ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その1 日本を恐れたアメリカ。 巨大金融機関と多国籍企業のマネーによる政治支配
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その1 日本を恐れたアメリカ。 巨大金融機関と多国籍企業のマネーによる政治支配
マサチューセッツ工科大学名誉教授 ノーム・チョムスキー著
大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
私は元日本語教師なので、チョムスキーと言えば言語学と生成文法しか繋がるところが
ありませんでした。
先日感想文を書いた認知言語学との関連で、生成文法のことを知りたいと思ったわけです。
「李在鎬著「認知言語学への誘い」―認知言語学は意味の科学、生成言語学との違い?」
https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2022/01/blog-post_31.html
今回も「自然科学としての言語学 ― 生成文法とは何か」の方がメインで購入し、
たまたまチョムスキー著のこの「Who rules the world?」という本が並んでいるので、
本来ノンポリな私ですが、ちょっとチョムスキーという人がどんな人なのかを知りたい
と思って読むことにしました。
たまたま、今現在進行中の世界のニュースと言えば、ロシアがウクライナに侵攻するのか
どうかという話なんですが、この件についても、この本で関連する歴史が書かれています。
私には、日本国内にせよ海外にせよ、政治のことについてはトンチンカンですから、
抜き書きしながらコメントは書きますが、もちろんトンチンカンなコメントになる
でしょうが、私の正直な感想を書きたいと思います。
では、まず、ノーム・チョムスキーさんがどんな人なのかをチェックしておきましょう。
https://kotobank.jp/word/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC-98445
「アメリカの言語学者。1961年よりマサチューセッツ工科大学教授。1950年代中期より、
一連の著述によって文法学界に革命をもたらしたといわれている。」
「チョムスキーは、構造主義言語学の限界を指摘し、その理論的基盤となっている経験主義
哲学を批判しつつ、自身は合理主義哲学による言語観をよりどころに、より精神主義的な
言語理論を展開した。とくに、子供の言語習得能力を生得的なものと仮定し、その習得能力
の解明こそが言語理論の終極的な目標であるとしている。チョムスキーの影響力は言語学
界のみならず、哲学、コンピュータ科学、心理学、そして社会学にと広範囲に及んでいる。」
「なお、彼は反戦運動その他の市民運動にも積極的で、この方面の著述活動も活発であり、思想家チョムスキーとしても知識人一般に広く知られている。」
「また、反戦運動や現代アメリカ社会批判によって広く知られている。」
・・・ということで、この本では、言語学ではなく、思想家、反戦運動家、特に
現代アメリカ社会批判、共和党も民主党も批判しているチョムスキーの考え方を学びたい
と思います。 それを通して、民主主義の危機を知ることになるのかと思います。
p016
日本の役割は、米国の政策立案者たちにとって重要な関心事でした。 米国の内部資料を
読むと、1950年からベトナムに介入した米国の動機は、正統的な「ドミノ理論」が
大きな理由となっています。 これに従うなら、ベトナムで独自の発展が成功すると、
近隣諸国も同じ道を歩むかもしれません。 その動きが資源豊かなインドネシアまで
到達すると、独立した東南アジアに日本が受け入れられ、工業と技術の中心地になる
可能性が出てきます。
そうなると、戦前の日本のファシストたちが確立しようと狙っていた秩序が実現する
ことになります。
・・米国が恐れたのは日本の共産主義化よりも、米国が支配する「大領域」の外側
における独自の発展に、日本が組み込まれることでした。
==>> これは「日本の読者の皆様へ」という章の一部です。
1950年といえば、私が生まれた年です。
ベトナム戦争は1965年から1975年までですから、私が高校生の
時には、我が故郷の佐世保では、米空母のエンタープライズ騒動も
ありました。
そのような時代に、米国が考えていたのは、上記のようなことだった
というのです。米国は、日本の行方を恐れていたということですね。
米国の「大領域」の中で、東南アジアがどんどん独立してしまったら、
そこで日本が大きな力を発揮するのではないかと恐れていた。
p017
米国の国力は1945年に頂点を迎えていますが、長続きはしていません。
1949年になると米国の力は衰退をはじめています。 「中国を失った」と呼ばれる
出来事が起こったためです。 「失った」というのは、それまで米国が所有していたと
いうことです。 中国を失ったため「大領域」は縮小されましたが、それだけでなく
大きな国内問題も起こりました。
この「中国を失った」のは誰の責任かという問題が「マッカーシズム(赤狩り)」という
抑圧を生んだのです。
・・・ケネディ大統領がインドシナ問題で悩んでいたとき、考慮したことの一つは
「インドシナを失った」と非難されたくなかったことです。
このような状態は今も続いています。
==>> この部分が、この本を貫いている大きな柱なのかもしれません。
第二次大戦後にロシアと分け合った世界の半分は「俺のものだ」。
そして「俺が所有するものを失う」ことは耐えられない。
そのような意識が米国の振る舞いの根底にあるということです。
p019
1990年代から、多国籍企業による国家の支配が強まっています。
多国籍企業は国家政策の後押しを得て、国際的な分業体制をどんどん構築しています。
この連鎖では「主導企業」が支配する複雑な世界ネットワークを通して生産を外注
します。 その典型はアップル社です。
・・・中国での付加価値や利潤は少なく、中国の労働者たちは劣悪な環境で酷使されて
います。 iPhoneの生産には何千もの会社が関係していますが、それらの企業はアップル
との正式な関係はありません。下層の会社は、作っている製品がどこに行くのかも
しらないでしょう。
==>> ここでは、1990年代から国家を支配する者が変化してきていることを
述べています。
企業の方が国家よりも力を持ってきているという話は以前からありました。
ここで、こちらのサイトでその一例を見ておきましょう。
【グローバル企業は国家を超える?】21世紀の国家と企業の関係性
「世界一売上の多い企業はアメリカのウェルマートで、年間の売上高は、
約50兆円だと言われています。50兆円と言えば、カナダやオーストラリアの
国家予算に匹敵する金額で、グローバルに活躍している企業の中には、小国の
国家予算よりも多い売上高の企業は珍しくありません。
国家の方が企業よりも強い権力を持っているというイメージを、漠然と抱いて
いる人も多いかもしれませんが、実は近年、企業が国家以上の影響力を行使
できるようになっています。」
「グローバル企業が国家にもたらす影響には良い面があるとはいえ、近年国家
とグローバル企業を巡る対立が激しくなっているのも事実です。代表的な問題
がタックスヘイヴンを巡る問題です。」
・・・このサイトが公務員総研というのも、なかなか意味深な感じがありますね。
p020
スターズが企業による所有を調査したところ、製造、金融、サービス、小売りなどほぼ
全分野において、世界経済を所有しているのは圧倒的に米国企業であることが判明しま
した。 米企業による所有率は全体の50パーセントに迫っています。
これは米国のパワーが歴史的に強かった1945年の最大推計とほぼ同じです。
従来の測り方だと、米国の富は1945年から低下して、現在は世界の20パーセントほど
でしょう。 しかし、米国企業のグローバル経済の所有率は爆発的に高まっています。
p021
大企業は国家に頼る一方で、支配もしています。 ただ、このような関係は新しいもの
ではありません。
・・・現在の支配者たちは巨大な複合企業群であり、金融操作に焦点を合わせていますが、
基本的構造は変わっていません。
==>> 上記のスターズというのは、政治経済学者のショーン・スターズのことです。
国の富をGDPで測る従来のやり方はもう古いとしているそうです。
この日本向けの署名は2017年12月の日づけになっています。
ここまでの大筋の話で、ほぼ傾向は分ったようなものですが、
ここから歴史的に細かいところを読みながら、チョムスキーさんが
なにを警告しようとしているのかをみていきたいと思います。
ところで、こちらのサイトにチョムスキーさんの思想についての
面白い記事がありました。
「思い込みを疑い、批判的に世界を考察せよ!」
──92歳の「苛烈なる革命家」、ノーム・チョムスキー。
https://www.vogue.co.jp/change/article/innovative-senior-noam-chomsky
「「人間の本性」とは、自発的に無限の言語表現を生成することを可能にする
言語能力に支えられた「自由な思考」、「理性」、「創造性」であるという発見で
あった。
この科学的認識は、幼少時からチョムスキーの内にあった「自由を求める気質」、
そして人間の自由を最も基本的な価値として社会を見つめる性向を強力に
バックアップすることになった。」
「当時多くの人たちが希望をもっていたボルシェヴィズム(レーニン主義)に
ついては、権威主義的・圧政的であるとして早くから嫌悪感を抱いていた。
こうした中、チョムスキーを一番惹きつけたのは、人間の絶対的自由を説く
アナキズム(反権威主義的自由主義)だった。高校生のころ、日本への原爆投下
のニュースに同級生たちが歓喜するなか、その雰囲気に耐えきれずに独りで
森の中に入っていって悄然としていたという。」
「アメリカの外交政策を中心とした世界政治について「人間の自由」を守る立場
から数十年にわたって何者も怖れることなく発言し続けてきた。」
・・・上記のような著者の思想的立場は、このあとたくさん出て来ます。
特に、米国の共和党にも民主党にも与しない立場は、白黒をつけて
米国の政治的対立を単純に理解しようとする私のような凡人には
かなりの刺激になります。
p023
第二次世界大戦後、各国の格差が広がる中で、米国が経済力と軍事力の両面で圧倒的
ナンバーワンになっていますが、それは今も変わりません。
米国は今でもグローバルな場における議論のテーマをほぼ決めています。
多くの人々の関心を呼ぶテーマといえば、イスラエル・パレスチナ問題、イラン、
ラテンアメリカ、テロとの戦争、国際的な経済の枠組み、権利と正義、さらには
核戦争や環境破壊といった、文明の生き残りをかけた究極的な問題も含まれます。
p024
この「実質的な世界政府」とは、米英仏日独伊加のG7と彼らが支配する組織です。
つまり「新しい帝国主義の時代」におけるIMF(国際通貨基金)やグローバルな
貿易組織などです。かれら「実質的な世界政府」は、当然ながら支配している国の一般市民
の代表ではまったくありません。
・・・米国では、経済エリートと経済界の利益を代弁する組織化されたグループが、
米政府の政策に強大な影響力を持つ一方、一般庶民と大衆の利益を求めるグループの
持つ影響力は皆無か、あってもわずかです。
「調査の結果は、経済エリートが圧倒的に有利な立場にあることを示している。
一方、多数決による選挙制民主主義や多数決が機能するという考えは否定されている」
・・・したがって、選挙の資金の出所を見れば、どのような政策が選ばれるかが、
極めて正確に予測できます。
==>> 結局は金ということになってしまうようです。
やっぱりそうなのか・・・という暗~い雰囲気にのまれてしまいます。
そこで、アメリカの大統領選挙の場合の選挙資金について、こちらの
NHKの解説を読んでみましょう。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/basic/system/system_02.html
「2010年に、連邦高等裁判所は候補者から独立した政治団体への献金に金額の
上限を設けるのは自由を尊重するアメリカの建国精神に反するなどとして、
憲法違反だと判断。このため、資金力のある個人や大企業から政治資金をいくら
でも集められるようになった。」
・・・凄いですねえ。さすがに自由の国アメリカですねえ。
金=自由というのが憲法の精神なわけですか。
p025
ヨーロッパでも民主主義の衰退は同じです。
重大な問題の決断は、EU(欧州連合)の本部があるブリュッセルの官僚たちが行って
います。彼らはヨーロッパの金融権力の代理人です。
p026
彼らの民主主義をないがしろにする姿勢は、2015年7月の「ギリシア危機」であきらか
になりました。 このとき、ギリシャの人々は自らの社会の命運を決めるのに意見が言える
と考えていました。 しかし、ギリシャの人々の希望は、ブリュッセルの官僚たち、
具体的には欧州委員会と欧州中央銀行、そしてIMFの“冷酷なトロイカ”による緊縮
経済政策によって粉砕されました・・・・・
・・・結局、ギリシャ国民は、リスクマネーの貸付をしていたフランスやドイツの銀行
を救済する道具として使われただけだったのです。
==>> この辺りの世界の金融機関の話になると、私なんぞはさっぱり分かりません。
しかし、庶民は損害を受け、銀行などの大企業は救済されるという構図は
日本でも歴史的にみられる絵図ですから、なんとなく分かります。
p026
新自由主義時代になって、・・・・支配者たちは、さらに独占的となった経済の上層部
から選ばれるようになりました。 “経済の上層部”というのは、時には強奪も辞さない
巨大な金融機関であり、国に保護された多国籍企業であり、さらに、これらの企業の
利益を代弁する政治家たちです。
==>> さて、新自由主義です。今更ですが、確認しておきましょう。
https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-298677
「1980年代以降に世界的に支配的となった経済思想・政策の潮流。・・・
新自由主義はケインズ主義的福祉国家の所得再分配政策などがもたらす
「過剰統治」と国家の肥大化こそがシステムの機能不全の原因として、規制緩和、
福祉削減、緊縮財政、自己責任などを旗印に台頭した。」
「新自由主義は新保守主義と手をたずさえながら、家族の価値のような保守的
道徳観の復活、治安の強化、マイノリティの権利の削減、排他的ナショナリズム
といった強い国家の再編成を促す傾向」
「企業権力の肥大化、南北間のみならず一国内での貧富の格差の拡大、弱肉強食
イデオロギーの浸透による市民の連帯意識の衰退といった負の効果ももたらし」
「1970年代後半からラテンアメリカ諸国,イギリスのサッチャー,アメリカの
レーガン,日本の中曾根康弘の各政権が新自由主義政策を採用した。社会思想と
しては,〈新保守主義〉と呼ばれるように,市民の自由や権利の保護より資本の
自由な活動を優位に置く点を特徴とする。」
「「官から民へ」というスローガンを唱えて登場した小泉政権も、新自由主義
改革を推進するために、党内の抵抗勢力との間で複雑な駆け引きを繰り返して
きた。結果的には、郵政民営化や社会保障費の抑制など新自由主義的政策が
小泉政権の遺産となった。」
・・・・なるほど、振り返ってみると、上記にあるようなキーワードに
溢れた時代でした。 しかし、そのことによって、一世を風靡した
「一億総中流」意識は無くなって、「格差社会」が、特に若い世代にも
浸透してきているような気がします。
=== 次回その2 に続きます ===
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