立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その3 月に行くと、宇宙飛行士は神を実感し、人格が変わってしまう?
立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その3 月に行くと、宇宙飛行士は神を実感し、人格が変わってしまう?
立花隆著の「臨死体験」に続いて「宇宙からの帰還」を読んでいます。
「神との邂逅」の続きです。
p132
月探検からの帰途、またそれを見たのである。
・・・オルドリンはすぐには眠らないで、目をじっと開いたまま、例の光があらわれる
のを待った。しばらくすると、予想通り、同じ光があらわれた。
・・翌朝、またアームストロングとコリンズに、昨日の夜何か見なかったかとたずねて
みた。 コリンズは首をふったが、アームストロングは沢山見たと答えた。
オルドリンは、これはおそらく、何らかの素粒子が宇宙船の外被を貫いて飛び込んで
きて、船内の空気をイオン化したものだろうと考えた。
・・・結局、原因は不明だが、錯覚ではなく客観的に存在する現象であることは確か
だろうということになった。
p133
当然、次に飛ぶアポロ12号の宇宙飛行士たちは、この現象に興味を持って出かけて
いった。帰ってきた彼らは三人が三人とも見たと報告した。 そして、驚くべきことには、
目をつぶったままでも、それを見ることができたと報告したのである。
・・・いずれにせよ、何らかの高エネルギー素粒子が原因としか考えられないが、
詳細はわからないということになった。
p134
バズ・オルドリンは、宇宙飛行から帰った後、精神に異常をきたし、精神病院に
入ることになる。・・・もしかしたら、彼の場合だけ、素粒子の当たり所が悪くて、
非常に重要な脳細胞が破壊され、そのために精神に異常をきたしたのではないかと
考えたのだ。
==>> この事件は、その後もNASAが研究を続けたようですが、この本が書かれた
時点では、その結果は出ていないようです。
宇宙には、それこそ素粒子などの未解明のものが、人体に影響を与えることが
いくらでもありそうです。
人類は結局地球に守られている、その一部であるということなのでしょう。
p142
地球の美しさは、そこに、そこだけに生命があることからくるのだろう。
自分がここに行きている。 はるかかかなたに地球がポツンと生きている。
他にはどこにも生命がない。 自分の生命と地球の生命が細い一本の糸でつながれて
いて、それはいつ切れてしまうかしれない。
どちいらも弱い弱い存在だ。かくも無力で弱い存在が宇宙の中で生きているということ。
これこそ神の恩寵だということが何の説明もなしに実感できるのだ。
・・・宇宙から地球を見ることを通して得られた洞察の前にはあらゆる懐疑が吹き飛んで
しまった。 神がそこにいますということが如実にわかるのだ。
==>> これはアーウィン飛行士の言葉です。
さらに言葉は続いていくのですが、その内容は、古代インドの宇宙観にもにた
「梵我一如」を連想させるような言葉になっています。
p143
しかし、月ではちがった。祈りに神が直接的に即座に答えてくれるのだ。
祈りというより、神に何か問いかける。するとすぐ答えが返ってくる。
神の声が声として聞こえてくるというわけではないが、神がいま自分にこう語りかけて
いるというのがわかる。 それは何とも表現が難しい。
==>> この辺りに来ると、「神の物理学」に出てくる「完全調和」の宇宙という
言葉を思い出します。
ごく一部の天才たちが何かの拍子に本人が考えても考えきれないような
理論をその宇宙から与えられるというような話です。
https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2021/06/blog-post_3.html
「p59
「神」の完全調和が自発的に破れて生じたものが「素領域」であり、従って
「素領域」そのものは「神」ではない。 一つの「素領域」は「神」である
完全調和に接している。 つまり「神」である完全調和はどの「素領域」の
様子も、それを取り囲むようにして「知る」ことができると考えてよい。」
「p65「量子力学と観測問題」
この「神の覗き穴」という概念は、「自由意志問題」の解決に必要不可欠である
だけでなく、量子力学の定説に巣くう根本的な難問である「観測問題」の解決に
も導いてくれる。
どの素領域をもその内部に包み込んでいる完全調和としての「神」は、それぞれ
の素領域に生成される復旧エネルギーとしての素粒子の動きを「神」の中での
素領域の分布を変化させることで、量子力学の法則に従っているかの如く操って
いるのだった。
これが形而上学的素領域理論に立脚した「神の物理学」が教えてくれる、量子力
学の原理的背景に他ならない。」
p146
私は、彼がデタラメを述べているとは思わない。 実は、彼のような体験は、宗教史上
ではさして珍しいことではない。 ・・・キリスト教だけではなく、あらゆる宗教に
おいてある。 それは一般に神秘体験と呼ばれ、・・・古代から洋の東西を問わず連綿と
して絶えることなくつづいている。
西欧では、新プラトン主義と原子キリスト教以来、哲学・神学においてきわめて強力な
神秘主義の流れが系譜としてある。
==>> 神秘主義ということについては、ここに書かれている通りだと思うのですが、
その神秘体験や宇宙あるいは絶対的存在との合一などという言葉の
腑に落ちる説明というものは、仏教関連でいろいろと読んではきたものの、
今までに読んだ中にはありませんでした。
しかし、たまたま、古代インド思想とイスラム思想の関係が気になって
井筒俊彦著「イスラーム哲学の原像」という本を手に取ってみたところ、
そこにはこのイスラム教における神秘主義の構造がかなり分かりやすく
解説されていました。そして、その構造は、イスラムに限らず、古代インド
思想や東洋思想にも根底で繋がっているように思えました。
私のような凡人は、神秘体験をするチャンスはなさそうですので、
それをなんとか理屈の上で理解するしかないと考えています。
p152
宇宙飛行士たちはみな宇宙体験で大きな精神的影響を受けて、内面的に変わった。
・・・そういうことをオープンに口にすると、自分の宇宙飛行士としての将来に
マイナスだと思っていたからだ。
・・・アル・ウォーデンは、それまで文学に親しんだことなど全くなかったのに、
月から帰ってから宗教的な詩を書くようになった。
p153
月の上を歩くというのは、人間として全く別の次元を体験するに等しい。たとえ話を
すれば、地球軌道しかまわらなかった人と、月飛行をした人の間には、自動車で地表を
走った経験しかない人と、飛行機で空を飛んだことがある人との間くらいのちがいがある。
p154
バズ・オルドリンは精神に異常をきたし、アル・ビーンは絵描きになり(もっぱら月世界
風景を描いている)、エド・ミッチェルはESP能力の研究者になり、アーウィンと
チャーリー・デュークは伝道家に、そしてハリソン・シュミットは上院議員になった
のである。
・・・宇宙飛行士たちは、・・・独特の精神的インパクトを受けた。・・・すべての人が
より広い視野のもとに世界をみるようになり、新しいヴィジョンを獲得したという
ことだ。
==>> 私がこれを読んで思うのは、すべての国のリーダーが、リーダーになる
前の段階で、必ず月旅行に行くということを絶対条件にして欲しいと
いう妄想です。
ちまちまと地球のあちこちで人殺しや人権侵害をやっている場合じゃないよ。
まずは、月に行って、地球の上のリーダーにふさわしい実体験をして
きて欲しいということです。
p158
これほど見事な、美しい、完璧なものを神以外に作ることはできない。
結局、科学は宗教に対立するものではない。 科学は神の手がいかに働いているかを、
少しずつ見つけだしていく過程なのだ。 だから、科学が、一見、宗教の教えと矛盾
しているような場合でも、科学がより高次の段階にいたれば、その矛盾は解消していく
ものだと思う。科学はプロ背うなのだ。 だから、科学の側でも、宗教の側でも、
お互いに敵視するのは誤りだ。
==>> ここはアーウィン飛行士の言葉です。
ここにおいて、アーウィン飛行士が「創造説」の絶対的支持者になったことが
書かれています。
「創造説」というのは、聖書に書かれていることがそのまま真実だという説です。
創造説については、特にキリスト教に多くの教派があって、政治的にも大きな
問題であるようですが、過去に読んだリチャード・ドーキンス著「神は妄想
である」には以下のような記述がありました。
http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2021/03/post-f9a508.html
「p347
学識のある神学者の善意にもかかわらず、驚くほど多くの人間がいまでもなお、
ノアの物語を含めて聖書を文字通りに受け取っている。ギャラップ調査によれば、
米国の有権者のおよそ50%がこれに含まれる。 また、2004年のスマトラ
沖地震による津波が、地殻プレート運動のせいではなく、バーで酒を飲んだり
ダンスしたりしたことから馬鹿げた安息日の規則を破ることにまでいたる人類
の罪のせいだと非難したアジアの聖職者たちの多くも、そうであるのは疑い
ない。
p348
2005年、カトリーナ台風の襲来の後に、ニューオリンズの美しい町が洪水に
よって壊滅的な被害を受けた。 アメリカでもっともよく知られたテレビ伝道
師の一人で、かつて大統領指名候補にもなったパット・ロバートソン牧師は、
この台風をたまたまニューオリンズにすんでいるレズビアンのコメディアン
のせいだと非難したと報じられている。 全能の神なら、罪人を懲らしめるもう
少し的を絞ったやり方を採用してもよさそうなものだとみなさんは思わない
だろうか。」
==>> いずれにせよアーウィン飛行士が最後に「科学の側でも、宗教の側
でも、お互いに敵視するのは誤りだ。」と述べているのが救いです。
それにしても、ほどんど世界トップクラスの科学者であるとも
呼べるような宇宙飛行士が、ファンダメンタリスト(キリスト教
原理主義者)になるということは、それほどまでに月における
神の実感が強烈であったということなのでしょう。
次回は「狂気と情事」を読んでいきます。
=== 次回その4 に続きます ===
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