ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その7 大衆は見物人にしておけ。 人類を減らすか、戦争を放棄するか。 アメリカの一方的な権利。
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その7 大衆は見物人にしておけ。 人類を減らすか、戦争を放棄するか。 アメリカの一方的な権利。
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第七章 失われたマグナ・カルタ(大憲章)」
「第八章 世界が静止した一週間」
「第九章 オスロ合意というまやかし」
の章は、政治オンチの私にはちょっと難しいところなので、
ささっと流し読みしていきたいと思います。
p148
意見や態度や認識などを形成させる過程を「合意のねつ造」と呼ぶ。
これは近代公報産業の創始者の一人、エドワード・バーネイズの言葉だ。
・・・・同時代のジャーナリスト、ウォルター・リップマン・・・リップマンは
二十世紀の米国におけるもっとも卓越した知識人だが、「合意のねつ造」を民主主義に
おける「新しい芸術」だと賞賛している。
両者が理解していたのは大衆を「適切な場所に収める」必要があることだ。
つまり、彼らの興味を管理し、社会の隅に追いやるのだ。 人々は自分のことを処理
するには「あまりにも愚かであり無知」だから、その仕事は「知的な少数者」に任せた
ほうがよい。
・・・“正常な”民主主義社会における一般大衆の役割は「見物人」であり、「行動する
参加者」ではないわけだ。
==>> 民主主義における「合意のねつ造」なんだか「合意の形成」なんだかは
分りませんが、少なくとも動機づけとしては、政権側、あるいは政権を
操っている側に前者をやろうとする傾向が強くはなるでしょうね。
あるいは、この本の筋から言えば、超大金持ちが金に物を言わせて
「合意のねつ造」をさまざまな形でやっているかもしれないわけです。
私などは「あまりにも愚かであり無知」ですから、「知的な少数者」である
はずの政治家に、選挙を通じてお任せし、その成り行きを「見物」する
だけで、外に出て「行動する参加者」にはほぼなっていないんですが、
元々ノンポリの私ではあっても、このような感想文ぐらいはブログにアップ
するわけです。
p150
右翼保守系の人々はもっと過激な意見だった。 ・・・大学の授業料の急激な値上げだ。
経済的な理由で値上げされたのではないことは簡単に証明できる。 この値上げによって
若者たちを“負債という罠”にかけて管理できるようにした。 彼らの一生を管理できる
かもしれないし、そうなれば、彼らの洗脳もさらに効率的にできるのだ。
==>> このことは、アメリカの大統領選挙の際にも、ニュースで取り上げられた
ことですし、日本に於いても、貧富の差が広がることによって、金持ちの
子供しか塾に通えなくなり、そして大学に行けなくなり、安定した職には
就けなくなると危惧されているところです。
https://www.businessinsider.jp/post-193929
「歯科矯正医のマイク・メルさんは2018年5月の時点で106万945ドルの
学生ローンを抱えていて、そのローン残高は20年後には200万ドルに達する
見込みだと、同紙は報じた。
メルさんのケースは、医者や歯科医、弁護士といった高収入の見込める仕事に
就くことが、かつてのような"金持ちへの道"ではないことを示している。」
「ブルッキングス研究所の2018年1月のレポートによると、学士号を取得した
黒人卒業生がローン返済できなくなる —— つまり270日間、支払いが滞る
—— 割合は、白人卒業生の5倍であることが分かった。
学生ローンは、白人家庭と黒人家庭の貧富の差を広げている。レビー・エコノ
ミクス・インスティテュート(Levy Economics Institute)の2018年の研究に
よると、若い白人家庭は黒人家庭に比べて、12倍も裕福であることが分かった。
学生ローン債務を除外しても、5倍だ。」
・・・つまり、白人であろうが黒人であろうが、学生ローンに押しつぶされて、
本来なら高収入の職に就けるはずのものが、そうではなくなってきている
ようです。
そうなれば、当然のように、管理しやすくなるわけですね。
p152
米国の創立者たちが「人」というとき、もちろん、すべての人々を意味してはいなかった。
先住民たちは「人」ではなかった。 ・・・女性もほとんど「人」ではなかった。
p153
植民地で権力も影響力もあった奴隷制を持つ州は、英国からの独立を望んだ。
・・・ジョンソン博士の「自由への最大の叫び声をあげているのは、奴隷の所有者たち
なのはなぜか?」という有名で辛辣な皮肉が理解できる。
p155
米国最高裁判所は、シチズンズ・ユナイテッド対連邦選挙委員会の裁判で、コマーシャルの
放映について判断を下したが、これはすでに巨大な政治力を持つ企業と超金持ちたちに、
さらなる力を与えた。 企業に無制限の選挙献金を許すことにナリ、ヨチヨチ歩きの
政治的民主主義を機能させるには、またもや大打撃だ。
==>> つまり、超大金持ちが、「人」ではない人々を管理しやすくするために、
政治を金で買ってしまっているということですね。
そのような民主主義こそが自由を標榜する超大金持ちがめざす民主主義で
あるようです。
p158
尊敬されているリベラル派左翼の政治評論家マシュー・イグレシアスの言葉だ。
「国際的に慣習化した制度の重要な要素の一つは、欧米による破壊的な軍事力行使を
正当と認めることだ」。 そこで米国に国際法などに従えというのは「呆れるほど幼稚」
な発言であり、国際法に従えと要求されるのは弱者だけだという。
そこで、「聖なる米国」が人類のために行う、侵略、暗殺、サイバー戦争、その他の
破壊活動には、戦術的な反対しかできなくなる。
==>> この本の著者であるチョムスキーさんは、上記のイグレシアスさんから
「愚か者」と呼ばれていると自虐的に書いています。
チョムスキーさんは、共和党もこき下ろしていますが、民主党についても
歯に衣着せぬ批判をしていますので、単なる左翼ということでもなさそう
です。
p161
最近になって米国も、アフリカの搾取に乗り出すべきだと認識している。 環境破壊と
弱者の圧迫においては最悪の記録を持つ中国も、搾取の新たな参加者となり奮闘中だ。
p162
共和党は議会で環境保護をやめさせようとしているが、これはリチャード・ニクソンが
始めたことだ。
・・・メディアも国際機関の予測する切実な環境変化をあまり報道しないことで協力
している。 米国のエネルギー局の予測であっても報道しない。
==>> 日本においては、環境破壊に関連する情報は割りと多いと思うのですが、
それはアメリカに追随する形なんじゃないかと思っていたら、そうでは
なかったんですね。
日本においては、二酸化炭素排出量制限に関連して、環境破壊のことが
云々されることが多いように思いますが、原発の再稼働についても
これが理由にされることが多いですね。
しかし、今現在進行中のロシアのウクライナ侵攻と、原発が占拠されている
という文脈の中では、日本国内の原発の防衛のあり方が課題として
上げられているようです。
p166
ケネディはすでに核を発射できる一段階前の最大警戒態勢に入り、「NATOの飛行機で
トルコ人操縦士が離陸してモスクワに飛び、爆弾を落とす」ことを許可していたと、
ハーバード大学の戦略分析家グラハム・アリソンは「フォーリン・アフェアーズ」
に書いている。
p171
同時期に米国が何をしていたかを世界が知ったら、「もっとまずい立場」におかれて
いたことだろう。 最近わかったことだが、キューバ危機の六カ月前に、米国は秘密裏に
核ミサイルを沖縄に持ち込んでいた。
ソ連がキューバに送ろうとしたものとほぼ同じものだ。
これは間違いなく中国を標的にしていた。
今日に至るまで沖縄の米軍基地は最重要な攻撃用基地だが、沖縄県民からは猛反対されて
いる。
==>> NATOと聞いても、私のような政治・軍事オンチは、遠くの対岸のぼんやりと
した噂話ぐらいにしか感じないわけです。
しかし、「沖縄基地は最重要な攻撃用基地だ」と、上記のようにNATOと
並べた文脈で話されると、なるほど、確かに歴史的にもベトナム戦争への
発進基地でもあったわけだから、攻撃用なんだと、愚かな凡人にも分かり
ますね。
それより前に、お前はどこの出身だと聞かれたら、「あっ、そうか。佐世保は
軍港だった。」なんて、馬鹿みたいに思い出すわけです。
ことほど左様に、私も一人の「平和ボケした」ボケ老人なわけです。
p173
ケネディは非公式だが個人的にキューバに侵攻しないと約束した。
だが付帯条件もあった。 ミサイルの撤去だけでなく、ソ連軍がキューバから撤退するか
戦力を最低限にすることだ・・・・。
キューバが「軍事拠点」でなくなれば、「たぶん侵攻しないだろう」と大統領はいった。
==>> これは今現在進行形のロシアのウクライナ侵攻と、立場を逆転した
構図ですね。
「プーチンは非公式だが個人的にウクライナに侵攻しないと約束した。
だが付帯条件もあった。 ミサイルの撤去だけでなく、NATO軍が
ウクライナを救援せず、ウクライナ軍が武装解除することだ・・・・」
・・・というようなことが可能でしょうか。
テレビニュースを見ている限りでは、どうもそういう落としどころはなさ
そうな感じです。
では、どうなったら、このような戦争はなくなるのか・・・・
ロシアがNATOに入ってしまったらなくなる?
戦争なんかにお金を使わず、EUの一員になってしまったらどうなのか。
連邦共和国で議会もちゃんとあるし、一応形だけは民主主義国家なんですよね。
大ロシア帝国のプライドがそうはさせないってことなんでしょうか。
p177
ケネディはキューバ危機が過ぎ去ると公式にテロ活動を再開した。 暗殺される10日前
にケネディはCIAの計画を承認している。 それは米国の代理勢力が「破壊活動」を
する計画だ。 対象は「巨大な石油精製工場と貯蔵施設、発電所、砂糖精製工場、鉄橋、
港湾施設、船や波止場」などだ。
p181
ソ連も当然、比較的に弱い立場なのを知っていた。 フルシチョフが軍縮提案をした
ときのケネディの反応も覚えていた。 フルシチョフはお互いに攻撃能力を劇的に
削減しようと申し出て、実際にそうした。だがケネディは反応せず、逆に大規模な
軍拡を開始した。
p181
米国には世界支配の一方的な権利があるからだ。 それによると米国は核ミサイルを
何処にでも配備できる。 中国だろうがソ連だろうが標的にできる。国境に配備する
こともできる。
・・・これらの原則を維持するために、米国は戦争の危険も辞さない。
==>> ケネディに関しては、おそらくアメリカでも日本でも、英雄扱いであったと
思いますので、このような話を読むと、アメリカを理想とした私のような
凡人の一生がズタズタにされる感じすらします。
私が生まれたのは戦後5年経ってからのことですし、生まれた場所は
進駐軍、つまり米軍の基地がある佐世保市でしたし、うちの近所に
水兵たちの宿舎があって、大きな屋敷のその庭で友達と遊んだりして、
あげくの果てに、米水兵からコカ・コーラとポテトチップスを食べさせて
もらったりしました。
そして、近くに住んでいた、米軍将校の家族の家にも遊びに行ったり、
そこの子供たちと一緒になってかくれんぼなんかをやったりして育ちました。
そして、テレビ映画では、「コンバット」なんかを見せられ、アメリカは
正義の権現様みたいな扱いでした。
そしてさらに、英語が好きになっちゃたものだから、東京のビジネス英語の
専門学校に行き、そして3つの米系の企業を渡り歩くことになったわけ
です。
まあ、ここまでアメリカ様様で育って、学んで、仕事をしてきたわけなんで、
今更、アメリカは敵だ、鬼畜米英だ、と言われてもねえ・・・・
p184
60年前にバートランド・ラッセルとアルバート・アインシュタインが警告をしている
が、 その声に耳を傾ける理由が増えている。 警告によると、私たちは二つの選択肢
に直面している。 それはこうだ。
「厳しく、恐ろしく、逃げることはできない・・・・人類を減らすか、戦争を放棄する
しかない」
==>> 今現在進行中の世界のニュースを「見物」していると、
どうも、人類は「戦争によって、環境破壊によって、人類を減らす」と
いう選択肢を歩いているようにしか見えません。
減らすだけで済めばいいんですが、消滅ということにもなりかねません。
p188
「ニューヨーク・タイムズ」の主流派でもっとも批判的な立場をとるアンソニー・ルイス
は、これまでパレスチナ人は常に「妥協を拒否してきた」が、ようやく彼らは「平和を
可能にする」意志を持ったという。 もちろん長年、外交的な駆け引きを拒否してきた
のは米国とイスラエルだ。 一方,PLOは長年にわたって妥協を申し出ている。
ルイスのような“事実の逆転”は、米国では当たり前とされ、マスコミの主流派では疑問を
持つ人もいない。
==>> オー・マイ・ゴッドですね。
では、どんなメディアがアメリカでは信頼されているのかをチェックして
みましょう。
「アメリカ人が考える、最も偏向した/公平なニュースメディア・ランキング」
https://www.businessinsider.jp/post-174331
「ギャラップ/ナイト財団の調査では、回答者の政治的信念の違いによって、
報道全般に対する「偏向」の評価に違いが出た。例えば、テレビや新聞、ラジオ
のニュースについて、民主党支持者は44%が偏向していると考えている一方、
共和党支持者では77%が偏向していると信じている。」
「調査の結果、複数の主要なニュースメディアの中から、回答者は偏向が最も
少ないメディアにPBSとAP通信を、偏向が最も多いメディアにFoxニュース
とブライトバート・ニュースを選んだ。この調査は、2018年2月5日~3月
11日に実施された。」
このサイトでの順位をみると、「偏向している」という順位で、
ニューヨーク・タイムズは8位になっていますね。
ウォール・ストリート・ジャーナルは14位で、しかも共和党支持者の間でも
偏向していないとされているようです。
(共和党支持者がFOXニュースと同じレベルでウォール・ストリート・
ジャーナルを信頼できるとしているのが面白いですね。)
AP通信は16位ですね。
今後はAP通信の記事を読むことにしようかな。
ついでに、日本のメディアも再確認しておきましょう。
地方紙の位置づけについての解説が興味深いですね・・・・
https://note.com/shreenine/n/ncfbe136db0cc
「政治的な立ち位置ですが、ほとんどの地方紙はリベラル色が強いです。
そもそもの思想がリベラルというのもありますが、それには共同通信という、
全国の新聞社に国内外のニュースを配信する報道機関が大きな存在となって
います。地方新聞は共同通信が書く社説をそのままトレースしており、自然と
論調が近しくなります。共同通信の政治的思想は完全なリベラルで、朝日新聞
や毎日新聞などとそん色ありません。」
・・・私は基本的には、メディアは政権を批判するのが仕事だと思って
いますので、批判的で当たり前ですね。批判的メディアがなくなったら、
中国や北朝鮮みたいな国だってことですからね。 ロシアは、今日のニュース
によれば、メディアの報道を制限しはじめたようですが・・・
p200
国際法は米国とイスラエルが好きなように解釈してきている。 それに対しヨーロッパ
の国々は暗黙の承認を与えている。
p201
オスロII合意はオスロ合意の重大な成果をさらに強固にするものだった。国連安保理
決議でパレスチナの権利に触れたものはすべて放棄された。 その中には入植の
法的側面、エルサレムの地位、故郷に帰る権利も含まれる。
たった一撃で中東外交の歴史のすべてがかき消されてしまった。
・・・基本的事実をいうと、これまでの中東外交の成果は歴史から削除された。
少なくとも米国の論評では削除されている。 実のところ中東外交の成果のすべてが
公式に削除されたのだ。
p202
ワーゲの結論には説得力がある。 「オスロ交渉は失敗事例の研究に最適だ。
小さな国が第三者として調停に入ったが、あまりにも非対称な紛争だった」。
そして、はっきりと次のように指摘する。 「オスロ交渉はイスラエル主導の下に
行なわれた。 ノルウェーはイスラエルの便利な使い走りのボーイだった」。
・・・「・・・結局のところ、弱小国である第三者が達成できるのは、強国の
赦す範囲内でしかなかった。 ・・・」
==>> イスラエルとパレスチナの間の問題は、問題の根源が旧約聖書に根を
もつだけに、日本人である私にはとうてい想像すらできない問題です。
しかし、ここでも明らかになっていることは、世界を所有すると
思っている超大国にとっては、金も力もない人々は視野の外にある
ということであるようです。
国際法というものも、幻想であるらしい。
さて、次回は 「第十章 現代は“破滅の前夜”なのか?」 に入ります。
=== 次回その8 に続きます ===
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