ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その8 「すべては自分のもの、他者には何も与えない」、 そして大衆は賃金奴隷となった
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その8 「すべては自分のもの、他者には何も与えない」、 そして大衆は賃金奴隷となった
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第十章 現代は“破滅の前夜”なのか?」
p204
人類の歴史上初めて、私たちは全人類を滅ぼす能力を獲得した。 それは1945年から
現実のものとなった。 もっと長期の問題だが、環境破壊でも似たような状態になること
が最近ようやく認識されてきた。
・・・また別の危険もある。 たとえば感染症の世界的流行だ。・・・つまり、さまざまな
“破滅へのプロセス”が進行中で、その“体制”も着々と整いつつある。
p206
つまり、世界の一方の端では先住民の部族社会が大災害への疾駆を食い止めようとして
いる。 もう一方の端では、世界史の中でもっとも豊かで強力な社会である米国やカナダ
が、環境をできるだけ早く破壊しようと全速力で疾駆している。
・・・オバマ大統領も二大政党も、メディアも国際報道機関も、米国が「100年に
わたるエネルギー自給」ができるという見通しに熱狂している。
・・・化石燃料の使用を最大にして、世界の破滅に貢献しようということだ。
==>> ここで著者は、奇妙なことに気づくと書いています。
「危機を収めようとか乗り越えようとしているのは一番発展が遅れている
社会だ。 そこで暮らすのは先住民たちや、あるいはその末裔だ。」
つまり、本来この危機を作りだしている当事者たちがやらなくてはいけない
ことを、それから一番遠いところにいる人たちが警告して実行しようと
努力しているという話です。
p211
米韓合同軍事演習が朝鮮半島で行われた。 これを北朝鮮の視点から見たら、恐れを感じた
に違いない。 米国を標的とする軍事演習がカナダで行われたら、米国民は脅威を感じる
だろう。 朝鮮半島における米韓演習では、最新鋭のステルス機B―2とB―52が
参加しており、北朝鮮の国境周辺で核攻撃演習をしているのだ。
==>> 最近は日本の周辺でも、中国とロシアが軍事訓練を行なっていますが、
それは、先に行われた日米豪などの太平洋での訓練へのお返しかと
思われます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211019/k10013312831000.html
「日本やアメリカ、オーストラリアなどが中国を念頭にインド太平洋地域で
多国間の訓練を繰り返す中、中国がロシアとの連携をアピールした形で、
防衛省は航行の目的などについて分析を進めています。」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210825/k10013222571000.html
「自衛隊は、インド太平洋地域で長期展開を行っているイギリスの最新鋭空母
「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群と共同訓練を行いました。
訓練には、アメリカ軍やオランダ軍も参加し、この地域で海洋進出の動きを強め
る中国を念頭に、多国間での連携を示した形です。」
「フランス海軍は、インド太平洋地域に定期的に艦艇を派遣しているほか、
去年12月と、ことし2月には海上自衛隊、アメリカ海軍と共同訓練を行いま
した。」
「ドイツは8月に、フリゲート艦1隻をインド太平洋地域に向けて出航させ、
海上自衛隊は、ことし秋には共同訓練を行う予定です。」
「オーストラリアとインドについては、それぞれの軍と自衛隊との共同訓練が
行われていますが、去年11月には、これにアメリカを加え、4か国で共同の
海上訓練を行いました。」
・・・つまり、日米英独仏豪印の訓練に対する返礼ということのようです。
そして、今現在は、ロシアに対して、ウクライナとNATO諸国が現実の
火花を散らしているわけです。
そして、その中では、原発の話やら核攻撃の話などがチラチラと出てきて
います。
チョムスキーさんのこの本の内容が、絵空事だというのは難しい状況ですね。
それにしてもちょっと変と思うのは、第二次大戦中の敗戦国である日独が、
戦勝国である米英仏豪印とスクラムを組み、他の戦勝国である中ロと争って
いるという構図です。
元々中ロは共産主義だということではあるんですが、実質上はほぼ資本主義
の国になっているのになあと思うわけです。
まあ、同じ資本主義になってしまって、富の奪い合いになってしまったと
いうことならば納得がいくのですが。
p219
イランの「脅威」はまったくのところ欧米の妄想にすぎない。 世界の大部分を占める
非同盟諸国は、イランの権利を断固として支持している。 イランはNPT(核拡散
防止条約)にも署名しており、ウラン濃縮の権利がある。
・・・欧米ではアラブ諸国が米国の立場を支持していると語られるが、支持しているのは
独裁者たちだけで一般人は別だ。
・・・権威ある意見は米国の諜報機関と国防総省から聞くことができる。 彼らの結論
では、イランは軍事的な脅威ではないという。
==>> 最近のニュースでは、中ロが忙しくて、イランは出なくなっていますが、
ちょっと前までは、トランプのアメリカとイランのやりとりが盛んでした。
テーブルをひっくり返したトランプに、ヨーロッパも困り顔でしたが、
あれはどうなったのでしょう。
国防費のランキングをみると、イランは19位で、イスラエルとポーランドの
間に位置していますので、軍事的な脅威ではないというのはそうなのでしょう。
これによると、イランは 130億ドルぐらいになっています。
ちなみに、日本は466億ドル、韓国は430億ドルぐらいです。
「脅威」と言えば、ここで北朝鮮が気になるところです。
しかし、上のランキングには名前が出ていません。
こちらのサイトに情報がありました。
https://japanese.joins.com/JArticle/232111
「2015年韓国の国防費は約395億ドル(約4兆3756億円)、同じ期間
の北朝鮮の国防費は約83億ドル(約9193億円、最大値)だ。」
「北朝鮮は攻撃ミサイルや戦闘艦、潜水艦保有現況で、韓国に比べて明らかに
上回っている。潜水艦も北朝鮮が韓国(23隻)の3倍となる73隻を保有して
いることが分かった。北朝鮮は核戦争力の側面でも圧倒的優位を誇っている
ことが確認できる。」
と書いてあります。
・・・金額的には5分の1に過ぎないのに、なぜ軍事力は韓国の2.2倍と
いう数字になるのか、不思議です。
税金の使い方が上手ってことですか??
それは本当に「脅威」ですね。
仮におよそ90億ドルだとすると、上のランキングでどこに入るかと言えば、
26位のアルジェリア 95億ドルとインドネシア74億ドルの間に入ること
になります。 クウェート、ノルウェー、タイなどよりも多い軍事費です。
あとの話は、軍事オタクの皆さんにお任せします。
p224
アダム・スミスの明快な観察も忘れてはならない。 彼の時代の「人類の支配者たち」
はイギリスの商人と製造業者だった。 彼らは飽くことなく「邪悪な処世訓」を
追究した。 「すべては自分のもの、他者には何も与えない」というものだ。
リベラル派のクリントン政権は別の方法で労働者を痛めつけた。 非常に効果的
だったのは、米国、カナダ、メキシコを結び付けるNAFTA(北米自由貿易協定)だ。
NAFTAの名称に「自由貿易協定」とあるのはプロパガンダにすぎない。まったく
そんな性質のものではない。 このような協定の典型であり保護主義の要素が強い。
・・・これは投資家の権利に関する協定だ。 ・・・ひとつの効果は、労働者の組織が
切り崩されたことだ。
p225
多くの面で、ノーマン・ウェアが書いた労働者の状態は、現在とよく似ている。
格差は再び驚くほど大きくなり、1920年代の再来のようだ。 過去10年間を
見ると、経済成長による増収の95パーセントが人口の1パーセントの財布に入った。
==>> つまり、民主党政権ですら、一部の超大金持ちによってコントロールされ、
アダム・スミスの時代、あるいは戦前の格差社会を再現させるような
状況になってしまっているということです。
そして、日本においても、格差の問題が取り上げられていますが、
特に今は、新型コロナ禍の中で進みつつある業務のデジタル化が、さらなる
格差を生みだしていくと見られているようです。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83243?page=4
「ひとたびデジタルに移行した企業やビジネスパーソンは、その方が圧倒的に
低コストで効率が良いので、デジタルな商談に応じない相手との取り引は縮小
していくはずだ。一方、デジタル業務に移行できない、あるいは移行したくない
企業や人は、アナログな商習慣を残した相手との取り引を強めていくことに
なる。こうした動きが5年も続けば、両者には決定的なレベルで経済格差が
生じているだろう。」
「コロナ危機で経済はボロボロであるにもかかわらず、米国を中心に株価は
上昇を続けているが、相場をリードしてきたのは、GAFA(米グーグル、
米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)に代表される
IT企業群である。」
「社会のデジタル化で失われるのは、機械で代替可能なルーティンワークに
従事するホワイトカラーの仕事であって、社会の維持に必要不可欠な仕事へ
のニーズはまったく変わらない。」
・・・つまり、「機械で代替可能なルーティンワークに従事するホワイトカラー」
は、どんどん落ち込んでいくということのようです。
そういう意味では、私が過去40年ほどやった仕事はほぼ機械で置き換え
られてしまうということですね。いいタイミングで生まれたものです。
いずれにせよ、ごく一部の超大金持ちがこのような大きなうねりを管理して
いくことに変りはないということでしょう。
p227
資本主義革命は“対価”から“賃金”への決定的な変化を起こした。 生産者が生産物を
売って対価を得ていたとき、「彼は自分自身であることを維持していた。 だが労働を
売り始めたとき、自分自身を売ってしまった」とウェアは各。 そして、人としての
尊厳を失い、奴隷となった。 つまり「賃金奴隷」だ。
・・・このような理解は広く知られており、共和党のスローガンにもなっている。
主張したのは指導的な立場にあったエイブラハム・リンカーンだ。
==>> なんのために仕事をするのかという問いに対しては、おそらく
「パンを得るため」というのと「生き甲斐を得るため」のふたつがあるの
だろうと思うのですが、その両者が同時に得られる職に就ける人はそうそう
いないのではないかと思います。
私の場合は、最初から「パンを得るため」と割り切っていました。
しかし、割り切っていたから良かったのかもしれませんが、仕事をいろいろと
していく中で、面白い仕事もあって、生き甲斐とまではいかないまでも
仕事が楽しいこともありました。
そして、仕事をいろいろやっていく中で、自分がどういう人間かも見えて
きたりしたものです。 何事も、やってみなくちゃ分かりません。
p230
米国には、学術研究や政府の発表、大衆の議論に共通する、ある「スタンダードな定説」
が存在する。 「政府の主要な仕事は安全保障だ」という定説だ。 さらに1945年
以降の米国とその同盟国にとって主要な関心事はソ連の脅威だったという。
・・・1989年にソ連の脅威が消滅したとき、何が起こったか?
答えは「何も変わらなかった」だ。
米国はすぐにパナマへ侵攻し、数千人を殺害して、傀儡政権を擁立した。
==>> 「政府の主要な仕事は安全保障だ」というのは、日本ではあまり議論される
ことがありませんね。
私は国会で大いに議論されるべきものだと思います。
与野党関係なく、ギリギリの徹底的な真面目な・実質的な議論を期待します。
文民統制というのなら、なおさらのことです。
p231
侵攻中の米軍の犯罪を非難する国連安保理の決議に、米国が拒否権を発動したことも
無視された。 英国が棄権した以外は全会一致で採択された決議だ。
すべてはいつものことだ。 そしてすべて忘れられた(それもまた、いつものことだ)。
==>> さて、今現在進行中の話はなんでしょうか。
もちろん、ロシアのウクライナへの侵攻です。 アメリカによる侵攻では
ありません。 しかし、同じような構図のことが起こっているわけです。
そして、ロシアに対する非難決議はどうなったでしょうか・・・
ロシア軍撤退を求める国連決議。加盟193カ国の投票の内訳は?
【ウクライナ侵攻】
https://www.huffingtonpost.jp/entry/united-nations_jp_62201364e4b0a7b54cd909c1
「反対票は5カ国。当事者であるロシアのほか、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、
エリトリアだった。中国、インドなど35カ国が棄権。ベネズエラなど12カ国
が無投票だった。国際社会の多くが軍事侵攻を非難する中でも、これらの国は
ロシアに配慮した形となった。」
「■棄権(35カ国)
アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、
中央アフリカ共和国、中国、コンゴ、キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア、
インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギス、ラオス、マダガスカル、
マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、
南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、
タンザニア、ベトナム、ジンバブエ」
・・・棄権の理由はさまざまなんでしょうが、ここで個人的に気になる国は、
中国は勿論ですが、インド、イラン、イラク、 南アフリカ などでしょうか。
ところで、ロシアの友好国とされているのはどんな国なのかをチェックして
おきましょう。
https://milirepo.sabatech.jp/where-are-russias-military-allies-and-cooperating-countries/
「アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギル、タジキスタン、
イラン、中国、 ベネズエラ、 」
いずれも軍事的に密接なようです。
さらに、アフリカの国々とロシアの関係が気になったのでチェックしてみた
ところ、こんな記事がありました。
https://globe.asahi.com/article/12326003
「ロシアは2018年、ギニア、ブルキナファソ、ブルンジ、マダガスカルとそれ
ぞれ軍事協定を結んだ。これとは別に、マリの政府は、同国内に数千人規模の
フランス軍や国連平和維持軍が駐留しているにもかかわらず、ロシア政府に
対テロ戦での支援を求めた。」
アフリカに関しては、中国の影響力が非常に大きいようですから、
ロシアと中国の友好関係を軸にしたアフリカの投票行動も大きいのでしょう。
こちらのサイトに、アフリカと日本、アフリカと中国の関係を比較した記事が
ありました。
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11122001.html
「アフリカで日本国大使館のある国は31カ国ですが、中国は48カ国です。
また、首脳外交は、日本からは総理が7回6カ国に行きましたが、元首クラス
がほとんどの国に頻繁に通う中国とはまったく外交も異なります。また、
アフリカにいる邦人数は、約8000人弱。中国の公式データはありませんが、
私が調べたところで85万人。」
・・・私が西アフリカのベナン共和国に日本語教師としてほぼ1年間滞在した
のは2003年の話ですが、その頃は中国が建設した競技場や、中国料理の
店もあったり、また圧倒的に大使館や領事館の数に差があったので、
驚いたものです。上記の31カ国というのは、そうとう頑張った結果だと
思います。
次回は「第十三章 誰のための安全保障なのか?」から読んでいきます。
=== 次回その9 に続きます ===
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その9 ゴルバチョフの激怒。 「貧乏人から奪う」が米国の信条。 (sasetamotsubaguio.blogspot.com)
===============================
コメント
コメントを投稿