橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―4― 取り替えられない天皇、取り替えられる皇帝、 神々の子孫なのか、天命なのか、 共産党は教会?

橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―4― 取り替えられない天皇、取り替えられる皇帝、 神々の子孫なのか、天命なのか、 共産党は教会?

 

 

「第2部 近代中国と毛沢東の謎」に入ります。

 

 


 

p110

 

もともと、中国は明らかに先進国だった。 というより、中国は、世界史的な見地から

見ても、他の文明や地域に対して後塵を拝している時代のほうが珍しくて、ほとんど

常に世界の文明のトップランナーだったと言っていい。

 

それなのに、近代化に関しては、かなりの遅れをとってしまった。

今でこそ、中国のGDPは世界第二位ですが、・・・

 

 

フクヤマによると、民主的な制度が骨抜きにならないためには、三つの条件が必要

です。国家がちゃんとあること、➁法の支配が成り立っていること、➂政府が

被支配者に対してアカウンタビリティ(説明責任)をもっていること。

 

(ここでフクヤマとは フランシス・フクヤマのことです。)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%AF%E3%83%A4%E3%83%9E

 

三つの内の後の二つ、つまり方の支配とアカウンタビリティについては西洋に起源

があるんだとする。 しかし、国家に関しては、西洋より中国のほうが圧倒的に

先であったと言っている。

 

==>> まあ、秦の始皇帝の時代に中国では国家ができたとみているわけですから、

     これは納得できますね。

     日本の場合は、説明責任という言葉はよく聞きますが、本当にそれを

     実行しているかというと、はなはだ無責任という感じが否めません。

 

 

p115

 

中国では伝統的に、トップ官僚を目指す知的エリートの人びとと、中国の血縁関係の

中で生きていくのが自分の人生のすべてだという人びとと、大きく二つの層に分かれ

ていますよね。

 

一般の人びとのほうが圧倒的に大きくて、彼らは根本テキストを読めない

 

p116

 

日本の場合、近代化の担い手は超エリートとそうじゃない人の中間みたいなところ

から出てきました。幕藩体制の下で下級武士だった人たちですね。

 

==>> このあたりは、日本の識字率が他国に比べて非常に高かったとか、

     藩校やら寺子屋などが庶民にも開かれていたということなどが、

     折に触れて出てきます。

     江戸時代の識字率!日本は世界のトップクラスだった

     https://www.pt-jepun.com/history/kiji8907.html

     「「6歳以上で自己の姓名を記し得る者」の比率は

     男子89% 女子39% 全体64%

     「海外の識字率は相当低かったようですね。

1837年当時のイギリスでは、庶民の識字率はナント10%25%ぐらい!

1790年ぐらいのフランスでも、40%程度だったようです。」

「ラインホルト・ヴェルナー(ドイツ(プロイセン)海軍士官)

われわれが観察したところによれば、読み書きが全然できない文盲は、

全体の1%にすぎない。」

 

p116

 

イスラムの場合、根本テキストはコーランでしょ。それは、文字で書かれているけれど、

表音文字なんですよ。そして、朗誦される。

コーラン本文にしても、朗読すべきものなんですよ。すべての民衆に届くんです。

それに、コーランは法律でもある

 

p117

 

中国は、ここまで強力なテキストをもってはいない。 まず、経典は漢字で書かれている

んだけれども、これを読める人と読めない人がいる。 そして、経典は朗誦されるものでは

ない。 たくさんの方言があるので、中国をオーラル言語で統一することはできない

 

経典の意味内容を理解できる知識人と、理解できない庶民とがいる。

ここで、儀式が大きな役割を演じる。儒教の言い方だと「礼」なんですけど、

パフォーマンスなんです。 年中行事なんかにもこうしたものが織り込まれている。

 

==>> ここはちょっと興味深いところです。

     朗誦することによってイスラムの法律が庶民に伝えられる。

     一方、儒教の場合は、内容を理解できない庶民に対しては儀礼の中で

     身に着けさせる。

 

     日本の仏教の場合は、まさにこの中国式ですね。

     仏教経典は般若心経にしたって、坊さんが発声する音声を聞いても、

さっぱり分からないし、専門家が解説する内容も千差万別のようですし、

それでも有難がって聞いている。

 

般若心経については、私が過去に読んだ本の感想文をこちらにアップして

います・・・

「般若心経」の本(1)  すっげ~~! 坊さんがメッタ切り

http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2011/12/post-e49a.html

 

 

p118

 

法律はどうか。 中国の場合、法律は「政府の命令」なんです。 政府の命令だから、

場当たり的で、テキストに書いてあることそのままではない。

・・・テキストに書いてあることは一般原則と道徳なので、それを具体的な政府の

命令に書き直すのは、政府の担当者、官僚の役割なんです。

だから、法律はしょっちゅう変わってしまう

 

民衆が従うのは法律よりも道徳で、不文律だから。 不文律の部分は、政府といえども

変えることができない。

 

==>> 最近よく「法の支配」という言葉を聞きますが、どうやら、日本人的に

     理解しているものと、中国人的な理解は、かなり異なっているようですね。

     法律がころころ変わるから、中国人はそれに対策するということみたいですね。

 

     中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか

     https://www.dir.co.jp/report/asia/asian_insight/101101.html

     「元々は国に政策があれば、国の下にいる国民にはその政策に対応する策が

あるという意味だが、現在は「決定事項について人々が抜け道を考え出す」

いう意味でほとんど使われている。」

「そもそも中国の法整備はまだまだ発展途上で不十分なところが少なくない。

当面は問題が顕在化するたびに、ひとつひとつその芽を摘み取っていくほか

はないのかもしれない。」

 

 

 

p124

 

むろんこれはミイラ取りがミイラになるテイタラクでした。

同じく、帝国陸軍の野放図な大陸進出に批判的だった亜細亜主義者らも、盧溝橋事件

後の近衛新体制運動下で、政府に逆らって獄死するより、米国の脅威を取り除いた

暁に大陸進出のあり方を本来の道へと修正しようという理屈で、次々に政府翼賛へと

転向した。

 

もうひとつ例を出せば、吉田茂もそうです。

・・・対米自立化は単に絵に描いた餅にすぎませんでした

 

==>> う~~ん、そういうことだったんですね。

     以前、緒方貞子著「満州事変」を読んだのは、私の父・姉・兄が

     満州からの引揚組だったからでした。

     その当時の庶民の中にある政治的な環境がどういうものであったのか、

     その雰囲気が知りたくて読んだのでした。

     その中に、ここでいう亜細亜主義のひとつと思えることが書かれていたの

     ですが、かなり理想論的で、下のリンクにある「元来のアジアとの平和協調

路線(興亜論)」であったのだろうと推測します。

https://www.weblio.jp/wkpja/content/%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E4%B8%BB%E7%BE%A9_%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81

 

     私がバギオ市での講演会で、子供時代にバギオ市の収容所に入れられたと

いう中国系の医師から聞いたところでは、「日本の理想は素晴らしかったが、

やったことは最悪だった」という内容でした。

 

 

p128

 

天皇は、神々の子孫だという点が大事。 記紀神話の神々と、血縁関係にあるのです。

そして日本人も、神々の子孫ということになっている。

それなら、天皇と日本人も、血縁関係にあることになります。

 

ゆえに、日本人は、天皇をシンボルにすれば、自分たちを日本民族と意識できる。

このロジックを、江戸時代の儒学や国学は苦労のすえ編み出した

 

これにひきかえ、中国の皇帝は、天と血縁関係がない。 そもそも天には神話がない。

ゆえに、人民と、運命的なつながりを持たない。

人民は皇帝を取り替えてもよかった

 

人びとは儒教道徳に従って、自分を大きな血族集団・・・の一員と考えており、

そこに属する人びとの福祉を最大の目的に生きている。

 

p129

 

歌舞伎町では、中国人マフィアが、上海幇、福建幇、北京幇、東北幇と出身地別に

わかれて、互いに抗争していたんです。

・・・異国の地で警察やヤクザに挟撃されながらも、決して共闘したりしない

中国マフィアに、日本のヤクザたちが呆れていた・・・

 

==>> ここでは、日本と中国での、コミュニティの在り方の根本的な違いを

     述べているのですが、中国マフィアの話には驚かされますね。

     つまりは、幇という疑似兄弟や血縁関係の繋がりの強さが現実の生活の中に

     根を下ろしているということのようです。

     もう20年ぐらい前の話ですが、中国系フィリピン人の女性が、

     フィリピンでは結婚相手がなかなか見つけられないということでした。

     相手が中国系じゃないとダメだという理由でした。

     

     日本の天皇に関しては、私の関心事として、そもそも天皇とは何なのか

     という興味があるのですが、何冊か読んでいても、なかなか核心部分には

     たどり着けません。

     その内の一冊がこちらです:

     熊谷公男著「大王から天皇へ」を読む

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2023/02/blog-post.html

 

     それほど巧みに、いわゆる幻想の世界が築かれてきたと言うことに

     なるのでしょうか。

     もっとも、日本に文字が無かったころまで遡る歴史の話なので、

     無理なのでしょうが・・・・

 

 

p131

 

中華帝国は、農民の日常の生活やコミュニケーションを支配しようなんてさらさら

思っていない。 しかし、国民の連帯にとっては、そういうレベルがものすごく

重要になる。 

 

中国は、帝国の浅い統一性については、異常に早くから成立した。しかし、国民の

深い統一性については、今度は、かなり遅かった。

 

p133

 

現在、中国人というナショナル・アイデンティティが存在するというのは、

いったいどういう次元での話なのかがよくわからないのです。

 

==>> ここでは、中国人留学生の話が出ていて、朝鮮族の人たちの間にある

     迫害の歴史について述べられています。

     これは、今現在も進行中とされる新疆ウイグル自治区での人権問題にも

     通じると思われます。

     では、なぜ中国共産党はそのようなことを行っているのか。

     こちらでチェックしておきましょう。

 

     ウイグル問題とは何か =「深刻な人権侵害」

     https://www.theheadline.jp/articles/692

     「共産党が新疆ウイグル自治区に介入する背景に、一帯一路における中枢都市

であることや豊富な天然資源があるのは見た通りだが、なぜそれがテュルク

系ムスリムの弾圧につながるのだろうか。言うまでもなく、テュルク系ムスリム

独立運動やナショナリズムを防ぐためでもあるが、より大きくは中国共産党

の宗教観や宗教政策に深く関連している。」

 

・・・個人的に頭に浮かぶことは、もしかしたら中国は、アメリカの現状を

反面教師にしているのではないかと思えます。

つまり、アメリカを政治的に分断している大元には、科学vs宗教の争い

あるように見えるからです。

     リチャード・ドーキンス著「神は妄想である」

     http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2021/03/post-5d9d05.html

     「・・・1999年に行われたギャラップ調査では、アメリカ人に対して、

その他の点では十分な資格を持つ次のような人物に投票するかどうかが質問

された。

女性(95%は投票する)、ローマ・カトリック教徒(94%)、

ユダヤ人(92%)、黒人(92%)、モルモン教徒(79%)、

同性愛者(79%)、無神論者(49%)という結果だった。

・・・しかし無神論者の数は、多くの人が気づいているよりも、もっと

はるかに多く、とくに高い教育を受けたエリートのあいだに多い。」

 

 

  p136

 

中国の人びとは、自分がなにものかを、同心円の構造で考えます。まず自分が、

周とか張とかの姓をもつ、血縁集団の一員だと考える。 つぎに、言葉や文化の

特徴をもつ、町や地方の出身だと考える。 それから、漢民族、満州族・・・など

民族のアイデンティティがあって、さらに、清とか中華民国とかの政治的国家がある、

というふうに多重なのです。

 

日本には、中国的な血縁集団がないうえ、地方差も少ないので、「個人―国家」の

二段階しかない。

 

 

p138

 

マルクス主義を下敷きに、中国流の革命を進めるのが「毛沢東思想」。

・・・中国共産党が革命を進めるというかたちで、中国のナショナリズムが完成した。

政治の主導によって「中国」の「革命」が課題として設定され、それを担う主体として、

「中国人民」が生み出されたのです。

 

==>> 日本と違って、上記のような意識をもつ多民族の人たちが広い地域に

     住んでいるわけだから、バラバラな意識をまとめるのに、表意文字である

     漢字と革命思想が不可欠だったというわけですね。

 

 

p140

 

太平天国の乱、国民党、中国共産党。 この三つには共通点がある。

第一に、政治革命の組織で軍隊組織。そして、政治と軍事では、政治が優位する。

第二に、自分たちの抽象的な理念を実現するために、全員の献身を要求する。

第三に、官僚機構が法律を制定し、人びとに道徳を強制する力ももっている。

これらは、伝統中国の支配のあり方をなぞっています。

 

政府が世俗の組織だとすると、党はそれを超えた、教会みたいなレベルにある。

太平天国の場合には、それが文字通り教会なわけです。

 

こういう現象は日本にない。明治維新の官軍は、ただの世俗的な軍隊で、天皇の命令で

動いているだけ。 道徳的な正しさとかはとくにない。

 

==>> この三条件をみると、ほとんど宗教国家のイメージになりますね。

     なんだか、十字軍と教会という雰囲気。

     日本の場合は、軍が政治を無視したってことになっていますし、天皇さえ

     も軽視した格好になってしまったわけですね。

     

 

p144

 

ところが、毛沢東は、ほとんどイデオロギーに内実らしいものがない。まあ

『毛沢東語録』はありますが、あれは毛沢東の側近、たしか林彪の発案で創られ、

活用されたもので、毛沢東が意図的に執筆したものではない。

毛沢東は、ヒトラーとはちがって、国民の前で演説もしていませんよね。

 

p145

 

毛沢東が行った農地再配分を含めた実践を評価するがゆえに、人びとが毛沢東という

人を評価し、まさにそれゆえに、毛沢東にこそ天命が下っているはずだというふうに

とらえた。そんな気がします。

 

==>> 少なくとも、毛沢東自身には、イデオロギー的な中身はなかった。

     けれども、実施された政策によって、特に農民たちが、そこに天命を

     見て支持することになったということですね。

     口先だけの男じゃなく、口先で何も言わなかったのに、政策の実行だけは

     やって、それが国民の支持になった。

     つまり、毛沢東という男は皇帝として、天命が下ったのだと。

 

 

p147

 

共産党とはどういう装置かというと、人びとが同じことを考える装置。そして権力

を伝達する装置です。 人びとが同じことを考えるのは教会もそうなんですけど、

教会の場合、人びとがドグマに縛られ、リーダーもドグマに縛られる

 

こういうことが中国共産党にあってはならないわけだから。中国共産党には

本当の意味でのドグマは存在しない。 指導部が正しいと考えることが正しいので

あって、ほかの人たちはそれを学習しなければいけない。

「指導部が正しい」という前提が、ドグマなんです。

 

==>> 中国は共産党一党独裁ですから、どういうドグマがないといけないし、

     今現在の非常に監視社会的な動きも国民をコントロールする上で必要だ

     ということになりそうですね。

     日本共産党の場合は、どうなっているんでしょうね。

     どうやって党首なり指導部を選んでいるのか・・・・

     先般、党首公選制を入れろというような提案をした人が、除名されたようですが。

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A-%E5%85%9A%E9%A6%96%E5%85%AC%E9%81%B8%E5%88%B6-%E8%A8%B4%E3%81%88%E3%81%9F%E5%85%9A%E5%93%A1%E9%99%A4%E5%90%8D-%E4%BB%8A%E5%B9%B42%E4%BA%BA%E7%9B%AE/ar-AA18Mkfc

 

     私は、個人的には、みんなが同じことしか言わないグループは

     面白くないんで、遠慮する方です。

 

 

 

次回は、第2部の「7 毛沢東は伝統中国の皇帝か」を読んでいきます。

 

 

==== 次回その5 に続きます ====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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