立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その4 宇宙からは、マイナーなものは見えず、本質が見える
立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その4 宇宙からは、マイナーなものは見えず、本質が見える
立花隆著の「臨死体験」に続いて「宇宙からの帰還」を読んでいます。
「狂気と情事」に入ります
p163
「結局、あれだけ強い信仰を持った男がおかしくなったのは、人類最初の月着陸と
いう人生の大目的を果たして、その結果人生の目標を見失い、心が空虚になったため
だろう」とアーウィンは解釈する。
しかし、・・・・宇宙旅行を終えたあとで、空しさを感じたのはオルドリンだけではない。
・・・たとえば、チャーリー・デュークである。・・・彼の「空しさ体験」後の人生は
オルドリンとは全く対照的である。
宇宙体験は純粋にテクニカルな体験だったといってよい。・・・つまり宇宙体験はテクノ
ロジーに対する信頼感を一層深めたということだ。
・・・私はクリスチャンというよりヒューマニストだった。・・・つまり人間中心主義者だ。
人間に神は必要でない。 ・・・地球と人間社会への帰属感は強められたが、神への
帰属感は生まれもしなかった。
==>> 私はどちらかと言えば、アーウィン飛行士のように宗教的になることよりも、
このデュークのようにヒューマニストであることの方が好ましいと思います。
それは単純に宗教は対立を生み、人を殺すからです。
そして、宗教には人類の共通語としての可能性が歴史的に結局なかったこと
が証明されていますので、科学という客観的なコミュニケーション・ツールを
使って理解しあうしかないと思えるからです。
ただし、個人的には宗教の本を読むことは大好きです。
科学の本は宗教の本より頭が痛くなるもので・・・・
p166
私の家庭はある事情で崩壊しかかっていた。私たち夫婦は離婚を真剣に考えていた。
それが原因だったのか、妻が急に宗教的になっていった。そしてある日、妻に
ひきずられるようにして聖書研究会に連れていかれた。
・・・聖書を読むうちに、何か目の前にかかっていたヴェールが少しずつ取り除かれ
ていくような気がした。
p167
そして1978年4月、運命的な日がきた。
ハイウェイを車で走っているとき、突然イエスが神の子であり神であるということが
わかったのだ。 超自然的認識が啓示として突然に訪れた。
・・・世界観が根本から変わった。 たとえばこの宇宙の創成にしても、私はビッグ・バン
仮説を信じていたが、聖書のいう通り、神がその手で創造したものにちがいないと
思うようになった。
p169
宗教的であったオルドリンは精神的破綻をきたし、世俗的であったデュークは宗教的
になってしまったわけである。
==>> さあ、ここで大逆転。 デューク飛行士は、NASAをやめて、ビール販売業で
大成功していたんですが、そこで上記のようなことが起こったというわけです。
上に書いたとおり、私はヒューマニストであり続けて欲しかったと思います。
宗教的であることがヒューマニストであることと同じであることを願いたい。
さて、そして、精神的破綻をしたオルドリンの話が続いていきます。
p193
月にはじめていった男になってしまったために、自分たちはもう一生ノーマルな生活に
戻れないのだろうか。 オルドリンと妻のジョーンとでは「ノーマルな生活」の意味が
ちがったが、二人とも、ノーマルな生活に戻れない恐怖を共有していた。
二人とも夜になると酒に酔い、口論をしたり、愚痴り合ったり、嘆き合ったりして、
ときには、抱き合って涙を流して泣くこともあった。
とにもかくにも、精神安定剤の力を借りてなんとか無事に世界親善旅行を終えると、
オルドリンたちは、ホワイトハウスに招かれた。
p194
NASAにとって、いまや最も重要なのは予算の獲得であり、そのためのPRであり、
議員サービスだった。 そしてそれに最も役に立つのが国民的英雄であるアポロ11号
の宇宙飛行士だった・・・・・人生の新しい目標を発見できないままに、不満を持ち
ながらもズルズルとPRの仕事をつづけていた。
オルドリンは国語に弱いだけでなく、社会にも弱かった。これまで社会現象に関心を
寄せるなどということは、ほとんどなかった人である。
p215
エドワーズ空軍基地に戻ったオルドリンは、軍医にサンアントニオでの診察の結果を
報告していた。 それを聞いているうちに、軍医は異常に気が付いた。
オルドリンの話が次第に支離滅裂になり、やがて正常にことばがしゃべれなくなって
きた。 目はうつろで、体も緩慢にしか動かなかった。・・・軍医はすぐにサンアントニオ
に電話して入院の手続きを取り・・・・
==>> なぜオルドリンはこのようなことになってしまったのか。
それについては、この本に詳しく書いてあります。
一言でいえば、それはエリート中のエリートである父親との関係にあった
ようです。
p227
グレンは地球を三周したのだ。 4時間55分にわたる、正真正銘、ほんとの宇宙飛行を
やってのかだのだ。 ・・・ガガーリンには勝ったのだ。 全アメリカ人は熱狂的にグレン
の成功をたたえた。
p228
いまでも、アメリカ人に最もよく記憶している宇宙飛行士の名前を一人だけあげさせる
と、大半の人がジョン・グレンの名前をあげる。月に到着した人類最初の宇宙飛行士
の名前より、ソ連に対する屈辱感を最初に打ち破ってくれた宇宙飛行士の名前の
ほうがアメリカ人の記憶にはより深く刻み込まれているのである。
アメリカ人は、世界で一番偉大な国アメリカというイメージを、グレンを通して
再び取り戻したのである。
==>> これはまさしくアメリカ政治のスローガンですね。
「Make America Great Again(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン、
MAGA、日本語訳:アメリカ合衆国を再び偉大な国に )とは、アメリカ合衆国
の政治において用いられる選挙スローガンである。1980年の大統領選挙に
おいてロナルド・レーガンが使用したのが最初であり、近年では、2016年の
大統領選挙と2020年の大統領選挙においてドナルド・トランプが使用して
いる。」
軍事的に、また国威高揚ということでも、これが実に政治的事柄であるかが
よく分かります。今後はおそらく、宇宙開発においても、相手が中国ということ
になってゆくのでしょう。それが軍拡競争にならないことを祈るのみです。
p239
スワイガートは、宇宙飛行士中のドン・ファンとして知られている。
・・・友人の観察によると、・・・いたるところで女の子に目をつけては、その電話番号
を聞き出し、次に、暇さえあれば、次から次へ電話をかけまくる。・・・とにかくマメなの
である。
p241
― 政治ないし政治家のどこに不満を持ったのですか。
「たとえば、この科学技術時代に、科学技術の知識がなければ、世の中をどうしていけば
よいなんてことは、まるでわからないはずだ。 ところが、アメリカの議会では、535人
の上下両院議員のうち、科学技術のバックグラウンドがある議員は、たった5人しかいない
んだよ。・・・・アメリカの議会は、もっぱら弁護士でできあがっているのだ。・・・・
議会にはもっともっと沢山のエンジニアが必要だ。 ・・・医者も必要だし、農民も必要
だ。 ・・・もっと専門的知識、もっとテクニカルな知識を持った人間の集まりにならね
ばならない。
・・・現代社会が解決を迫られている問題のすべてが、テクノロジカルな解決を必要と
している状況にあるからだ。
p243
政治家の頭の中にある未来というのは、次の選挙までの時間なのだ。それより遠い未来
に起こるべきことに対して今のうちから手を打つなどというようなことは考えて
もみない。 発想が短期的なのだ。
==>> こういう政治的議論は、私は詳しくないので難しいのですが、
少なくとも民主主義の国では一党独裁の国よりも目先を追う傾向には
なるのではないかと思います。
日本の参議院に関して言えば、衆議院よりも専門性がある人達が長期に
渡って仕事ができる筈だと思うのですが、インターネットで検索しても、
一人一人の参議院議員にどのような専門性があるのかは分かりませんし、
所属政党にしばられているようで、本当にその機能が果たせるのかが
心配になります。
参議院議員は政党への所属を禁止してはどうなんでしょうね?
仕組みを大幅に変えないとムリでしょうけど・・・・
ところで、「科学技術の知識がなければ・・・」という点は、まさに今後の
近い将来にとって、非常に重要なことだと思います。
それはユヴァル・ノア・ハラリ著「ホモ・デウス」に書かれているAI、遺伝子
操作、改造人間、そして地球レベルの環境問題などなど、最先端の研究者から
智慧を出してもらわないと、方向性すら描けない時代であるからです。
この「ホモ・デウス」をチャチャっと知りたければ、こちらの動画でどうぞ:
「【9分で解説】ホモデウス【衝撃の未来】神になる人類と家畜になる人類」
https://www.youtube.com/watch?v=yyZ349p5hSI&t=1s
p247
だいたいアメリカという国は、建国の由来を考えてみればすぐわかるように、
自分の責任において行動し、自分でリスクを負う人間が作った国なのだ。
ピューリタンたちがヨーロッパから船出したとき、この船が無事にアメリカに着く
という保障があるのかとか、もしアメリカに着かなかったら誰が責任をとるのか、
などといってゴネた人は一人もいなかった。
・・・自分の行為のリスクは自分で負うべしという精神がこの国のバックボーンであり、
それがこの国の活力を生んできた。
==>> ここではスワイガート飛行士は、保守的考えかたであることを述べ、
リベラル派を批判しています。
もちろん、宇宙飛行士は元々が軍人ですから、そうなることは
必定と言えるのかもしれません。
p249
ほとんどの人が、宇宙から地球を見ていると、国際政治における対立抗争のすべてが
実にバカげて見えるといっているからだ。 ある宇宙飛行士は、米ソ両国の指導者を
早くロケットに乗せて、宇宙から地球を見させるべきだ。 そうすれば、世界も
もっと平和になるだろうとまでいっている。
「それは全くその通りだ。 私も同じことをいったことがある。・・・・・」
==>> とここまでは、いいことを言っているなと読んでいたんですが、
その直後に「問題はソ連の側にある。 ソ連が世界征服の野望を捨てない
かぎり、米ソ対立は終わらない・・・・」と言っているんですねえ。
残念です。
p254
宇宙飛行士の多くが女の誘惑に弱かったことはすでに述べたが、彼らは、金の誘惑
にも弱かった。 だいたい彼らの給料は、その任務に比してあまりに安かった。
マーキュリー計画の宇宙飛行士第一期生の平均給与は、年に1万1000ドルである。
要するに、なみの軍人の給与ないし、国家公務員の給与と同じベースなのである。
==>> そして、民間の会社からさまざまな契約で給与以上のお金が入ってくる
ことが述べられています。
ただし、その金額は宇宙飛行士が増えるにつれて減っていったそうです。
p263
このアイズリが宇宙で受けたインパクトもまた、地球上で諸国家が展開している争い
がいかにバカげているかということだった。
p264
宇宙からは、マイナーなものは見えず、本質が見える。表面的なちがいはみんな
けしとんで同じものに見える。相違は現象で、本質は同一性である。
・・・対立、抗争というのは、すべて何らかのちがいを前提したもので、同じものの
間には争いがないはずだ。 同じだという認識が足りないから争いが起こる。
p265
あと三、四十年間、第三次大戦を起こすなどというバカなことをしないですめば、
確実に、ネイション・ステイト(民族国家)の時代から、プラネット・アース
(惑星地球)の時代に入ると思う。今はその過渡期なんだ。
==>> この本が出版されたのは1985年。それから40年後といえば、2025年
という計算になります。
さて、あと4年間、どうなんでしょうか。 今や米ソではなく、米中の
時代になって、最近はキナ臭いニュースが溢れてきていますが・・・・
それはともかく、「相違は現象で、本質は同一性である」という言葉は、
なにやら仏教的世界観を連想させます。
密教でいうなら、すべてが大日如来の顕現だということでしょうか。
== 次回その5 に続きます ==
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