チョムスキー著「メディア・コントロール: 正義なき民主主義と国際社会」を読む ― その1 PR産業の目的は「大衆の考えを操作する」こと

チョムスキー著「メディア・コントロール: 正義なき民主主義と国際社会」を読む ― その1 PR産業の目的は「大衆の考えを操作する」こと

 

 

先に読んだ「誰が世界を支配しているのか?」で、これはもっとチョムスキーさん

の主張を知る必要がありそうだと思ったので、この本を読むことにしました。

https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2022/02/blog-post_18.html

 

 

今時は現在進行形のロシアのウクライナ侵略があるので、情報戦も激しくなっています。

それらのプロパガンダに呑み込まれないようにすることが出来るのか、それが知りたい。

 

ところで、この戦争の背景については、歴史的なことを理解するのも必要だろうと思い、

サクッと理解できそうな、こちらのyoutubeで勉強しました。

【第8回 ウクライナ問題】神野正史の世界史ワンポイント講座

https://www.youtube.com/watch?v=-IxOp4ZtFrU&t=41s

 

 



では、気になった部分を引用しながら、グダグダと思ったことを書いてみます。

 



「メディア・コントロール」

 

p011

 

そして民主主義社会のもう一つの概念は、一般の人びとを彼ら自身の問題に決して

かかわらせてはならず、情報へのアクセスは一部の人間のあいだだけで厳重に管理して

おかなければならないとするものだ。

 

そんな民主主義社会の概念があるかと思われるかもしれないが、実のところ、優勢なのは

こちらのほうだと理解しておくべきだろう。

 

p015

 

肝心なのは、彼らがアメリカ社会の知識階層の考えを操作しようとしたことだ。

そうすれば、その連中がイギリスによってでっちあげられた宣伝を広め、平和主義

の国を好戦的なヒステリー集団に変えてくれる。

 

 

p016

 

公益を理解して実現できるのは、それだけの知性をもった「責任感」のある「特別な

人間たち」だけだと考えていたからである。

 

この理論からすると、万人のためになる公益は少数のエリート、ちょうどデューイ派が

言っていたような知識階層だけにしか理解できず、「一般市民にはわからない」という

ことになる。 こうした考え方は何百年も前からあった。

 

たとえば、これは典型的なレーニン主義者の見方でもあった。

 

==>> さて、いきなり一般庶民が反感を持つような主張が展開されているのですが、

     よくよく考えてみると、支配層にとっては、難しいことは一般庶民に知らしめ

     ない方が都合が良いということのようです。

     要するに論語の「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」と同じですね。

     

p018

 

そこでときどき、彼らは特別階級の誰かに支持を表明することを許される。「私たちは

この人をリーダーにしたい」、「あの人をリーダーにしたい」というような発言をする

機会も与えられるのだ。 何しろここは民主主義社会で、全体主義国家ではないからだ。

これを選挙という。

 

だが、いったん特別階級の誰かに支持を表明したら、あとはまた観客に戻って彼らの行動

を傍観する。 「とまどえる群れ」は参加者とはみなされていない

これこそ正しく機能している民主主義社会の姿なのである。

 

==>> チョムスキーさんの表現は、かなり皮肉がこもっているので、うっかり

     誤解しそうになるのですが、じっくり読んでいると、なるほどそうだなと

     じわっと来ます。

 

p020

 

そこで、とまどえる群れを飼いならすための何かが必要になる。 それが民主主義の

新しい革命的な技法、つまり「合意のでっちあげ」である。 メディアと教育機関と

大衆文化は切り離しておかなければならない。 政治を動かす階級と意思決定者は、

そうしたでっちあげにある程度の現実性をもたせなければならず、それと同時に彼らが

それをほどほどに信じ込むようにすることも必要だ。

 

p021

 

一部の者を責任ある特別階級へといざなう教育システムが必要になってくる。

国家と企業の癒着関係に代表されるような私的権力がどんな価値観をもち、何を利益と

しているかを、徹底的に教えこまなければならない。

 

==>> さあ、ここで、メディアと教育機関の役割に関する話が出てきました。

     この本のタイトルは「メディア・コントロール」ですから、一番のポイントに

     なる部分かと思います。

     特に、大学の教育内容や運営がどのようになされているのかが気になります。

 

 

p022

 

・・・ケネディ政権の政策に大きな影響をおよぼしたニーバーによれば、

・・・理性をもった人間は「必要な幻想」をつくりだし、人の感情に訴える「過度の

単純化」を提供して、純真な愚か者たちを逸脱させないようにしなければならない

これが現代政治学の主流となった。

 

==>> さて、「純真な愚か者」である私はどうしたらよいのでしょうか。

     「必要な幻想」というのが、今の現在進行形のウクライナ戦争に関しては、

     どのように作りだされているのか・・・・が問題ですね。

     そして、アメリカにおける「分断」がどのように進行したのかにも興味が

     あります。 ロシアによる介入という説もありますが・・・・

     しかし、考えてみれば、ドーキンスさんの「神は妄想である」とか、

     吉本隆明さんの「共同幻想論」などにもあるように、人類の社会文化そのものが

     すべて「妄想」であり「幻想」であるという見方もありますから、なかなか

     ことは複雑です。

 

p023

 

組織的宣伝は民主主義社会にとって、全体主義国家にとっての棍棒と同じ機能をもつ

ものである。 じつに好ましい、賢明な手法ではないか。 なぜならば、公益は

とまどえる群れの手には負えないし、彼らはそれを理解できないからだ。

 

広報(PR)産業を開拓したのはアメリカである。

業界の指導者たちも認めるように、その目的は「大衆の考えを操作する」ことだった。

彼らはクリール委員会の成功や、「赤狩り」とそれにつづく世論形成の成功に多くを学んだ。

 

==>> おお、なんと恐ろしいことが書かれていますねえ。

     その業界の人にとってみれば、某牛丼屋の「生娘をしゃぶ漬けにする」と

     似たようなものなのでしょう。

     PRはパブリック・リレーションということですが、その実際は

     パブリック・コントロールだと言っているわけですね。

     問題は、そのPRの資金がどこから出ているかってことになりそうです。

 

p027

 

スローガンの決定的な価値は、それが本当に重要なこと、つまり「私たちの方針を

支持しますか」という問いから人びとの注意をそらすことにある。

 

本当に重要な問いこそ、絶対に口にしてはならないものなのだ。 だから、人びとに

軍隊を支持するかどうあについて議論させておくのはかまわない。 「もちろん支持

しないわけがない」。そう言わせれば、質問したほうの勝ちだ。

 

・・・私たちはみな一体です、と空虚なスローガンは言う。

 

==>> つまり、こういう事情があるから、国会などでの議論は嚙み合わないように

     なっているわけでしょうか。

     具体的な内容の議論にならない限りは、いつの間にか、いつか来た道を

     歩いてしまうような気がします。

     そうでなくても、事実が隠蔽されたり、書き換えられたり、どこに責任が

     あるのかも分からない状態になったり・・・

     (私自身は戦後生まれなのですが・・・・)

 

p030

 

いや、それ以外のものがあるはずだと考える人が、あるいはいるかもしれないが、

一人でテレビの画像を見つめているものだから、きっと自分のほうがおかしいのだと

思ってしまう。 テレビにはそれしか映されないからだ。 しかも、組織のようなものが

いっさい許されていないからーーこれが決定的なのだがーー自分がおかしいかどうかを

見極める判断の基準がない。 

 

p031

 

組合は存在しないも同然で、その他の大衆組織もないに等しい。 政党も組織もない。

すくなくとも構造的に、理想にはほど遠い現状なのである。

メディアは企業の占有物であり、いずれも同じような見解をもっている

 

==>> これは、おそらく、今の混沌とした世界情勢の中では、一部の情報通の人を

     除いて、だれもが悩んでいるのではないかと思います。

     私は全く情報通ではありませんから、どのようなニュースソースを信じて

     いわゆるファクト・チェックをすればいいのかと思うわけです。

     そして、仮にファクト・チェックができたとしても、それに基づいて

     全体の状況をどのように判断すればいいのか、という難題があるわけです。

     もっとも、いわゆる政治の専門家とか評論家であっても、様々な見方がある

     わけですから、所詮同じかなと開き直ることもできますが・・・・

 

 

p034

 

アメリカの異議申し立て活動の大半は教会から起こっている

理由は単純で、教会がそこにあったからだ。

 

p035

 

とまどえる群れは決して完全には飼いならされない。 つまり、これは止むことのない

戦いである。 1930年代には、反乱が起こっては鎮圧された。 60年代にも、

また新たな異議申し立ての運動の波が起こった。 これには名前がついていて、特別階級

が「民主主義の危機」と呼んだのである。

 

・・・国民を再び無気力に、従順に、受動的にしなければならない。

 

==>> アメリカでは教会がそのような場になっているというのは、

     フィリピンにも似たところがあるなと感じます。

     しかし、アメリカの場合は、いろいろと本を読んで来たところで感じるのは、

     特に最近はキリスト教の原理主義的なグループが勢いを増しているという

     点でしょうか。 特に前大統領のトランプの支持母体になっているのが

     気になります。 なぜなら、トランプが気に入っていた外国の首脳と言えば

     ロシアだったり北朝鮮だったりのトップだったからです。

     「民主主義の危機」という言葉は、アメリカの場合は、どちらの陣営にとっても

     使い勝手のよいスローガンになり得るので厄介なのだろうと思います。

 

 

p036

 

湾岸戦争の興奮のなかで「ワシントン・ポスト」が得々と書いたように、

「軍事行動の価値」を重視するという考えを国民の頭に吹きこまなければならない。

・・・国内のエリートの目的をはたすために世界中で武力を行使する暴力社会を理想と

するなら、大衆に軍事行動の価値を正しく理解させ、暴力の行使に病的な拒否反応を

引き起こさせないようにしなければならない。

ヴェトナム・シンドロームなどは克服しなければならないのだ。

 

==>> チョムスキーさんの本を読んでいると、アメリカの大手のメディアの

     ほとんどをこき下ろしていますので、政治的にどのような位置にある人なの

     だろうと不思議な感じがします。

     解説者などの書いたものを読むと、チョムスキーさんは党派には与しない人だ

     そうですから、単純な位置づけは難しそうです。

     

 

p038

 

メディアと教育制度を完全に掌握してさえすれば、あとは学者がおとなしくしている

かぎり、どんな説でも世間に流布させることができるのだ。

 

それを示唆する一つの例が、マサチューセッツ大学で行われた調査にあらわれている。

 

p039

 

質問の一つに、ヴェトナム戦争におけるヴェトナム人犠牲者は何人くらいと思うか、

というのがあった。

今日のアメリカの学生の平均的な答えは、約10万人。 公式の数字は約200万人

である。 

 

p039

 

中東問題でも、国際テロでも、中米問題でも何でもいいーー国民に提示される世界像は、

現実とは似ても似つかぬものなのだ。その問題の真実は、嘘に嘘を重ねた堂々たる

つくり話の下に葬られている。民主主義の脅威を防ぐという点からすれば大成功だ。

 

==>> ここでは、自分の国が起こしている外国での戦争に関して、

     アメリカ人は正しく認識していないということを述べているようです。

     そしてそれを可能にしているのは、大手メディアを含む報道のあり方だと

     言っているようです。

     いわゆる大本営発表ですね。

     これは、全体主義国家の専売特許かと思いきや、民主主義の旗手のような

     顔をしている国でも、程度の差や、手段の差こそあれ、似ているということ

     を言っているようです。

 

 

p046

 

いつでも都合よくつくりだせる怪物は、かつてロシア人だった。 ロシア人なら、

つねに自らを守る必要のある敵に仕立てることができた。 ところが昨今、ロシア人は

敵としての魅力を失いつつある。

ロシア人を利用するのは日を追って難しくなっている。

 

p048

 

そこで、国際テロリストや麻薬密売組織、アラブの狂信者、新手のヒトラーたる

サダム・フセインなどに、世界征服に乗り出させることになった。 そうした輩を

次から次へと出現させなければならないのである。

 

==>> この本の初版は2003年ですから、相当世界情勢は変わってしまいました。

     ロシアがプーチン皇帝によって、その地位を回復しようとしているようです。

     おまけに、アメリカは大統領選挙ですらロシアにかき回された

     というもっぱらの噂ですし、前大統領はそのロシアの大統領のお気に入り

     のようですから、グジャグジャです。

 

 

p058

 

イラクの民主主義者の反対勢力について、私たちは何も聞かされていない。

彼らについて知りたければ、ドイツやイギリスの新聞を見るしかない

さほど多く書かれているわけではないが、アメリカの新聞よりも厳しく統制されていない

ので、少しはものが言えるのである。

これは組織的宣伝の恐るべき成功である。

第一に、イラクの民主主義者の声は完全に排除されている。 そして第二に、誰も

それに気づいていない。

 

==>> さて、これで頭に浮かぶのが「報道の自由度ランキング」です。

     これは2021年度のデータですが、日本は67位、アメリカは44位です。

     https://ecodb.net/ranking/pfi.html

 

     そして、2022年度の最新のニュースとしては、こうなっています。

    https://sustainablejapan.jp/2022/05/04/2022-world-press-freedom-index/72895

    「日本は2021年から4つ順位を落とした。RSFのコメントでは、2012年以降、

民族主義的右派が台頭し、多くのジャーナリストが、不信感や敵意を感じている

とした。また、記者クラブ制度に関しても、記者の自己検閲を誘発し、フリーラ

ンサーや外国人記者に対する露骨な差別を表している主張した。特定秘密保

護法による過度な規制を緩和することを政府が拒んでいることもマイナス要因

とした。

他には、日本政府と大企業は、日常的に主要メディアの経営に圧力をかけており

その結果、腐敗、セクハラ、新型コロナウイルスや放射能、公害等、デリケート

と目されるテーマについては、激しい自己検閲が行われていると指摘。」

 

G7諸国では、ドイツ16位、カナダ19位、英国24位、フランス26位、

米国44、イタリア58、日本71の順。アジア諸国では、台湾38位、

韓国43位、インドネシア113位、タイ115位、マレーシア119位、

シンガポール139位、カンボジア142位、フィリピン147位、ベトナム174位、

中国175位、ミャンマー176位、北朝鮮180位。」

 

このチョムスキーさんの本には、主にアメリカの内情が書かれているの

ですが、このデータを見る限りは、アメリカより日本はもっと悲惨な

状態にあるってことを認識すべきなのでしょうね。

 

     ・・・ってことは、日本のメディアよりも、ドイツやイギリスやアメリカの

     メディアの方が頼りになるってことですね。


     ちなみに、日本のメディアに対する外国人ジャーナリストの評価は

     どうなんでしょうか。 たった3人の評価ですが、面白いものがありました。

     外国人記者は、なぜ東京新聞を「ダントツ信頼できるメディア」に選んだのか~独自記事の数から分析してみた(牧野 洋) | 現代ビジネス | 講談社(1/4) (ismedia.jp)

     「雑誌プレジデント(7月18日号)が外国人記者の評価に基づいて「日本の
     マスコミ」 信頼度ランキングを実施したところ、東京新聞が断トツの首位に
     躍り出たのだろう。
     具体的には、東京新聞は10点満点中の8.2点(米ニューヨーク・タイムズ紙の
     東京支局長を務めたマーティン・ファクラー氏ら3記者による平均値)。産経
     と朝日は5.0点で並んで2位、続いて毎日(4.3点)、日本経済(2.8点)、読売
     (2.3点)、NHK(0.7点)となった。評価した記者が3人と少ないのが気に
     なるが、最下位NHKの0.7点はショッキングな数字だ。」

 

 

p070

 

問題は単に偽情報や湾岸危機にあるのではない。

問題はそれよりもずっと奥が深い。 私たちは自由な社会に住みたいのだろうか、

それとも自ら好んで背負ったも同然の全体主義社会に住みたいのだろうか

 

・・・知識階級がおとなしく命令にしたがい、求められるままスローガンを繰り返す

だけの、内側から腐っていくような社会に住みたいのだろうか。

 

==>> 「自ら好んで背負ったも同然の全体主義社会」というのは、どうも

     民主主義国とされている国の実状を皮肉って言っているようです。

     そして、いわゆる知識階級とされている人達の責任ということについても

     警鐘を鳴らしているように見えます。

 

 

では、次回は「火星から来たジャーナリスト: 「対テロ戦争」はどのように報道

されるべきか」を読んでいきましょう。

 

 

=== 次回その2 に続きます ===

 チョムスキー著「メディア・コントロール: 正義なき民主主義と国際社会」を読む ― その2 J・F・ケネディ=善玉幻想を嗤う。 米軍国主義に協力する日本。 (sasetamotsubaguio.blogspot.com)

 

 

 

 

 

 

 

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