ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その11 テロリスト大国・アメリカ、 幸せな米国民が知らない情報とは
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その11 テロリスト大国・アメリカ、 幸せな米国民が知らない情報とは
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第十七章 テロリスト大国・アメリカ」
p292
CIAによる調査が報じられた。 ホワイトハウスが世界各地で行った大規模なテロ支援
活動を評価し、その成否につながる要因を特定する調査だ。
記事はさらに、オバマ大統領のこんな発言を引用した。
CIAに調査を命じ、「外国の反政府活動に資金や武器を提供してうまくいったケースを
探させたが、ほとんどみつからなかった」。 だから活動を継続することにためらい
がある、と。
欧米の政治文化では、“自由世界のリーダー”がテロリストでならず者国家であることも、
テロに深く関わっていると公言することも、ごく自然で妥当なのだ。
p293
アンゴラでは米国の支援により、多数の死者を出す大規模なテロ活動が繰り広げ
られた。 しかし、アンゴラ政府を支援するキューバ軍は、侵略者である南アを追い払い、
不法に占領したナミビアからも撤退させ、選挙への道を開いた。
・・・アフリカの解放とアパルトヘイト廃止にキューバが上げた成果を、ネルソン・
マンデラは釈放されたときに讃えている。
==>> この記事は、ニューヨーク・タイムズの記事を元に、チョムスキーさんが書いて
いるのですが、 政治オンチの日本人である私は、ほとんど全く知らなかった
話です。 日本のメディアは、このような内容の記事を今までに書いたことは
あるのでしょうか。 それにしても、あの小さな国キューバが、このような
大きな仕事を成し遂げたとは知りませんでした。
p295
「ニューヨーク・タイムズ」が暴いた米国による三つのテロは、氷山の一角にすぎない。
それでも、米政権が殺人的・破壊的なテロ活動に熱心なことを有力紙が認めたのは有益だ。
米国はテロ大国で、法律や文明の軌範に縛られないことを米国の政治家は正常だと思って
いるのだ。
奇妙なことに、世界は米国に賛同していない。 グローバルな世論調査によれば、米国は
圧倒的に、世界平和への最大の脅威と見なされている。
幸運な米国民は、このささいな情報を知らされていない。
==>> ここには「幸運な米国民」としか書かれていませんが、我が国の私もその
「幸運な」国民の一部なのかもしれません。
なんと言っても、生まれた町が占領軍の軍港の町であり、アメリカに憧れ、
英語を学び、米系企業3社に勤め、そして気楽な年金生活をしているわけ
ですから、「知らぬが仏」であったわけです。
「第十八章 オバマは本当に“歴史的役目”を果たしたのか?」
p297
「北ベトナムに対する勝利がみえてきたら、軍の撤退を開始する」というロバート・
マクナマラ国防長官の提案を、ケネディは不承不承ながら受け入れた(国家安全保障
行動覚書263号)。
ただし重要な条件が一つつけられた。 撤退は南ベトナムが北ベトナムに勝利を収めた
あとに、というものだ。
ケネディは、その条件を譲らないまま、数週間後に暗殺された。
p298
キューバに関してケネディは・・・・その侵攻の失敗は、米政府にヒステリーに近い
ものを巻き起こした。ケネディも公的発言でこのヒステリーに触れた。
だが彼は、米国がキューバのことになると同盟諸国から「少々頭がボケていると思われて
いる」ことに気づいていた。確かに、そう思われるのも無理はない。
ケネディは実際、そのとおりの行動をしたからだ。
==>> この本を読んでいると、米国という国は、そしてその大統領は、本当に
世界のあちこちでの戦争を抱え込んで、気の休まる暇もないのだということが
分ります。 そして、それを誰の為にやっているのか。
ケネディの「頭がボケている」状態についての文脈は、今現在進行中の
プーチンの頭の中はどうなっているのかということを連想させ、ぞっとします。
p300
米国内ではキューバを「解放」するための人道的行為と讃えられたが、本当の目的は
別にあった。 「キューバ解放の戦争は、米国による征服戦争だった」のだ。
帝国主義的な名称は「米西戦争」だ。 キューバは米国が介入するまでスペインに
勝っていたが・・・・
p301
オバマが実際の歴史を知らないはずがない。 その歴史には人命無視のテロ戦争や恥ず
べき経済制裁だけでなく、キューバ南東部(グアンタナモ湾)の占領も含まれる。
キューバの主要港があるグアンタナモは米国が力ずくで奪ったもので、キューバ政府は
独立以来ずっと返還を要求している。
・・・これに比べたら、プーチンの違法なクリミア併合など、穏健と思えるほどだ。
p304
ベトナム戦争は失敗であり米国が敗北したといわれたが、現実には部分的な勝利だった。
ベトナムをフィリピン化するという最大の目的は達成できなかったが、キューバの場合
と同様、主な懸念は解消した。 それでも米政府にとっては敗北、失敗、大間違いと
される。 帝国主義的メンタリティーとは驚くべきものだ。
==>> ここでは、ロシアのやったことなどアメリカに比べればまだまだ穏健だ
とチョムスキーさんは書いています。
歴史的に全体の流れを見てみなさいということでしょう。
しかし、それにしても、ここで「ベトナムをフィリピン化する」という話が
出て来て驚きました。 フィリピン化するというのは米国の植民地にする
という意味なのでしょう。実際に、米西戦争によって、フィリピンは
スペインの植民地からアメリカの植民地になったわけですから。
しかし、「キューバの場合と同様、主な懸念は解消した」の意味が私には
分りません。
ただし、すでに読んで来た中で考えてみると、米国が一番恐れていたのは
民主主義という「病原体」を拡散する国が増えては困るということで
あるならば、納得できます。
南ベトナムに支配しやすい独裁国家をつくることを優先し、それは失敗したが、
その代わりに社会主義国になったからよしとするということなのでしょう。
それが帝国主義的メンタリティーという話でしょうか。
「第十九章 「テロはテロだ、二つの解釈はない」という嘘」
p307
近代でもっとも過激なテロ活動は、オバマが世界中で展開しているドローンによる
“暗殺キャンペーン”だ。 いつか米国に害を及ぼすと疑われている者と、たまたま
近くにいる不運な人たちが標的にされている。 不運な人たちはほかにもいる。
たとえば、シリアでは、2014年12月に、米主導の空爆で民間人50人が死んだ
が、ほとんど報道されなかった。
p310
口ではどんなにうまいことを言っても、「テロはテロだ。 二つの解釈はない」という
のは嘘だ。 間違いなく二つの解釈がある。 彼らの解釈と私たちの解釈だ。
そして、それはテロに限ったことではない。
==>> 以前、アメリカの無人機による攻撃についてのテレビ・ドキュメンタリーを
見ました。 アメリカのオフィスにいる無人機を操作する担当者が、
映像をみながら「敵」を攻撃して、殺害するという仕事でした。
おそらくドローンは、それがもっと簡単な手軽になったようなものなの
でしょう。 攻撃する側は無傷で、オフィスでお茶でも飲みながら、人を殺す
という仕事なわけです。考えただけでゾッとします。
さすがに、そのような仕事をしているアメリカ人は、精神的な病になる
ケースがあるそうです。 そうでなければ人間としてどうかしています。
イスラム過激派といえば、自爆テロですが、これはいつも私に日本の特攻を
思い出させます。
フィリピンでの日米戦の本をいろいろ読んで来た私としては、どうしても
玉砕という言葉が頭を離れません。
イスラム教という宗教を胸に自分の肉体を敵もろとも破壊するわけですが、
日本の場合は国家神道というものを胸に自らを国に捧げたことになります。
その共通性を思うと、無人機やドローンなどという兵器を、いくら自国民の
被害を減らすためとはいえ、すんなりと認める気持ちにはなれません。
人を殺すという行為が、そんなに簡単なことでいいのかという根本的な問題
です。
「第二十章 ある「ニューヨーク・タイムズ」読者の一日」
p311
「ニューヨーク・タイムズ」は世界の一流紙だといえる。 同紙のニュースや論評は、
情報源として欠かせない。 だが、じっくりと批判的に読めば、もっとずっと多くの
ことがわかる。
・・・どの日でも米国で支配的な思想と文化について、似たような洞察を得られるはずだ。
p312
「ニューヨーク・タイムズ」が誠実な報道に献身するのをみるのは新鮮だ。
・・・「無数の不発弾からラオスを解放する一女性の活動」という見出しで、内容は
「故国に埋まったままの無数の地雷の除去に尽力している」ラオス系米人女性チャナパ・
カンヴォンサについてだ。
「地雷は米国の九年間にもわたる空爆の置き土産だ。 ラオスは地上でもっとも
激しい空爆をうけた場所のひとつである」
・・・カンヴォンサのロビー活動の結果、米国が不発弾処理に割く費用は年間1200
万ドル(約13億円)も増額された。
==>> 世界の一流紙ではあると思いますが、右か左かという大雑把な分類から
言えば、ニューヨーク・タイムズはどのあたりにあるのでしょうか。
こちらのサイトにたくさんのメディアの傾向が分類されています。
「【2021米国分断】アメリカのメディア右・左の思想タイプ分け」
https://kamenurse.com/article/american-media-right-left-type-classification
このサイトによれば、
ニューヨーク・タイムスは、オピニオン(社説?)はLEFT、
ニュース記事だけは LEAN LEFTに分類されています。
つまり、分類の解説によれば:
「リベラル派・左派・左翼(民主党)ハト派・青:Liberals 個人の権利や
多様な価値観を尊重し、共助、共生などの助け合いを大事にする傾向」
どちらかと言えば、左下に名前が出ていますから:
「左下:古典的自由主義」に入っているようです。
一番右のRに入っているのは、言わずと知れた FOXニュースですね。
ちなみに、真ん中のCにあるのは、 AP、 BBC、ロイター、ウォール・
ストリート・ジャーナルなどです。
日本語で読めるインターネットサイトは、ほとんど中心から左側のメディア
ですね。
p313
難民が描いた爆撃の絵の数々だった。 絵を収集したフレッド・ブランフマンは、
「秘密戦争(ラオス内戦。 当初は戦争の存在自体が隠されていた)」の曝露に
一役買った反戦活動家だ。
p314
ニューヨーク・タイムズの情報源は米国のプロパガンダだ。 こちらのほうが、第二次大戦
後で最悪レベルの犯罪を報道するよりも重要なのだ。 犯罪の事実はニューヨーク・
タイムズの記事が情報源にしたブランフマンの本で詳細に語られている。
間違いなく言えるのは、報道の自由を持つメディアの盗作や懐疑精神の不足を長々と
曝露しても意味がないことだ。 メディアは政府のために「大うそ」をつくのだから。
==>> おそらくチョムスキーさんが、ここで言いたいのは、アメリカのメディアの
中でも左派であるとされるニューヨーク・タイムズですら、政権のプロパガンダ
を中心にして、たまに「新鮮な」記事は盗作の類だという皮肉なのかなと
みえます。
p316
米国はイラクに侵攻して、事実上、国を崩壊させ、宗派間の紛争を引き起こした。
その紛争はイラクのみならず、中東全体を引き裂いている。 だが、公式の発表では
「安定化」に貢献したとされる。 当然、メディアの意見も同じとなる。
しかし、侵略に抵抗する民兵をイランが支援すると、それは「不安定化」となる。
さらに、自国を攻撃する米兵を殺害するほど凶悪な犯罪はないらしい。
こうした例は枚挙にいとまがない。 私たちが米国の考え方を無批判に受け入れる
限り、すべては理にかなっている。 米国は世界を所有しており、その権利を持つ
という考えだ。
カーネギー国際平和基金の元理事長ジェシカ・マシューズが明快に説明した。
「・・・・・米国はほかの国とは違うと信じてきた。 ほかの国は国益をごり押しする
が、米国は普遍的な原則を推し進めるために力を尽くしている」
・・・これには、反論する気も失せる。
==>> 私はすでに述べたとおり、生まれた時から米国に洗脳されて米国に憧れて
きた日本の凡人ですから、上に書かれている「普遍的な原則」あるいは
人類にとって大切な人権の国なんだろうと米国のことを仰ぎみてきた
わけです。 そんな凡人にチョムスキーさんは「米国は世界を所有しており」
と言うわけですね。 まあ、ここまでこの本を読んでくれば、
そりゃあ「ホンマかいな?」という気持ちも起こりますね。
そういう米国中心の視点を、政治オンチの凡人が今更ながら変えようと
思ったら、やっぱり下のようなサイトの「ロシアの論理」も見ておかないと
いけません。
「ロシアの論理」で読み解くウクライナ危機
【豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス】(2022年2月9日)
https://www.youtube.com/watch?v=9j_-bJnp3Z8
では、次回は「第二十一章 世界平和にとってもっとも危険なのは誰か?」
を読んでみましょう。
=== 次回その12 に続きます ===
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