橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―3― 漢字の呪力、中国は文民統制、日本人は「自分次第」が35%、武士はアメリカへ

橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―3― 漢字の呪力、中国は文民統制、日本人は「自分次第」が35%、武士はアメリカへ

 

 


 

第1部の7「科挙と宦官の謎」から読み進めます。

 

p066

 

中国の人びとは、リーダーは有能でなければならないと固く思っている。

これは第一公理だった。 さて、トップリーダーが世襲で有能でなく、ブレーンが

有能という組み合わせの場合、全体としては、まあ合格。

じゃあ、なにかの間違いで、トップリーダーはもとより、ブレーンもそろって

無能だった場合、なにが起こるか。

この場合には、政府の「全取っ替え」が起こる。 これが「易姓革命」といわれる

もので、農民の総意なんです。この点、中国の人びとはまったく容赦がない。

中国の歴史は政府の交替の歴史、革命の歴史である。

 

政府は交替するんだけど、プリンシプルは不変だから、また似たような政府ができる。

 

==>> これは、見方によっては、非常に民主的ですね。

     農民が、我慢の限度を超えたら、政府をひっくり返すってことですから。

     そこが中国がマルクス主義と相性が良かったということも述べられています。

 

     ここで易姓革命を確認しておきます。

https://kotobank.jp/word/%E6%98%93%E5%A7%93%E9%9D%A9%E5%91%BD-36187

     「中国数千年の歴史のなかで繰り返されてきた王朝交替のこと。王朝にはそれ

ぞれ一家の姓があるから、王朝が変われば姓も易()わる(易姓)。徳を失って

天から見放された前王朝を廃することは、天の命を革(あらた)める行為である

(革命)。」

 

・・・・ここで「徳を失って天から見放された」というところが肝になりそう

です。

 

少なくとも、日本の歴史の中では、このような意味での革命はなかった

ようですね。

 

 

p067

 

能力を測るには、統一的で不変の基準で、選抜しなければならないから、出題範囲は

古いテキストが望ましい。儒教の古典は、古いうえに、どういう政治を行ったかの記録

なので、これ以上ふさわしい試験はない。

 

もうひとつ、日本人にわかりにくいのは、中国社会が多様で、相手の行動が予測

しにくいということです。 日本は同質性が高いから、こんな試験をやらなくても、

相手の行動はかなり高い確度で予測できる。 でも中国では、予測できない場合が多い。

そもそも相手が何をしゃべっているかさえ理解できない

 

これは現代中国でもそうで、・・・・・中国の方言は、方言なんてなまやさしいもの

ではなくて、外国語と考えたほうがいい。

 

==>> これは科挙の試験がなぜ続いたかということについて述べています。

     音声言語としてはさまざまな方言があって理解不能だけれども、

     漢字で書かれた儒教の古典なら広く読まれているという背景があるようです。

     内容が過去の政治についての記録だというのはなかなかいいですね。

     日本の政治家も、日本史や世界史の、特に政治史をしっかり理解した上で

     選ばれるべきなのでしょう。

 

 

p070

 

皇帝がたしかに血統によって、その地位を継承していると、中国の人びとが確信できる

必要がある。 血縁カリスマが機能するには、その「証明」が必要なんです。

そこで、皇帝の奥さんたちを全員、高い塀で囲んだ場所に閉じ込めて、

・・・出入りできるのは、女性と宦官だけ

 

天皇の奥さんたちは、垣根などなくて、ふつうに暮らしていた

源氏物語に、天皇の奥さんのもとに恋人が夜中に忍び込んで行って、生まれた子ども

が天皇になった、・・・・

 

・・・日本は、トップである天皇さえも血縁の連続性が必ずしも保証されていない。

そのかわり、逆に行政官僚にはゆるい血縁性がある。 ちょうど中国のやり方を

白黒反転させたみたいな状態になっていますよね。

 

==>> 江戸時代の武家社会の大奥という話は普通に聞きますが、そういえば

     天皇家の制度がどうなっているのかという話は聞いたことがないですね。

     まあ、天皇家は統治ということに関して、実質的に意味を持たなくなった

からってことなんでしょうか。

 

p073

 

中国の歴史においてはほとんど常に、物理的な暴力をもっている軍人よりも、

文民である官僚が皇帝の方が権威が高く、権力ももっている、ということです。

近代政治の用語を使えば、文民統制がきちんと利いている

 

==>> この辺りは、軍部が独走した日本とは違うようですね。

     天皇の軍隊であったはずなのに・・・・・

 

 

p076

 

人間はどんどん死んで世代交替していくけれど、神は永遠に生きているから、それで

永遠不変なんです。 神が時間を超越しているから、契約は時間を超越できる。

 

さて、中国にはこういう意味での神(God)はいない。 そのかわり「天」がある

天も永遠不変なんです。 でもなぜ中国は、一神教みたいに時間を超越した普遍志向に

ならなくて、過去志向になるのか?

 

天が何をするかというと、政府に統治権を授与する。 それだけなのです。

 

 

天の意志を問題にしなければならない。 『孟子』などの考えを要約すると、その

実体は、農民の総意である。・・・・農民が不満をつのらせれば、革命が起こりうる。

この繰り返しなんです。

 

==>> なんだか、こういうところに、今の中国の政治が、民衆を恐れる意味が

     あるように思えてきました。

     14億の民を必死にコントロールしようとする目に見える現象と、

     その反対に、民衆を恐れる雰囲気が伝わってくるようにも見えます。

 

p078

 

日本では、軍事力なり経済力なり、「実力」をもった人が統治の実権をもつのが基本で、

それ以外の人は統治権をもあない。

まず、古代の豪族。 大和朝廷。 藤原氏。 ・・・・・・

 

==>> 要するに、天とか徳とかいうよりも、力を持っている者に巻かれろと

     いう感じなんですかねえ。 日本じゃ、民衆の革命という歴史はない

     ですからね。

     どうも、そういう日本人の性格が、民主主義より社会主義に向いているんじゃ

     ないかと、昔から時々思ってきたんですけど・・・・

 

p081

 

中国の官僚制は、官僚の能力がすばらしいからというよりも、それ以外のオプションを

排除するために、合意されたものだと思う。

 

==>> ここで「それ以外」というのは、戦争が例示されています。

     中国人は実力のぶつかりあいが発生しやすいけれども、いつまでも

     戦争をしていてもしょうがないから、「特に軍事力はいけない」という

     ルールを決めて競うという話になっています。

     台湾侵攻がないことを祈ります。

 

p083

 

中国の政治は、能力のある人びとが大勢いた場合、誰が誰より偉いかがすぐ決まる

(もう決まっている)というところに本質がある。

そうやって、無用な政治闘争が防がれている。

 

日本にはこんな慣例はないから、首相以下の閣僚で誰が何番か、よく分からない。

 

==>> 確かに、中国の場合は、序列がはっきりしていて分かりやすいですね。

     その点、日本の場合は、首相を裏で動かしている黒幕と呼ばれる人が

     いるとかいないとか・・・・

     戦争中なんかは特に、誰に責任があるのかすら分からない状態になって

     しまっていた。 今でも時々政治の話題になることですが、責任者と

     おぼしき人間が部下に責任を押し付けてしらんぷりを決め込んだり・・・

 

 

p085

 

漢字というのはいったい何なのか。 これが難しい。 しかし、これを考えて

おかないと、中国がわからない気がします。

 

人類史にとっていちばん大きな画期になったのは農業かもしれません。 しかし、

発明物として農業よりもっと偉大なものは文字じゃないかと思うんです。

 

p086

 

独自に文字をつくったところは非常に少ない。 ・・・人類史の中で、

四つしかありません。

 

==>> ここでいきなり漢字の話になるのですが、中国は漢字を発明したことが

     非常に大きな意味を持つといっているんです。

     日本語は、文字については借り物ですからね。

 

 

p087

 

外国人みたいに言葉が通じない人びとばかりのとき、表音文字を使うと、各言語を

表記できる。 でも音がわかったところで、意味はわからない

中国はそういう戦略をとらずに、絵みたいな文字を作った。

 

・・・そしてこの文字を、それぞれの言語の読み方で読むことにした。

これが漢字。

 

==>> 日本へ漢字が伝えられた時には、広い中国のあちこちに散らばった

     日本人僧侶たちが、それぞれの地方の音を持ち帰ったために

     同じ漢字が異なる音で読まれるようになって、複雑さを増していることは

     よく知られていることです。

     

     私がここでふと思い出したのが、もう20年も前に、日本語教授法を学んで

     いた頃に読んだこちらの「二重言語国家・日本」という本でした。

     内容はほとんど忘れたので、こちらのサイトの読者コメントから一部を

     紹介しておきます。

https://www.amazon.co.jp/%E4%BA%8C%E9%87%8D%E8%A8%80%E8%AA%9E%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E3%83%BB%E6%97%A5%E6%9C%AC-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%9F%B3%E5%B7%9D-%E4%B9%9D%E6%A5%8A/dp/4122055792

     「日本語も英語と似た状況にある。即ち、漢字で表記される語彙と仮名で表記

される大和言葉が重なっている。たとえば、情況によっては「収入」と「みいり」

が同義語として使われる。日本語は、音声と漢字の両方によって支えられた言語

である。「かんじ」という音だけでは意味を取りにくくても、「漢字」・「感じ」・

「監事」・「幹事」などのように漢字で表記すれば、直ちに意味が伝わる。日本語

とその表記が漢字に支えられ、漢字によって語彙が豊かになってきたことは

事実である。ヨーロッパの言語に比べて、日本語では音韻の数が少ないので、

同音異議語が多く、それらを区別するのに漢字の果たす役割は絶大である。」

 

・・・聞くところによれば、中国語は漢字の音は決まっているので、このような

同音異義語はないということらしいのですが、日本語の場合は、人の氏名ですら、

「どう書けば宜しいですか」といちいち尋ねてみるしかないという

やっかいな状態になってしまっています。

そして、多くの場合、音声を聞いたら、頭の中で漢字を描いてみないと

意味が分からないということもあります。

よくまあ、日本人は、こんなに煩わしいことを毎日やっているもんだと

思います。

 

 

p090

 

中国においてそのスローガンが人の心をとらえている理由は、漢字の呪力にあるように

思うのです。 そのとき、漢字は、便利な記号以上のものになっています。 漢字と

いうものに惹きつけられている人たちが十何億かいて、それでもって、「改革開放」

というようなスローガンが効く

 

 

p091

 

新しい漢字はまず登場しない。 新しい概念も、古い漢字の組み合わせで表現する

ということは、世界は漢字によって意味的に分節されていて、それは永遠不変だと、

漢字を使う人びとは信じているんじゃないだろうか。 

これが表音文字なら、新しい概念はつぎつぎに現れてくる

 

中国語の大事な特徴は、概念の数だけ漢字があり、それが一字一音だということです。

 

==>> これは言霊のようなことを語っているのでしょうか。

     言霊を辞書でみると「言葉にあると信じられた呪力」となっていますから、

     やはり言霊ということですね。

     元々漢字が出来たのが、紀元前1300年ごろの甲骨文字だそうです。

     日本では縄文時代ですね。

     そういう時代であれば、漢字が呪術的な意味合いをもっていたとしても

     納得できるような気がします。

     そして、それが、中国人の身体にしみこんでいると考えるのも不思議じゃない

     と感じます。

     何かの意味が分かるということは、概念が頭の中に浮かぶことだと

     思いますので、そこに言霊が含まれるというのは分かるような気がします。

 

     意味ということに関しては、結論が出るわけもないのですが、

     下のブログのページに、ある時に「ああ、そうか」と思ったことを

     一旦まとめてみました。

     「意味とはなにか」「意味の意味」を読書テーマにして

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2022/07/blog-post_31.html

 

 

     ここで重要だと私が思ったのは、「世界は漢字によって意味的に分節されていて

     というところです。

     つまりは、発想そのものが制限を受けているということなのでしょう。

     

p094

 

(ベルギー人)が日本人の学生にフランス語を教えたとき、伝言ゲームのようなもの

をやらせたところ、彼らは、小さな声でフランス語の単語を発音しながら、

指でそのスペルを宙に書くような動作をする。

それに彼女は、びっくりした。 音声の会話を教えているのに、なんでこの人たちは

スペルを・・・と。

 

日本人は文字を覚えないと、その言葉を覚えた気分にならないので、まずスペルを

覚える。 それで、たとえばフランス語で「「libre」と言われたら、そのスペルを

頭の中で思わず書いてしまう。

これは、日本人が漢字を使うからですね。

 

==>> ここですぐに思うのが、中国人は日本人と同じなのかってことなんですが、

     この後に、中国語は一字一音だから、音声と概念が結びついているから

     日本人みたいなことにはならないと説明があります。

 

     つまり、音声=漢字=概念ってことになりますね。

     日本語の場合は、音声があっても同音異義語がたくさんあるから、こうは

     ならないってことです。

 

 

p101

 

日本人は、「リーダーは有能でなくてよい」。 いやむしろ、「リーダーは有能でないほう

がいい」と思っている。

「リーダーは有能でない」のに、この社会は維持できるのか。 大丈夫。

日本人は、「自分ががんばるからいい」と思っている。

 

でお、安全保障はそんなに甘いもんじゃない。自分が努力したってダメなものは

ダメなんだけど、日本人の場合、なぜかそう思っているんじゃないのかな?

 

船が比較的順調に進んでいるときは、無能なリーダーはかえっていいということに

なるんだけど、嵐のなかにいるときんい無能なリーダーだとほんとうは困る。

 

 

==>> 前段の部分は、確かにそうだと思う反面、お上のやることには

     なんとなく空気を読んで従ってしまうような気もするし・・・

     まあ、少々のことなら黙っていたほうがいいやって感じはありますね。

     現役の人たちは、面倒臭いから関わっていられないという現実もある

     でしょうし。

     後段の部分は、確かに「自分が頑張るからいい」ってことにはなりませんね。

     無能な上に、無責任では困る。

 

p102

 

自分たちががんばるから、という考え方は、どちらかというと、農民の論理、

ムラの論理だ。 ムラはセキュリティに責任をもたないから。 

この考え方が成り立つためには、セキュリティに責任をもつ誰かが別に必要で、

伝統日本ではそれは武士だった。

 

戦後日本では軍隊がなくなった。 ・・・武士はどこへ行ったか? 

武士にあたる存在は、アメリカになった。

 

p103

 

そうすると、日本人に、日本の首相よりもアメリカの大統領が誰かが

重要・・・・、まあ実際そうかもしれませんね。

 

==>> 確かに、これは、まあ、実際にそのようですね。

     今でいうなら、バイデンがいいのか、トランプがいいのかという選択。

     しかし、日本人が選択できるわけじゃない。

     なりゆき任せの無責任体制・・・ってことになるんですかね?

 

 

p103

 

儒教は人間性を無視している面もある。 過剰な政治重視は、犠牲になるものが

あっても甘受するという意味ですから、そうすると、商業の社会的な地位は

低いし、文化は二の次だし、家族もある程度犠牲にしなくちゃいけない。

 

そこで、道教が生まれる。 道教は、ひと口で言えば、ウラ儒教。

道教は、政治重視でなく、個人救済。 その手段は、オカルトで、まあ、敗者復活戦

みたいなものです。

あと、仏教がある。

 

これらが複合して、中国人のキャラクターをつくっているような気がする。

 

==>> 道教がオカルト的であるというのは知りませんでした。

     フィリピン・バギオ市近郊には、二つのお寺があるんですが、

     ひとつは道教で、もうひとつは臨済宗らしき仏教です。

     まあ、印象から言っても、お寺の外観から言っても、道教のほうが

     賑やかで流行っている感じがします。

     

     まず、その道教のお寺は、こちらで:

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2012/04/post-6b76.html

 

     そして、こちらが仏教のお寺

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2012/04/baguio-buddha-t.html

     「中国福建省の臨済宗のお寺で修業をした僧侶が バギオの碧瑶普陀寺に

来ているらしいという情報が得られました。」

 

 

 

p104

 

よく知られている調査データに、次のようなものがあります。

「幸せに生きられるかどうかは自分次第なのか、社会の秩序が必要なのか」と

問うと、日本以外の国、アメリカもヨーロッパも中国も、6~7%しか「自分次第」

という人が出てこないんだけど、日本では「自分次第」という人がだいたい35%

以上いるんですよ。

 

このデータは非常にふしぎで、日本人が自己決定的だということを示しているわけ

ではない。 むしろ、われわれほど自己決定的でない存在はおらず、われわれほど

依存的な存在もいないような気がします。

 

つまりわれわれは平時しか想定しておらず、安全保障の必要も考えておらず、・・・

 

平時しか想定していないがゆえに何かというと「想定外」という言い訳が出て

くるというのは原発問題とかにも絡みますね。

 

==>> 本当に、「想定外」という言葉は嫌ですねえ。

     原発であれでしたから、安全保障に関して真面目な、突き詰めた議論を

     国会議員がしているとも思えないし・・・・

     外交で戦争を回避できるだけの秘策があればいいんですけどね。

     そこまで具体的に考えている政府機関はどこなんでしょうか・・・・

 

 

 

では、次回は「第2部 近代中国と毛沢東の謎」を読んでいきます。

 

 


 

==== 次回その4 に続きます ====

 橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―4― 取り替えられない天皇、取り替えられる皇帝、 神々の子孫なのか、天命なのか、 共産党は教会? (sasetamotsubaguio.blogspot.com)

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

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