吉田敦彦編「世界の神話101」を読む ―2- ゲルマン、中世ヨーロッパ・ケルト、アフリカ・オセアニア・アメリカ、女神の排泄物は五穀豊穣
吉田敦彦編「世界の神話101」を読む ―2- ゲルマン、中世ヨーロッパ・ケルト、アフリカ・オセアニア・アメリカ、女神の排泄物は五穀豊穣
p096
ゲルマン
天地創造と世界の構成
ゲルマン神話は・・・ワーグナーの壮大な楽劇「ニーベルングの指輪」をすぐに思いうかべ
ることであろう。 ・・・そのもともとの話は、「古エッダ」と呼ばれるアイスランド語の
歌謡集にある。
p097
北欧神話では、世界は三層を成している。この三層の世界は<ユグドラシル>と呼ばれる
宇宙観に支えられ、各層合わせて次の九つの国が存在している。
・・・第二層のミズガルズ(「中心の国」の意)が、人間の住まう国である。その名の
とおりこの宇宙の中心、広大な円形の大地の真中に位置している。青々とした緑の
草が豊かに生い茂り、<草萌えるミズガルズ>と謳われている。
==>> ここを読んでいると仏教というかインド神話の宇宙観を思い出します。
定方晟著「インド宇宙誌 ― 宇宙の形状、宇宙の発生」
https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2021/12/blog-post.html
「第一章: 小乗の世界観 須弥山世界観」
「p20
虚空の中に風輪というものが浮かんでいる。 その上に水輪がある。 水輪の
上層部は金輪に変じている。 金輪の上に水がたたえられている。 金輪の中心
に須弥山がそびえ、これを中心に同心状に七つの山脈が並んでいる。 七つ目の
山脈の外には四つの大陸(洲)がある。 すなわち東の勝身洲(しょうしん
しゅう)、南の贍部洲(せんぶしゅう)、西の瞿陀尼洲(くだにしゅう)、北の
倶盧洲(くるしゅう)である。
・・・四つの大陸には人が住み、なかんずく贍部洲は「われわれ」の住処である。
贍部洲の表面には畜生(=動物)もおり、地下には地獄・餓鬼の世界がある。」
==>> これが須弥山の周辺のおおまかな構造になっているそうです。
私たちが住んでいる世界は、「南の贍部洲(せんぶしゅう)」なんだ
そうです。
こちらのサイトに解り易く?描いてあります。
「倶舎論」に基づく図だそうです。
http://tobifudo.jp/newmon/betusekai/uchu2.html
上記の「倶舎論」の宇宙観では、人間世界はどっちかと言えばかなり
隅っこ暮らしという感じなんですが、ヨーロッパはやっぱり人間世界が
中心なんですかねえ。
p097
しかし、その東方には、鉄の森を隔てて凶暴な霜の巨人族が住み、その脅威から
身を守るため、ミズガルズは周囲を柵で囲まれている。それ故、巨人の国がある
地域は、<ウトガルズ>(城柵の外の国)と呼ばれている。
==>> おお、これはまさに「進撃の巨人」の世界じゃないですか。
15分で追いつける!アニメ『進撃の巨人』ダイジェスト
https://www.youtube.com/watch?v=kidL6WcNiTk&t=9s
もしかして、原作のヒントはゲルマンの神話から得たんでしょうかねえ。
日本の神話には、巨人というのはあまり出てきませんしねえ。
中国も万里の長城があるし、アメリカは近年の大統領がメキシコとの
間に長城を造ろうとしていたし・・・・
日本列島の場合は、周りに大きな堀があってよかったですねえ。
p100
オーディンの知恵
神々の長であるオーディンは、戦の神にして、詩芸と魔法と知恵の神でもある。
そのオーディンが語る知恵とはーーー
その一、「分別」こそは最高の財産だぞ。・・・・
その二、けちなのは最悪だ。・・・・
その三、けちなのは本当に最悪だ。・・・・
その四、自分に愛想よくする人はみんな友だちだと思う奴は、お人好しを通り
越して馬鹿者だ。・・・・
その五、死んだらおしまいだ。・・・・
このような、現代とは異なる倫理観の要求される社会に、古代北欧人は生きて
いたのである。
==>> なんとまあ、リアリスティックというか、さばけていると言うか、
現実主義にも程があるって感じですね。
「けち」が二回も出てくるとは、どんだけ~~という感じです。
p107
シグルズの死とギューキ一族の滅亡
古代ゲルマンでは「誓い」を守ることは何よりも重要であった。 特に、互いの
傷口から流れた血をその足跡に流し込む<血盟兄弟>の絆は、実の血族のそれと
同等の強固さを持つ・・・・。
民族大移動期の過酷な史実に古代の英雄伝説が結びついたこの叙事詩には、
<文化的洗練によっても摩滅しない民族性の根元的な力>・・・がある。
さまざまな予兆が破滅を示す。登場人物たちはあらゆる予兆を無視し、強い意志
と豪放な精神をもって行動する。
が、その行為は多分に利己的・策略的で、逆に酸鼻を極める事態を次々と引き起こし、
累々たる屍の横たわる悲劇をひたすらに目指すのである。
==>> この本に書かれているゲルマン神話の中身は、かなり悲惨な戦いの話
が多くなっています。(まあ、日本神話でも簡単に殺しますが・・)
「誓い」が絶対みたいに書かれていますが、その後に、「利己的・謀略的」
と書いてありますので、結局「誓い」は信用できないってことのよう
です。
日本の戦国時代も裏切りの連続だったようですから、似たようなものかも
しれません。
p108
運命の力 ― ヴァルキューレとノルン
避け難い破滅の運命――これこそがゲルマン神話を貫く基本潮流である。
古代ゲルマン文学の構成的特徴は、最後には死ぬということが本人にあらかじめ
わかっていて、その通りに破滅することである。
慈悲と破滅をもたらすヴァルキューレ
このような運命の力を支配するのは、すべて女性である。
・・・このように、神と人間、愛憎と策謀が因果的に絡み合って血族・姻族が
殺し合い、皆死んでいくのが、古代ゲルマンの英雄伝説なのである。
出生時に決められる運命
ヘルギの物語には、<ノルン>というもうひとつ別の運命の女神が登場する。
ノルンは、このように人の誕生時に姿を現わし、運命の糸を紡いでその子の一生を
決定する。
==>> これだけ壮絶な運命を語ることが神話になっているということは、
それだけ現実の世界が血まみれな世界だったということなんでしょうか。
運命とはそういうものだと神話で教え込んで、一種の諦観を持たせ、
死を恐れない心を育てないと、それこそ生きていけないゲルマン社会
だったのかもしれません。
ゲルマンの民族大移動というのはそういうことだったのでしょう。
日本大百科全書(ニッポニカ)「民族大移動」の解説
https://kotobank.jp/word/%E6%B0%91%E6%97%8F%E5%A4%A7%E7%A7%BB%E5%8B%95-140123
「4世紀末フン人の西進に触発されて、ゲルマン系の諸集団が大規模にローマ帝
国領内に移住し、西ローマ帝国の滅亡を経て帝国領内の各地に定住、諸王国を建
設する6世紀末までの200年余の過程をさす。」
「8世紀から11世紀ごろまでのノルマン人(デーン人、ノルウェー人、スウェ
ーデン人などの北ゲルマン系の集団)のヨーロッパ各地への侵入、およびアイス
ランドへの植民、キエフ・ロシアの建国など(これらがいわゆるバイキングの活
動で、第二の民族大移動ともよばれる)があり、広義には前後2000年ほどにも
及ぶ長期の現象である。」
・・・民族大移動という意味では、日本ではいわゆる「渡来人」が
「縄文人」が住む列島に入ってきて、現代の日本人を構成することになった
ことに相当するのでしょう。
しかし、その時期に、列島において大きな殺戮があったという話は
あまり聞いたことがありません。
日本神話にあるように、穏やかな「国譲り」が実行されたということなの
でしょうか。
p112
ふたりのノルウェー王の物語
古代ノルウェーの王家を<イングリング家>という。 王家の起源というものは
神に由来することが多いが、<イングリング家>も初代はオーディン神で、ウプサラに
発する。 以後、二代イングヴェ・フレイ、三代フィヨルニル・・・と続き、途中
デンマーク人に王位を横取りされたりしながら、九世紀になって、遂にノルウェー
全土を統一する王がでる。
p113
トリュグペの息子オーラーブ・トリュグヴァソンは、父が殺された時はまだ母の
胎内にいた。 生まれてからも<灰色マント>の追跡を逃れて放浪し、途中奴隷に
売られてしまう。 が、ロシア宮廷の知遇を得て有力なヴァイキングとなり、ついに
ノルウェーの王位に着く。 28歳の時である。
==>> 世界中、どこでも、王家というのはその起源を神に仕立てることが
必要だったんですね。 やっぱり、神の権威に勝るものはないですからね。
日本神話の場合は、いろんな説があるようですが、歴史的に実在が確認されて
いるのは第十代の崇神天皇からとする説が一般的であるようです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
「第10代崇神天皇以降を実在とする説
戦後になると神武天皇及び「欠史八代」の実在は疑問視されるようになった。
また神武天皇と崇神天皇の尊号が同一(ただし漢字表記は別)であることから、
崇神天皇を初代天皇、あるいは神武天皇と同一人物であるとして、崇神天皇を
実在可能性がある最初の天皇とする説が一般化した。」
・・・上記の物語では、王位についた人が、一時期「奴隷」になったことが
書かれていますが、ヨーロッパの場合は、旧約聖書の物語の中にも
そのような話が出てきますから、割と普通にあったんでしょうかね。
日本の場合は、大名が一時期奴隷だったなんて話はないですね。
農民から出世してトップになった男はいたようですが。
p115
デンマーク王家の物語
<イングランド人の仇敵>と恐れられたスヴァン王だったが、・・・ある夜、ベッドの
中で突然急死したのである。 ・・・この時、息子クヌートはまだ十歳であった。
・・・1035年、クヌートは死んだ。37歳の若さであった。・・・27年、そのうち
14年はイングランドの、7年はノルウェーの王でもあった。
・・・偉大なクヌートの一門は特に<クニュトリンガル>と呼ばれる。
<美髪王>がノルウェーの織田信長なら、クヌートはデンマークのアレクサンダー大王
だと言えるであろう。
==>> ヨーロッパは地続きですから、国境なんてあって無いようなものなの
でしょう。 海があってもすぐ近くだし。
クヌートは、デンマーク、イングランド、ノルウェーの王で
あったようですが、王家の間の婚姻関係も複雑すぎて日本人には
「分けわからん」世界に見えるんじゃないでしょうか。
現代の各国の歴史教育ではどんな教え方をしているんでしょうね。
日本の場合は、天皇が朝鮮半島との関係を示唆しただけで、純血でなければ
日本人にあらずみたいな反論を主張する人たちもいるようですが・・・・
元々、アフリカから流れてきた人たちが私たちの祖先であるわけなので、
純血という意味が解らないんですが。
日本民族がボワッといきなり湧き出たわけでもないでしょうからねえ。
ちなみに、私の場合は、見かけが中国の南方系なんですが、遺伝子検査を
やってみたところ、
「あなたの祖先は、約2万3千年前にロシアのバイカル湖周辺で生活して
いました。」
「Aグループは約2万3千年前にロシアのバイカル湖周辺で誕生したと考えら
れています。その後東アジアに広がり、またシベリアやベーリング海峡を通って
アメリカ大陸にも進出しています。」
という結果でしたので、基本的に渡来系ってことになりますね。
p120
中世ヨーロッパ・ケルト
「ミールの息子たち」の到来
「アイルランド来寇の書」の語るところによれば、アイルランドに最後(6番目)
に侵攻したのが、現在のアイルランド人の祖先とされる「ミールの息子たち」、
つなわちゲール人である。
彼らは、ノアの息子ヤペテの子孫で、スキタイの地を故郷として、エジプトや
スペインでの冒険を経て、アイルランドへ到来した。
p121
「アイルランド来寇の書」は、聖書の枠組みを与えられた、神話的疑似歴史書で
あるが、キリスト教以前の伝承を豊富に取り込んでいる。
==>> 「ミールの息子たち」を検索してみたところ、こちらが見つかりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%BC%E6%97%8F
「アイルランドの神話において、ミレー族(マイリージャ族Milesians)即ち
「ミールの息子達」は、ゲール族のケルトを代表するアイルランドの最終的な
住民である。」
「トーマス・フランシス・オラヒリー(英語版)によって提案された歴史の案
では、土着の民族と同じ古代の起源を彼らに与え、紀元前1〜2世紀にアイル
ランドに侵入したゲール族に、ミールの息子からのアイルランドの王の家系は
合法性を与える意図のフィクションである。」
・・・ある意味で、この神話は、いさぎよい感じがします。
アイルランドに6番目に侵攻してきたとか、エジプトやスペインを廻って
やってきたとか、おまけに、旧約聖書の神話を借りて自分たちの神話に
組み入れちゃったとか、いわば現実を一定程度踏まえた話になっている
ように見えるからです。
雲をつかむような神話ではなく、意固地に純血を唱えるわけでもなく・・・
p133
グウィオン・バハとタリエシンの物語
タリエシンという詩人は、6世紀末のウェールズに実在した詩人として名前があげられ
ているが、彼には、変身に関する伝説を持つ詩人/予言者としての伝承もある。
・・・詩的霊感を得るということは、ケルトの伝統では、魔術的な意味合いがあり、
予言の能力と切り離せない。 詩人は、予言者であり、また「賢者」でもある。
==>> 日本では、3世紀に卑弥呼などが霊的な力をもって、予言や占い、祈祷を
やっていたのでしょう。
陰陽道の安倍晴明は10世紀ですから、6世紀ごろには、なんらかの
予言者のような人たちはもちろんいたと思います。
6世紀ごろと言えば、仏教伝来で、8世紀には聖武天皇が鎮護国家の
ために国分寺を建立したり、東大寺の大仏を造ったりしています。
8世紀になると、空海さんが密教を持ち込んで大祈祷をやったりして
いますね。
しかし、日本の古代の人物で、詩人でありかつ予言者というのは
聞いたことがありません。
==============
この後は、都合により、ちょっとページを飛ばして、
「アフリカ・オセアニア・アメリカ」 に入ります。
p210
人間と文化の起源譚(ドゴン族)
最初の人間の男女は、天地万物を創造した神アンマによって、粘土を材料にして
造られた。 この男女から、それぞれが両性を具備し自分だけで交合し子を産むこと
ができた、八人の子が生まれ、ドゴンの八家族の祖先になった。
p211
ドゴン族は、サハラの南縁に近い、マリとブルキナファソ両共和国にまたがる、
乾燥したサヴァンナ地帯の一画で、農耕民として暮らしている。この話がその一部で
ある彼らの創世神話の全体は、プラトン哲学や聖書などとも優に匹敵する深遠な
言語哲学や、人間観、救済論などを含む、驚くほど豊かで複雑で精緻な体系に組織
されている。
この話は、火や、農耕、鍛冶などの文化が、太古に天からの盗みによって、人間の
手に入ったと物語っている点では、明らかに、ギリシアのプロメテウスの神話との
類似が著しい。
==>> アフリカと言えば、エジプトのピラミッドに代表されるような、
もしかして宇宙人が降臨したのかと思わせるような建築物もあるわけですが、
思想・哲学的にもそういうレベルの高いものがあったというのは、なかなか
聞かないですね。
両性具備、両性具有、雌雄同体という発想が神話の中に出てくるという
のは、なんだか不思議な気がします。そのような生き物が実際に周りに
いたのでしょうか。
両性具有をチェックしたところ、下のようなプラトンの「饗宴」の有名な
話に加えて、驚いたことに天照大神にも両性具有という説が書いてあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%A1%E6%80%A7%E5%85%B7%E6%9C%89
「元々男女だった男と女が互いの半身、すなわち男は女を、女は男を求める事に
なった。それが男女の愛であると説いた。」
・・・つまり、もともとは男女一体だったのが切り離されたので、
その半身を求めるのが男と女の愛だというわけです。
そして、その相手のことをベター・ハーフと呼ぶらしい。
で、問題は天照大神の両性具有説・・・
「日本神話の女神天照大神は中世の書物『日諱貴本紀』で両性具有神として描か
れている。」
・・・この『日諱貴本紀』を読んでみないと分からないのですが、資料が
ないので、こちらで見てみます。
神仏習合と天照大神の男神説
「平安末期の武士の台頭や神仏混淆が強まると以前より指摘されていた天照
大神の男神説が広まり、中世神話などに姿を残した」
「神道において、陰陽二元論が日本書紀の国産みにも語られており、伊弉諾尊を
陽神(をかみ)、伊弉冉尊を陰神(めかみ)と呼び、男神は陽で、女神は陰となされ
ている。太陽は陽で、月は陰であり、太陽神である天照大神は、男神であったと
される説である。この組み合わせはギリシャ神話でも同じで、太陽神のアポロと
月神のアルテミスは兄妹神の組合せで生まれている。」
「伊勢神宮に奉納する天照大神の装束一式がほとんど男性用の衣装」
「京都祇園祭の岩戸山の御神体は伊弉諾命・手力男命・天照大神であるが、
いずれも男性の姿である。」
「ただし前述のように現在では国学時代に主流となった女神説が一般的であり、
伊勢神宮を始め各神社でも女神としている。」
・・・これを読むかぎりは、女神ではなく男神だという議論であって、
両性具有は出てきません。
せっかくですから、この際、雌雄同体の生き物をチェックしておきましょう。
雌雄同体動物の25の例
https://wikiejemplos.com/ja/%E9%9B%8C%E9%9B%84%E5%90%8C%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%8B%95%E7%89%A9/
上記のサイトのリストの中で、日常的に見る可能性が高いのは、
カタツムリ、ミミズ、ホタテ、グッピーの魚、ぐらいでしょうか。
雌雄同体といっても、個別にみると、特殊な変化をするようですから、
本当に驚きです。
具体的なやり方については、こちらでどうぞ:
p212
悪戯者の神レグバの話(フォン族)
至高の母神マウー(両性具有神マウー・リサの母神の面)には七人の子があり、その
それぞれにマウーは支配領域(大地、天、海、動物界など)を定め、その領域で
マウー・リサの言葉に代わって使われる言葉を教えた。
だがお気に入りの末息子のレグバには、・・・・支配領域を定めず、・・・兄たちの
支配する国を訪ねては、その様子を報告するように命じた。
==>> この物語は、結局この母神マウーと息子レグバの間の確執の話で、
息子が母神にわるさをして困らせ、最後には息子レグバが母神の
監視も干渉を受けない状態にもっていったという話になっています。
神様なのに見抜けなくていいのかな、という感じですが。
p213
旧称をダオメと言った西アフリカの国ベナンの住民フォン族の神話で活躍する
このレグバのような、悪戯者の神や英雄や動物などは、世界中の多くの神話に
登場し、文化人類学の用語ではトリックスターと呼ばれている。
・・・さまざまな悪戯によって、世界の現在の結構や秩序、また人間の運命や
文化、社会生活のルールなどが創出されたことが語られている。
==>> 西アフリカのベナン共和国に関しては、ずいぶん前に日本語を教えに
行ったことがありますので、感慨深い国なんです。
この国は、私がまだ高校生の時の世界地図では「奴隷海岸」という国名で
世界地図の上に表示されていました。
ベナン共和国は、「ここヘンだよ日本人」というテレビ番組に出演して
一躍有名になったゾマホンさんの母国です。
https://npo-ife.jp/benin/guide/
http://npo-ife.jp/benin/guide/highlight/ouidah.html
「ブードゥー教の聖地であり、また奴隷貿易に関する史跡が数多く残る町。奴隷
貿易が行われていた時代は、ベナンを始め、南サハラからの多くの奴隷が、この
ウィダから船に乗せられ、北アメリカやカリブ諸島、ブラジルなどに連れていか
れた。ベナンの文化や歴史を知るにはぜひとも訪れたい場所の一つである。」
そして、昔はダホメ王国がありました。
https://www.travelbook.co.jp/topic/327
ブードゥー教については、私自身は、ベナン共和国に関しては神話よりも
この宗教の方が影響が大きいのではないかと思います。
(私が現地で見た印象からですが・・・・)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%BC%E6%95%99
「西アフリカのベナンやカリブ海の島国ハイチやアメリカ南部のニューオー
リンズなどで信仰されている民間信仰。」
「ヴォドゥンとは西アフリカのフォン語(Fon)で「精霊」の意味。ヴォドゥンは
ベナンなどの西アフリカで広く信じられており、ベナンの国教となっている。」
「ブードゥーは植民地時代の奴隷貿易でカリブ海地域へ強制連行されたダホメ
王国(現在のベナン)のフォン人の間における伝承・信仰がキリスト教(カトリ
ック)と習合した事によって成立したため、ブードゥーの中には聖母マリアなど
キリスト教の聖人も登場する。ただし、あくまでも白人による弾圧を逃れるため
に、アフリカの民間信仰の文脈の中へ表面上キリスト教の聖人崇敬が組み込ま
れただけなので、信仰の主意はアフリカ時代とほとんど変わらず・・・ 」
・・・・ベナン共和国の国教になっているとは知りませんでした。
いわゆる黒魔術などと言われるのは、どうも、アメリカが嫌ったために
悪い印象を与えようとした可能性もあるようです。
p216
作物の起源(ウェマーレ族)
バナナの実から発生した人間の祖先たちの一人に、アメタという名の男がいた。
・・・一頭の猪・・・死体を引き上げてみると牙に、まだ見たことのない実がついて
いた。 それは世界に最初に生じた、ココ椰子の実だった。
・・・木の上を見ると、血と花の汁が混じり合って、人間が生じかけており・・・
三日後には、五体完全な女の子になっていた。 ・・・妙齢の娘になり、
ムルア・ハイヌウェレと呼ばれるようになった。
そして、大便として磁器の皿や銅鑼・・・など、さまざまな宝物を排泄したので、
アメタは非常に裕福になった。
p217
このように体から宝物や食物を無尽蔵に排泄できた女神が惨殺され、その死体の諸処
からそれぞれ種類の違う作物が生じたという神話は、インドネシアからメラネシア
を経て南アメリカから北アメリカの一部にまで及ぶ広大な地域に分布しており、
我が国の神話でも五穀の起源が「古事記」ではオホゲツヒメ、「日本書紀」では
ウケモチを主人公とする、同型の話で説明されている。
==>> これは、インドネシア・セラム島のウェマーレ族の神話です。
このインドネシアの神話については、こちらにも詳しく書いてあります。
そして、日本神話については、
「日本神話においては、発生したのは宝物や芋類ではなく五穀である。よって、
日本神話に挿入されたのは、中国南方部から日本に伝わった話ではないかと
仮説されている。」
・・・基本形はインドネシア神話と同じだけれども、芋類ではなく五穀を
作っていたので、日本神話では中国からの影響が入っているということの
ようです。
p229
月に貼り付いた蛙の話(アラパホ族)
アラパホ族は、アルゴンキン族の一派。
この話の類話は、北アメリカ中央部の大高原地帯にいた先住民のあいだに流布していた。
月の表面に見える陰を、太陽の妻の資格を失ってそこに貼り付いたヒキガエルとして
いる点で、この話には、中国の月の女神の姮娥(こうが)の神話と、奇妙に似たところ
がある。 姮娥は夫から不死の薬を盗んだ罰に、ヒキガエルの姿にされて月に住んでおり、
その姿が月の陰なのだという。
==>> これと似た話は、わが国でも縄文時代の中期に酒造具として使われた土器に
蛙の文様を持つものがあるので、当時の日本にも月の女神が蛙の姿を
して・・・という神話があったと想像できると、著者は書いています。
さて、以上で、ヨーロッパからアフリカ、オセアニア、アメリカと、神話を辿って
きました。
次回は いよいよ、私が読みたいと思っていた、インド、中国、朝鮮半島、日本の
神話を読んでいきたいと思います。
=== 次回その3 に続きます ===
====================================
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