ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その6 米国の衰退は、まともな生存を諦めれば、食い止められる?? 独裁者を支援する米国
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その6 米国の衰退は、まともな生存を諦めれば、食い止められる?? 独裁者を支援する米国
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第六章 本当に米国は終わったのか?」
p121
まず一つ目は、何が起こっているかを理解するには、現実世界で起こっている重要な出来事
に目を向けるだけでは不十分なことだ。 重要な出来事ですら歴史では取り上げられない
ことが多い。 何が起こっているかを理解するには、指導者やエリートたちの“意見”に
注目する必要がある。 彼らが信じていることが“幻想”だとしても、注目しなければなら
ない。
もう一つの教訓は、国民を怯えさせ動員するために心を高揚するような幻想がねつ造され
るが、同時に戦略的で地政学的な計画という背景があることだ。 「幻想」については、
自らの誇張した表現にハマってしまい、本当に信じ込んでいる人々もいるだろう。
一方、戦略的で地政学的な計画は、合理的で安定した長期にわたる原則に基づいている。
・・・国家の行動で持続される要素は隠蔽されていることが多いことを、強調するに
留めておく。
==>> こういう話になってくると、凡人にはほとんど理解不能だってことになり
そうですね。 凡人としては、そのような指導者やエリートたち、あるいは、
「幻想」を振りまくような人、さらには戦略的で地政学的な計画を立案する
ような立場にいる人たちを、しっかり見て、何が起きているのかを
凡人にも分かるように解説してくれる専門家が必要ですね。
ただし、いろんな主義主張の専門家がうじゃうじゃいるのでしょうから、
その中で信頼できる人を探すという難題が凡人にはつきまといますが・・・・
おまけに、個人的な主義主張に拘わらず、客観的にそういう動きを分析できる
人でないといけませんし、その解説を聞く側の凡人としても、特定の主義主張
に惑わされないようにしなくちゃいけません。 ・・・難しい。
p122
米国の衰退は現実だが・・・
・・・支配層の間でもっとも権威がある「フォーリン・アフェアーズ」誌に焦点を当てると、
2011年11月・12月号の表紙に「米国は終わったか?」と、大見出しで書かれている。
・・・海外での「人道的介入」は国の富みを消費しすぎるので縮小すべきだという。
米国衰退の阻止は、国際情勢を語るときに必ず登場するが、その結果、世界を“支配する力”
は東にシフトするといわれる。 中国とインド(たぶん)だ。
p124
中国は世界の製造工場になっているが、周辺の先進工業国と欧米の多国籍企業のための
組立工場が中心だ。ただ、これは時間とともに変わってきている。 製造業というのは
新しいアイデアの土壌であり、大革新をもたらすものだ。 それがすでに中国で起こって
いる。 ・・・・計画の調整と多彩に生まれる新アイデアのためだ。
だが中国が直面する問題は深刻だ。
==>> ここで深刻な問題として揚げられているのは、人口問題、人口ボーナスは
まもなく終わってしまうということのようです。
インドの場合は、もっと深刻だとも書いてあります。
p125
「フィナンシャル・タイムズ」・・・・楽観的な見通しを述べている。
シェールガスを採掘する新技術が開発されたので、米国はエネルギー面で独立できる
かもしれない。 そうなればもう100年ほど世界における覇権を維持することになる
かもしれないという。
==>> ここでチョムスキーさんは、「真剣で責任感のあるメディア」とちょっと
フィナンシャル・タイムズを皮肉っているような書き方にみえますが、
そのような楽観論もあるということを紹介しています。
この辺りをながめてみると、ほとんどが人口問題とエネルギー問題という
話になっているようです。
p126
このようなIPCCの予測に対する批判は、国民にはほとんど知らされていない。
一方、数は少ないが気候変動を否定する人々は、経済界の支援を受けた大規模な宣伝
活動を行なっている。 そのため、多くの米国人は気候変動の脅威に国際的レベルより
関心が低い。 ・・・・気候変動否定論は共和党の選挙候補が茶番劇のような
選挙キャンペーンで必ず唱えなければならない“教義”だ。 議会においても否定論者
の立場は極めて強い。そのため地球温暖化について質問もできないし、真剣に何かを
行なうなど問題外となっている。
簡単にいうと、米国の衰退は、私たちがまともな生存を諦めれば、食い止めることが
できるかもしれない。
==>> 気候変動、温暖化に対する共和党の考え方が、ここまで否定的だったとは
いままでしりませんでした。 もちろんスウェーデンの活動家の若い女性が、
アメリカの元大統領とやりあっていたのは知っていますが・・・・
日本においては、少なくとも正面切って地球温暖化はでっち上げだなんて
ことを言う政治家には、私はお目にかかったことがないし、学校などでも、
きっちり世界が取り組むべき問題として採り上げ、ニュースでも日々
報道されていますから、最低限の基本的考え方としては、世界の
科学者が言っていることに耳を傾けているということなのでしょう。
アメリカの大統領選挙の時にもつくづく分かりましたが、共和党支持者は
ほとんど科学者がいうことを信じていないように見えます。
それは新型コロナ禍でも如実に表れていることですが・・・
地球外のあちこちにロケットや人工衛星などを飛ばしている最先端の国が
こうだとは信じられません。
p127
国務省の政策立案責任者だったケナンは、尊敬されていた政治家であり学者であり、
政策立案者たちの中では穏健なハト派に属していた。 ケナンの考えでは、米国の政策
目的は「不均衡」を維持すべきことだった。 つまり、巨大な豊かさを持つ米国と
貧困諸国をそのまま保つことだ。 その目標を達成するために「あいまいで非現実
的な話をやめなくてはならない。 たとえば人権尊重とか、生活水準を上げるとか、
民主化をはかるなどという考えだ」と助言している。
・・・「利他主義とか世界への貢献」のような「理想主義のスローガンに邪魔」されて
はならないというのだ。
ケナンが意識していたのはアジアだが、米国主導の世界経営参加国には、だいたい適用
できる。
==>> これには本当に驚きました。
なぜならば、私は過去70年ほど生きてきた中で、アメリカこそが
理想の、憧れの国であって、人権尊重、生活水準の向上、世界の民主化、
世界への貢献、宇宙の開発を通じた人類の未来の開拓者、みたいなことを
アメリカから与えられて感じて、そして実際に米系の企業で長年働いて
来たからです。
p129
「スーパードミノ」と呼ぶ日本が、独立したアジアに取り込まれ、その技術と工業の
中心となることだ。 そうなると日本に米国の権力が及ばなくなってしまう。
それが意味するのは太平洋戦争で米国が負けたのと同じになることだ。 米国が戦った
のは、日本がそのような新秩序をアジアに打ち立てようとしたからだった。
==>> つまりその当時、日本は武力によって新秩序を打ち立てようとしていたわけ
ですね。 そして、そのような過去を持つ日本が、今や、「武力によって、
一方的に、現在の秩序を変更してはならない」というようなことを主張して
いるってことになりそうです。
そして、今の世界の状況は、中国やらロシアなどが、当時の日本の立場に
あるみたいです。
p129
インドシナにおける最大の勝利は1965年にもたらされた。 米国が支援した軍事
クーデターがインドネシアで成功したのだった。 クーデターを起こしたスハルト将軍
は、CIAによるとヒトラー、スターリン、毛沢東に引けを取らない大規模な犯罪を
行なったという。
・・・クーデターで民主主義の“脅威”は終わった。貧民が支持する大衆政党が消滅した
からだ。 ・・・・独裁者が国の富みを欧米の投資家に広く振り撒いたのはもちろんだ。
p130
「病原体」はほかの場所でも、おおいに懸念されていた。 それには中東も含まれる。
世俗的な国家主義を英国と米国の政策策定者たちは恐れていた。 そこで政策立案者
たちは、世俗的な国家主義者たちへの対抗馬として、過激なイスラム原理主義者たち
を支援している。
==>> ここで言っている「病原体」とは「民主化」のことなんですねえ。
「国家主義よりもイスラム原理主義のほうがマシ」ということなんですが、
国家主義というのは、下のサイトによれば「国家は個人や国家内のあらゆる社会
集団よりも絶対的に優位する、と主張する政治思想。19世紀以降のドイツ
(プロシア)、戦前の日本、20世紀のファシズム国家などに典型的にみられた
思想。」ということですから、日本は国家主義からアメリカによる民主化が
行なわれたということになります。
国家主義よりも独裁国家を作ったほうが操りやすいという政策をとってきた
ようです。
p131
この研究が指摘する「失敗」とは貧富の差の拡大のことだ。 意図した者たちにとって
失敗はなかった・・・まったくなかった。 国民の大多数にとって政策が失敗だった
だけだ。 ウォール街占拠運動の人々の感覚では、大多数とは99パーセントだ。
この政策が続けられると、米国の衰退はさらに進行する。
==>> これは「意図的な失敗」であって、立案者にとっての失敗ではないそうです。
貧富の拡大は計画どおり行われたという話です。
しかし、そのことによって、アメリカはますます衰退するという見立てです。
p133
アラブの春は、歴史的意義を持つ進展だった。 MENAの一部を「喪失」する前触れ
かもしれない。 米国とその同盟国は、春が訪れないように懸命の努力をしている。
今までのところ、その努力はかなり成功している。
民衆蜂起に対する米国の政策は“標準ガイドライン”に従っている。 つまり、米国が
影響を与え支配できる努力を支援することだ。
気に入られた独裁者は、国を支配できているうちは支援される(たとえば、主要な石油
産出国)。 国が支配できなくなったら、独裁者を捨て、同じ体制を別の独裁者に委ねる
(チュニジアとエジプトの場合)。 この一般的パターンは世界中で見られる。
ニカラグアの独裁者ソモサ、マルコス(フィリピン)、テュヴァリエ(ハイチ)、・・・
・・・ほかにもたくさんいる。
==>> なんと、驚いてしまって、茫然自失です。
私のような政治オンチはどうしようもないですねえ。
日本を含む「米国とその同盟国」は、春が来ることを熱心に支援している
ものとばかり信じ込んでいましたし、民主化を支援することはあっても、
まさか独裁者を支援することはないだろうと思っていたら・・・。
特にフィリピンに関しては、マルコスを追い出したのは、アメリカの後ろ盾
があってこそだろうと思っていましたが・・・・あな、恐ろし・・・・
p134
米国が民主主義を支持するには条件がある。 その結果が米国の戦略的・経済的な
目標にあっている場合だけだ。 これは新レーガン主義者であるトーマス・カロザーズ
の悲しい結論であり、彼は「民主主義推進」活動を注意深く学問的に分析している。
おおざっぱにいって、過去40年間、米国はイスラエル・パレスチナ問題の政治的
解決を拒否する立場をとってきた。 政治的解決は国際的合意を得ているのだが、
米国が阻止してきた。
==>> ああ、これが国益ということの本来の意味なんでしょうか。
民主主義よりも前の前提としての国益ということになりそうです。
その意味において、日本の国益とはなんなのでしょうか。
米国とイスラエル・パレスチナ問題については、ノーベル平和賞を
思い出すのですが、どうもこの問題に関連して平和賞をあげるのは
宜しくないように思います。
Wikipediaには以下のような記述があります。
「2020年にニューヨーク・タイムズは過去30年間のノーベル平和賞受賞者の
うち、当時業績とされたモノは後から考えると欠陥があったり、効果のないもの
と判明したりした6人の「疑わしい」受賞者として、エチオピアのアビィ・
アハメド首相(2019年受賞)、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問
(1991年受賞)、イスラエルのシモン・ペレス元首相、同イツハク・ラビン元
首相、パレスチナ解放機構のヤーセル・アラファト議長(1994年受賞)、韓国の
金大中・元大統領(2000年受賞)、アメリカ合衆国のバラク・オバマ元大統領
(2009年受賞)の名を挙げている。」
・・・・元大統領のトランプ氏も平和賞を狙っていたとか、いないとか・・・
平和賞こそ、十年以上経って、結果が出てからでいいんじゃないですかねえ。
p136
米国の政策や会話に、パレスチナ人の権利があまり出てこないのは理解できる。
パレスチナ人には富も力もないからだ。 ・・・アラブ諸国の暴動を扇動する厄介者
だからだ。
p137
・・・政治的な動き以外にも、文化的な要素があることも無視できない。
英国や米国のキリスト教シオニズム(神がアブラハムと結んだ契約に基づき、エルサレム
がアブラハムの子孫に永久に与えられたとする教理)は、ユダヤ教シオニズム(19世紀
末以来のユダヤ人国家を建設しようとする運動)よりも古い歴史を持つ。
キリスト教シオニズムはエリート層では重大な意義があり、明確な政策も持っていた
(ユダヤ民族のパレスチナ帰還を支持するバルフォア宣言もその一つ)。
==>> シオニズムについては、上記の後半の部分のユダヤ教シオニズムが
辞書などでも解説されていますが、前者のキリスト教シオニズムについての
説明はなかなか無いようです。
キリスト教シオニズムは「クリスチャン・シオニズム」とも呼ばれているようで、
Wikipediaには下のような解説があります。
「クリスチャン・シオニズムは、神がアブラハムと結んだ「アブラハム契約」に
基づき、シオン・エルサレムがアブラハムの子孫に永久の所有として与えられた
とするキリスト教の教理の一つ。全教派で認められている・信じられている訳で
はなく、むしろ信じている者は一部であり・・・」
「この立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認め
る。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」で
あるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支援する。」
・・・・元々が宗教上の基礎的な話になっているし、イスラエルが米国に
とって多くの富と利益をもたらすのにくらべて、パレスチナ人には富も力も
ないとなれば、国益を第一とする米国にとっては、中東の問題を解決しようと
する動機づけはまったくなさそうです。
p138
これらの宗派の勢力はレーガン時代から強くなりはじめた。 この頃から共和党は、
伝統的な意味での政治政党であることをやめている。 超金持ちや大企業の幹部と
いう少数の人々への献身に千年するようになったのだ。
だが、新装された共和党には投票してくれる人が少ない。・・・・彼らは大きな
畏れと憎しみを抱える外人嫌いの国粋主義者で、宗教面でも国際的基準からみると
過激だが、米国内では普通の範疇に入る。その結果、強くなったのは聖書の予言に
対する敬意だ。
==>> 共和党の変質というのは、前大統領の支持者の傾向をみれば一目瞭然の
ような気もしますが、この本を読むまでは、こんな背景があったとは
さっぱり知りませんでした。
リチャード・ドーキンス著「神は妄想である」が出版された意味も
今になって分かるような気がします。
しかし、まあ、アメリカというのは恐ろしい国です。
リチャード・ドーキンス著「神は妄想である」:信仰とIQ/教育レベル
http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2021/03/post-f757c6.html
「p152
・・・すぐれているとみなされているアメリカの科学者のうちで、人格神を信じ
ているのはわずかに約7%でしかないことを示していた。この無神論者の圧倒
的な優勢は、90%以上の人が何らかの超自然的存在を信じているという、
アメリカの人口全体の統計データとはほとんどまるで正反対である。
・・・ここで注目すべきは、アメリカの大衆全体の信心深さと、知的エリートの
無神論の両極端というべき対立である。」
p139
米国のエリートと政治家たちは、世界の秩序を保つのにイランが最大の脅威だと思って
いる。 だが、一般市民はそう思っていない。 ヨーロッパの世論調査では、イスラエルが
平和への最大の脅威だと思われている。 MENA諸国では、米国が最大の脅威だと
思われている。
==>> 辞書によれば、「MENAとは、Middle East & North Africaの略で、中東・
北アフリカ地域の国々を指す略称です。」
アメリカ、ヨーロッパ、そして中東・北部アフリカでは、最大の脅威は
それぞれにあるようです。
アメリカ一辺倒の我が国では、どこが最大の脅威なのでしょうか。
中国、ロシア、北朝鮮、韓国、はたまたアメリカ???
アメリカに関しては、日本がアメリカの国益に沿う限りは大丈夫なんで
しょうが・・・・
ただ、そう言ってしまうと、どこの国だってその国の国益に追随してくれる
んだったら仲良くしますよねえ。
p140
・・・米国の軍事政策がアジア太平洋地域に移行していることだ。 韓国の済州島と
オーストラリア北西部では、巨大な軍事基地が増設中だ。 それらは「中国封じ込め」
政策の一部だ。
p141
“防衛ジレンマ”は、中国沖合の海の支配をめぐって起こっている。 米国はこの海域の
支配を「防衛」のためだと思っているが、中国は脅威に感じている。 同じように
中国は近海での行動を「防衛」のためだと思っているが、米国は脅威と受け止めている。
帝国主義支配の原則は、ほとんど変わっていない。 一方、実行に移すパワーは多様化
する世界の中で拡散し、米国のパワーは衰退を続けている。
残念なことに、誰も世界の上に覆いかぶさる暗雲を払いのけられないことだ。
その暗雲、核戦争と環境破壊の二つは人類の生存を危うくしている。
==>> この本では、主に中国が出てきて、ロシアの影は薄いのですが、今現時点で
進行中の「暗雲」はロシアのウクライナ侵攻です。
ロシアは帝国主義時代の東欧を次第に失い、それと同じようにアメリカも
中国を「失った」ことによって、世界のあちこちで「大領域」を失いつつある
ようです。
そして、そのアメリカの衰退の原因としては、貧富の差の拡大によって、
富がごく一部に集中してしまい、共和党も民主党も金によってコントロール
される状態になってしまっているということにありそうです。
さて、次回は「第七章 失われた「マグナ・カルタ(大憲章)」」に入ります。
=== 次回その7 に続きます ===
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