何か!リチャード・ドーキンス博士の学生向けレクチャーが掲載!

ダーウィンの種の起源(進化論)がなかなか生まれなかった理由とは!?

     https://www.youtube.com/watch?v=kQaJieYET1c

 

     あるいは、私が過去に読んだ本はこちらです:

     リチャード・ドーキンス 特別講義「進化とは何か」

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2021/07/blog-post_18.html

     「p85

「自然選択」というのは「人為選択」とほぼ同じですが、ただ選択を行うのが

人間ではなく自然であるという点が異なります。

・・・すべての子オオカミの中から、どの子を選択するかは、人間ではなく自然

が決める。生き残れるものが繁殖することになり、選択は自動的になされる。

・・・自然は常に、どの個体が生き残って繁殖していくかを選択していきます。

したがって、何世代も続いた「自然選択」の結果は、ちょうど何世代も続いた

「任意選択」の結果と同じようになります。」

「p94 

ダーウィンの進化論は、偶然ということで物事を説明しないからです。

ランダムな遺伝的突然変異という形では入ってきますが、ダーウィンの進化論

の最も重要な部分は、偶然ではない「自然選択」というプロセスなのです。」

 

「p97 

なぜ私は人間にのみ「デザインする」という言葉を使って、ほかの動物の作品に

は使わないのでしょう。 両者の違いは、人間が意識的に先を読んだ結果、効率

よい素晴らしいデザインをするのに対し、トックリバチやカマドドリが瓶や

巣を効率よく作るのは、先を読んでのことではなく、むしろ過去の失敗から

「自然選択」によって直接選択されてきた結果に過ぎないからです。」

 

     ・・・つまり、言語の起源に関しても、このような進化のプロセス、つまり

     自然選択の結果だということになりそうです。

 

 

p116

 

脳に「言語獲得装置」があると仮定することで、プラトンの問題に説明を与えることが

できる。 この言語獲得装置の持つ規則を言語学的に記述したものが、普遍文法である。

 

普遍文法に対して、実際に母語(日本語や英語といった個別言語)を話すときに用いて

いる文法のことを個別文法と呼ぶが、個別文法は普遍文法よりも具体的になっている。

 

言語獲得装置とは、個別言語のデータを入力して、個別文法を出力とする装置である。

 

p117

 

言語獲得とは、生得的に持っている言語の「原理」に基づきながら、母語に合わせて

パラメーターを固定していく過程・・・と見なせる。

例えば、日本語では、lとrの音を区別するというパラメーターは必要ないが、英語で

は必要である。 ・・・原理の部分は遺伝的に脳の神経回路網として決定されており、

残りのパラメーターの部分は環境によって決定される。

 

==>> 要するに、普遍文法というのは人類が生物としての能力の一部として

     生まれながらに持っているもので、どこかの地域に赤ん坊として生まれた

     瞬間からその場における個別言語のデータ入力をすることによって母語が

     形成されるということになります。

     そして、ある一定の年齢になるまでに、その個別言語の文法を教えられなく

     ても自然に学び獲得し、その後学校などで語彙を増やしていく学習に繋がると

     いうわけです。

 

p122

 

湯川秀樹の「中間子理論」は、実験中に宇宙線の中からパイ中間子が見つけられたことで、

証明されたのである。 言語学と脳科学の関係は、この物理学の関係とよく似ている

言語学は言語の法則に関する理論を提供し、脳科学は言語のシステムの仕組みを実験的

に明らかにする。

 

==>> 著者の主張の一部はここにあるように思います。

     つまり、文系とされる言語学と、理系とされる脳科学の双方が協力関係を

     築いてこそ、最終的な言語の解明という理想に到達できるのだとしています。

 

 

p126

 

・・・遺伝行動学の基礎を築いた、堀田凱樹氏の卓見であった。

堀田氏は、行動に異常を起こすショウジョウバエの遺伝子を見つけて、遺伝子から脳、

そして行動に至る因果関係の存在を明らかにした。

遺伝子が神経の回路網を決定し、その構造に基づいて、脳の機能である行動が決定される。

これが脳の決定論である。 「遺伝子―脳―行動」という連鎖を、「堀田のドグマ」

呼ぶことにしよう。

 

p127

 

堀田のドグマは、行動だけでなく、心の機能を含めた脳機能全般について、普遍的に

成り立つと考えられる。 すると、言葉を使う人間の心がユニークであるのは、人間の

脳に秘密があるわけで、そのメカニズムは、やはり遺伝子によって決められることに

なる。  ・・・・「遺伝子―脳―言語」という認識が、言語の脳科学の前提である。

 

==>> この「脳の決定論」という言葉は、すべてが遺伝子で決定されるということ

     ですから、考えようによっては自由意志などというものは無いのだなと

     いうことにもなり、非常に哀しいような思いにもなるのですが、

     いろいろと本を読んだり、自分を振り返って考えるほどに、ますます決定論だ

よなあという気持ちが強くなります。

 

p129

 

生理学・心理学・言語学は部分的に重なり合っており、神経心理学、神経言語学、

心理言語学は境界領域の分野とされ、脳・心・言語を総合的に扱う認知脳科学は、これら

三つの接点に位置しているのが現状である。

 

p135

 

最近の欧米の「言語学」の入門にあたる教科書を見ると、終わりの方の一章は、脳科学

との関連が解説されているものが多い。 日本では、まだこのような言語学の教科書は

見当たらず、研究と教育の両方で遅れをとっている。 

 

==>> ここでは著者・酒井邦嘉氏の日本における研究の遅れについての懸念が

     述べられているようです。

     そこで、最近の日本の学界がどのような動きになっているのかをチェックして

     みたところ、こんなサイトが見つかりました。

     この本の著者も講演者になっています。

     日本言語学会第164回大会公開特別シンポジウム

「言語脳科学が切り開く言語学の未来」のご報告 日時:2022619日(日)

https://uals.net/news/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%a8%80%e8%aa%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e7%ac%ac164%e5%9b%9e%e5%a4%a7%e4%bc%9a%e5%85%ac%e9%96%8b%e7%89%b9%e5%88%a5%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0/

     「言語脳科学が切り開く言語学の未来

近年の脳科学の急速な発展により、⾔語を⽀える脳のメカニズムの実態が明ら

かになりつつある。⾔語学においても、多様な⾔語を対象に理論・記述の両⾯で

研究が進展したことで、徐々に⾔語の実像が解明されつつある。しかしながら、

脳科学実験の⾔語学的な意味づけや、実験に基づく⾔語理論の構築・改訂など、

⾔語学と脳科学が⽣産的な関係を築くための課題は多い。」

 

・・・この本は2002年の出版で、この講演会は2022年ですから、

20年を経ていろいろと研究の進展もあり、学会での議論も盛んになって

きているのだろうと思います。

 

 

p154

 

漢方で五臓と言われるのは、心臓・肝臓・脾臓・肺臓・腎臓の五つの内臓であって、脳は

含まれない。 臓器移植でも、脳の移植が行われることはない。 「脳移植」という誤解

を招きやすい言葉があるが、実際は分裂能力を持つ動物の胎児のニューロンを部分的に

移植して、機能再生を促す技術のことであり、脳を丸ごと取り出して移植することではない。

脳は、臓器とは質的に異なる器官であることを理解しておく必要がある。

 

・・・脳には「個人」の記憶情報が記録されているので、脳がなくなれば体が残っていても

その人はなくなり、脳を提供したドナーの人になってしまう。 脳は、「個」そのもの

なのである。

 

==>> 「脳を提供したドナーの人になってしまう」という言い方は、意味をどうとれば

     いいのか、やや戸惑います。 

     もちろん「脳を受けとった人は、脳を提供した人の脳が記録している人格の

     人になってしまう」という意味であることは、文脈で分かりますが。

     

     脳を取り出して、身体を遠くに置いて、遠隔操作をするという空想の話は

     こちらの本で読みました。

     スキナー/デネット/リベット著「自由意志」

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2022/06/blog-post_26.html

     「p197

その放射線は身体の他の臓器には害を与えないことは明確なのですが、その

ひどい放射線から脳を守るやり方は見つかりませんでした。 そういうわけで、

その装置を取り戻しに送られる人の脳は、他のところに置いていくべきだと

いうことはもう決まっていたのです。

脳は、安全な場所に保存し、そこから精妙な無線通信によって、身体に対する

通常の操作を実行できるはずだということでした。私はそのような、完全に自分

の脳を摘出してしまい、ニューストンにある有人宇宙船センターの生命維持

装置に据えておく外科的処置を受けるべきなのでしょうか。」

 

==>> さてさて、これは著者によるSFの世界の描写です。

          この極秘プロジェクトは、「地球の核を掘り進み、赤い連中の

ミサイル格納庫の土手っ腹に特別設計の核爆弾の攻撃を加える」

というペンタゴンのものでそれに脳の専門家である著者をひっぱり

こもうというお話です。

脳を摘出して、その脳で、自分の身体を遠隔操作しようという話なん

です。

 

 

p177

 

右利きの人の約96%は、言語機能が左脳に局在している。 従って、右利きの人で

失語症が起こるのは、左脳に損傷を受けた場合がほとんどである。

このように、特定の機能が左右の脳のどちらかに偏っていることを、「大脳半球優位性

(機能的一個性)」と言う。 右利きの人の残りの約4%は、右脳が言語の優位半球

あり、右脳の損傷が原因で失語症になるので、「交差性失語症」と呼ばれる。

 

左利きの人は全人口の約7%いる。 ・・・・利き手と言語が関係しているかどうかは

わかっていないが、左利きの人で左脳が言語の優位半球なのは、70%にすぎない。

残り30%のうち、約半分は右脳が言語の優位半球で、残りの半分は言語に半球優位性

がないという。

 

==>> おお、これは初耳情報です。

     私はほぼ全人口が言語機能を左脳に持っているものだとばかり思っていました。

     それに、右利き、左利きがなんらかの関係がありそうだというのも、初めて

     知りました。

 

 

p178

 

音声言語と手話は基本的に左脳を使うが、ジェスチャー(マイム)では左脳と右脳に

差がないことが、シンプルな実験で示されている。

 

p179

 

ジェスチャーのような動作のコントロール自体には半球優位性がなく、復唱や手話に

共通する言語的な機能に半球優位性があると考えられる。

 

==>> つまり、自然言語としての手話と 人工的なジェスチャーでは、あきらかに

     脳の使い方に違いがあるということですね。

     音声言語にしても手話にしても、自然言語の場合は、半球優位性が認められる

     ということです。

 

p187

 

失読失書をひき起こす脳の病変は、古くから左脳の角回に起こると考えられてきた。

・・・角回では、文字の視覚情報を聴覚情報に変えて音読に必要な処理をしているという

のが定説である。

 

p188

 

読字障害は、大人になってもなかなか回復しない。 日本ではあまり知られていない病気

だが、欧米では全人口の5%から10%もの患者がいて、その対策は学校教育を含めて

大きな社会問題になっている。

 

==>> 角回に関しては、wikipediaにはいろんな機能が書いてあります。

     https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%92%E5%9B%9E

     「角回は言語、認知などに関連する多数の処理に関わっているとされている。」

     「角回が隠喩の理解を、少なくとも部分的に担っているという研究を指揮した。

左角回に損傷を受けた右利きの患者は、言語理解は正常に見えるにも関わらず、

隠喩の二重性を理解できなかった。慣用的な隠喩句を呈示しても患者は文字通

りの意味でしか解釈できなかった。」

「脳に対し角回が大きいという事実と、角回の触覚、聴覚、視覚処理における

交差点的な役割から、ラマチャンドランは概念的隠喩と、より一般的なクロス

モダリティー的抽象化の両方に、角回が決定的な役割をもつと考えた。」

「最近の研究において、角回の刺激が体外離脱体験を引き起こす可能性を示し

たものがある。」

     

     読字障害に当てはまるのかどうかは分かりませんが、私が過去に日本語を

     教えた学習者の中に一人だけ、ひらがなやカタカナをきちんと認識でき

     ないのではないかと思える若い男性がいました。

     その人は、筆記テストをやるとほぼ最低の点数になってしまうのですが、

     授業中の音声での応答は大きな声で他の人たち以上に楽しく授業に参加

     できるので、何故なんだろうと不思議でなりませんでした。

 

 

p204

 

人工知能開発には、・・・言語を自由に操れるコンピューターはまだ実現していない

機械翻訳の研究も、世界中で進められてきたが、まだまだ発展途上である。 統語論や

形式文法の知識をできる限り取り入れたとしても、機械翻訳は実用にはならないことが

わかった。

 

単語には複数の意味があるので、文として統合したときに、どうしたら全体として意味

の通るようになるのかがわからない。 

 

==>> WEBサイトでの自動翻訳をたまに使うんですが、2019年に自動翻訳を

     比較して下のようなコメントを書いたことがあります。

     WEBLIOと GOOGLEのAI翻訳の比較

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2019/09/post-4bbb20.html

     「<結論>

私が翻訳の仕事をする場合には、どちらかと言えば、翻訳された文章が一見自然

な文になっていることよりも、すべての原文の語彙が反映されていて、文意が

反対になることがない、たどたどしい訳文の方が安心です。

つまり、上のサイトのNMTの記事の中で、

「このため入力文のすべてが過不足なく訳出されるという保証がない。」

「これは現在のNMTの最大の問題である「訳抜け」によるものである。」

「ある研究では,このような訳抜けが全体のおよそ18%存在すると報告

されている5)。」

「原文と照らし合わせて初めて翻訳誤りが含まれていることが判断できるが,

訳文だけを見ても気づくことはできない。」

・・・という googleAI翻訳の弱点が書かれているんですが、これがネック

ですね。」

 

翻訳会社では、現在どのようなアプローチをしているのかについては、

こちらを参考までに。

機械翻訳の仕組みを解説!直訳タイプ・意訳タイプそれぞれの違いと特徴とは

https://www.fukudai-trans.jp/blog/machine-translation-mechanism/

「直訳タイプ・意訳タイプの後に登場したのが「ニューラル機械翻訳」と呼ばれ

る機械翻訳です。ニューラル機械翻訳は、人間の脳を模倣した仕組みになって

おり「ディープラーニング」と呼ばれる学習法が特徴的になっています。」

 

最近はいくつかのタイプで翻訳に対応しているようですが、最新のニューラル

機械翻訳にも従来の誤訳とは異なるタイプの誤訳が出ているというサイトも

ありました。

まだまだ完全とは言えないようです。

 

 

p213

 

まだ解決していない大問題は、言葉のような「シンボル」の世界を、どうやって

ニューラルネットのようなノンシンボルで表現するかである。 いくらニューラルネット

を眺めてみても、要素となる情報が分散しているために、シンボルを直接表現できていない

わけだが、脳はこの点を巧妙に解決している。

 

脳は、何層ものニューラルネットを積み上げていって、一番上の階層では、少数の

ニューロンの組み合わせで、例えば人の顔といった、具体的なシンボルを表現している

と考えられている。 シンボルとは、階層によって得られる情報表現なのかもしれない。

 

==>> ニューラルネットワークについては、こちらでチェックしておきます。

     ニューラルネットワークとは?基礎や種類、仕組みをわかりやすく解説

     https://souken.shikigaku.jp/12280/

     「ニューラルネットワークとは、人間の脳をモデルにした、パターンを認識する

ための一連のアルゴリズムです。ニューラルネットワークは、入力データから

一定の傾向性を機械的に認識することによって解釈し、入力データにラベルを

付けたり、クラスタリングしたりします。・・・・ニューラルネットワークの

基本的な考え方は、高密度に相互接続されたたくさんの脳細胞をコンピュータ

の中でシミュレート(単純化してある程度忠実にコピー)することで、人間の

ように物事を学び、パターンを認識し、意思決定を行えるようにすることです。」

 

 

p235

 

男女の脳の違いや、左脳と右脳の差は確かに存在するが、巷で流布しているような

話は、たいていは誇張か迷信である。 

日本人が右脳で虫の音を聞くことなどが証明されたことはないし、まして「右脳人間」

となるとSFの世界である。

 

==>> ここでさりげなく鳴いてある説については、私も本を読みました。

     「日本人の脳」 角田忠信著 

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2014/10/post-6df9.html

     「日本人の脳」角田忠信著 -1- 「日本語の音」が脳の働きを決めてしまう!

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2014/06/post-a802.html

     「日本人の脳」角田忠信著- 10  ザビエルが言った「日本語は悪魔の言葉」

http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2014/06/post-5938.html

「日本人の脳」 角田忠信著- 19(完) アーティストは酒も煙草もダメ!!

http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2014/06/post-13a1.html

 

・・・非常に面白い説ではあるんですが、科学的見地からはいろいろと

批判もあるようです。決定的な実証を誰かやってくれないもんでしょうかね。

 

 

p250

 

・・・ブローカ野の活動の差は、文法の間違いを見つけるメカニズムを表わしている

結論できる。

以上の結果から、文法の処理は、言語野の活動を一様に高めるだけでなく、主として

ブローカ野の活動を必要としていることがわかった。

これはブローカ野が文法処理に特化していることを示唆する。

 

p251

 

この脳機能イメージングの実験は、新しい知見を提供できた。 従って、この結果は、

これまで別々に考えられてきたブローカによる言語の機能局在という仮説と、

チョムスキーによる文法のモジュール性という仮説の両方が正しいことを示しただけで

なく、両者の卓見を結び付けることに役立ったと言えるだろう。

 

 

==>> これらの関係の状況をインターネットで検索したところ、ほとんどが

     東京大学のこの著者の関連でしたが、ここに日本大学の実験報告があった

     ので、参考までにリンクしておきます。

https://www.cit.nihon-u.ac.jp/laboratorydata/kenkyu/publication/journal_b/b42.8.pdf

     「人間の言語能力には音韻・語彙・文法・意味などの諸側面があるが,これまで

に,MRIを用いた実験によって,文法能力がはたらく際に上で述べた言語野の

一つであるブローカ野において活動が生じ,さらに,複雑な処理に対しては活動

が高まることが報告されている・・・・・本研究の主な目的は,日本語母語

話者の日本語能力および外国語としての英語能力の解明に向けて,特に,文法処

理に着目したタスクを用いた実験により,ブローカ野において計測された脳血

流変動グラフを提示することである。」

「4.考察・・⑵このことは,照応形を含む文の処理には,照応形に対する何ら

かの文法的条件,例えば構造的条件を満たすかどうか判断するために,ブローカ

野において活動が生じている可能性を示唆する」

 

 

p256

 

言語学的に見ても、手話が音声言語に勝るとも劣らない機能を備えていることは、

ベルージやクリマらによるアメリカ手話の研究によって、実証されている。

 

ネイティブ・サイナーは、考えごとをしたり夢を見たりするときにも、頭の中で

手話を使っているという。 声が届かないところにいる人とも、手話でなら会話が

できるし、雑踏の中でも、雑踏にじゃまされずにすむ。

 

==>> ネイティブ・サイナーというのは、生まれた時から自然言語としての手話を

     使っている人のようです。 

     著者は、アメリカの大学での講演など、専門的で難しい内容であっても、そこに

     ちゃんと手話通訳者がいて、難しい内容が通訳されているのを見て驚いたと

     書いています。

 

p261

 

日本手話では、手の動きと合わせて、顔の表情や口の形、うなずきなどの頭の動き

(非手指動作)を同時に使うのが普通である。 これは、副詞としての意味を

付け加えたり(例えば、「懸命に」「気楽に」など)、文節の切れ目や疑問文などの

文法的なはたらきを持っているのだ。

アメリカ手話などにも同じような特徴があって、手話の情報量が音声言語と比べて

勝るとも劣らないものになっている。

 

==>> 日本手話については、先に読んだ本に紹介されていました。

     高田英一著「手話からみた 言語の起源」

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2022/07/blog-post.html

     「p038

一般的にろう学校で手話を活用すれば、それはすなわち手話教育と思われて

いますが、そうではありません。 手話教育には理念、理論、技術が必要ですが、

それは平成の現在でもまだ未完成で、日本で実践された経験は、実はないのです。

・・・口話教育とは、ろう者といえども「読舌、発音」、つまり対面する相手の

唇を読み取り、口で発音することを強制する教育です。同時に手話を差別し、

それを使うろう者の先生をろう学校から追放するなどろう者差別を激化させた

教育です。」

・・・・この本では、高田氏が当事者の立場から、教育に関して批判的な

主張を述べています。 自然言語である日本手話がないがしろにされて

きたという歴史を踏まえてのことです。

 

 

p265

 

ろう者の使う日本手話と、中途失聴者の使うシスコムは、全く違う言葉なのである。

この二つを無理にまとめて「手話」と呼ぶことは、大きな誤解を生みやすい。

それから、一般にはほとんど知られていないことだと思うが、テレビでよく見かける手話

の放送は、日本手話とは似ても似つかない一方で、シスコムとも違った「人工言語」で

あることが多い。 

これは、ろう者と中途失聴者の両方に理解できるように、日本手話とシスコムの折衷案

として工夫されたためである。 しかし、裏を返せばどちらの人にとっても中途半端

な「手話」にすぎない。

 

==>> 手話に関しては、教育の場でも、公共サービスの場でも、いろいろと難しい

     場面があるようです。特に手話通訳者の専門的サービスについては、資格や

     報酬の面での課題がいろいろあるようです。

 

 

p267

 

手話の本格的な脳研究は始まったばかりだが、手話の脳での処理は、基本的に音声言語

と変わらないと考えられている。

 

p300

 

言語能力が遺伝的に決まっているとしても、自動的に言葉が話せるようになるわけでは

ない。 適切な時期までに、言葉のある環境に接していなければ、言語を獲得すること

は非常に難しくなる。

 

==>> 音声言語も手話も自然言語として脳内での処理は基本的に同じであるようです。

     そして、どちらも生得的なものがあって、生まれたあとにタイミングよく

     音声あるいは手話での言語形成の環境がなくてはならないという話になります。

     もしそれがなかったら、驚くほど言語を吸収する能力があるのに、言語を

     使う能力が無駄になることさえあるようです。

     特に耳が聞こえない赤ちゃんだった場合は、すぐに自然手話を獲得できる

     環境を作らないといけないようです。

 

 

p301

 

言語獲得のさまざまな研究を総合すると、だいたい六歳までに言語獲得の爆発的な

ピークがあると言われていて、習得される単語の数も、三千を超えるほどある。

しかし、思春期以降は、その能力が急速に衰えてしまう。

 

最近の早期教育の過熱が必ずしもよい結果だけを生むとは言えないが、言語獲得にとって、

幼稚園から小学校にかけての環境が大切なことは確かである。

 

p302

 

7歳までにアメリカに来た人は、ネイティブ・スピーカーと差がなかったが、それ以降

は、年齢が上がるにつれて成績がどんどん落ちていき、個人差が大きくなった。

 

この知見は、7歳頃が母語と第二言語の境を決める感受性期であることを示しており・・

 

==>> 自分の子どもをバイリンガルにしたければ、7歳までということですね。

     私が見て来た経験でいうならば、国際結婚をして子どもが生まれたら、

     両親がそれぞれの言語を使って赤ちゃんに二つの言語環境をつくるという

     努力が必要であるようです。

     例えば、家の外に英語の環境があるのなら、家の中では日本語を使う環境を

     意識的に作ることが大事なようです。 特にお母さんが家庭にいるので

     あれば、お母さんの役割が大事になりそうです。

 

p304

 

脳の発生では、感覚器官からの入力と運動器官(筋肉)への出力によって必要な調整

を受けながら、神経回路ができてくることがわかっている。その意味では、言語獲得は、

発生と同じような遺伝的プログラムによって決定されることになる。

 

==>> つまり、赤ちゃん初期の段階では、ほとんどが生得的な動きで言語獲得が

     進み、しばらく経つと、環境からの刺激が必要な割合が多い段階になると

     いうことですね。

 

p310

 

・・・・はトリリンガル(日・独・英)である。

お母さんは日本人、お父さんはドイツ人で、彼はアメリカで育った。

何語で夢をみるのか聞いてみたところ、お母さんが出てくる夢のときは日本語、

お父さんが出てくるときはドイツ語で、友達が出てくるときは英語なのだそうだ。

 

 

p313

 

第二言語の獲得はバイリンガルの言語獲得と本質的に違うことが予想される。

大人になってから英語を覚えるときに、英文法から始めるのではなく、幼児と同じように

「英語のシャワーを浴びれば」英語が身に付くという説があるが、それでもバイリンガル

の能力にはかなわない。

 

==>> これはまあ凄いですね。

     私は日本語ばかりです。英語の夢を一度でもいいから見てみたいものです。

     「英語のシャワー」という英語学習法があるのは昔から知ってはいますが、

     私自身は非常に懐疑的です。

     大人になってからでは遅すぎます。

     ちなみに、私が日本語を教えた経験から言うならば、30代、40代の

     学習者は、20代の学習者の吸収力には遠く及びませんでした。

     

 

p317

 

なじみの深い方の言語の方が失語症の症状が重く、長く続いたという報告もある。

・・・イタリアの患者は、ヴェネツィア方言を母語として使ってきた。 脳卒中の後、

この母語がほとんど話せなくなったのに、あまり慣れていないはずのイタリア共通語

では会話ができるというから驚きである。

 

・・・大脳基底核は母語を発話するときの自動的なはたらきがあって、このメカニズム

がうまくはたらいていないのかもしれない。 第二言語の方は、意識的に調整する必要

があるので、大脳基底核の損傷の影響をうけずに、あまり障害がみられないと考え

られる。

 

==>> ほお~~、第二言語を話せることが、こういう場合に身を助けてくれる

     こともあるんですね。

     日本語の方言を母語として、標準語を第二言語としたいる場合はどうなの

     でしょうか・・・・・あまり期待できそうにはないですね。

  



さて、図書館から借りて来た7冊目の本を読み終わりました。

 

脳科学の本は、理系と文系の橋渡しをしながら、実証的に課題をクリアしていくので、

仮説から実験などでの検証を経てひとつひとつ実証していくので年数がかかるのが

なんとももどかしいのですが、それだけ信頼するにたるアプローチなので納得できます。

 

しかし、仮説というのは、例えば哲学的理論や宗教的理論から派生してくる場合も

あるので、科学者といえどもどこに研究のネタがころがっているのか、とっかかりを

見つけられるのかが勝負なのかもしれません。

特に、言語学のように今までは文系だから科学的アプローチはなじまないと思われて

いたものが、そうではないということになればなおさらです。

実際に、物理学者で哲学者というような天才は世界にたくさんいるようですからね。

 

===== 完 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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