ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その5 超大金持ちvsその他、 ならず者国家とはどこか、劣化する民主主義
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その5 超大金持ちvsその他、 ならず者国家とはどこか、劣化する民主主義
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第五章 米国はなぜ衰退し、何を引き起こしたか?」
p106
「数年前まで米国は世界を巨人として闊歩していた。 無比の力と比類なき魅力を
持っていたが、今や不吉な最終的な衰えに直面している」。
これは2011年夏の政治科学アカデミーの機関誌のテーマだった。
米国の衰退は広く信じられ、その理由もある。
ソ連が内部崩壊したときには勝利の美辞麗句が約十年続いたが、そのほとんどは
幻想だった。また、一般的には権力が中国とインドに移行すると予測されているが、これも
極めて疑わしい。
・・・だが、米国の衰退にかかわらず、近い将来において、世界の覇権を争う競争相手
は、まだ存在していない。
==>> この日本語版は2017年に署名されて、2018年に出版されています。
それからほぼ5年が過ぎているわけですが、その間に世界で起こったことは
なんでしょうか。 特に、米、中、露、欧でどんなことが起こったでしょう。
私が個人的に一番「今や不吉な最終的な衰え」と思うのは、陰謀論に
踊らされ、ポピュリズムにのり、科学者を無視し、独裁者的人物の登場を
願っているような国が増えていることです。
そこを襲った新型コロナのパンデミックの影響は無視できないような
気がします。
p107
「大領域」の各地域には役割が割り当てられ、続いて起こった「冷戦」は、二つの
超大国が各自の支配する領域で服従を強いる競争だった。 ソ連にとっては
東ヨーロッパであり、米国にとっては、それ以外のほとんどの世界だ。
だが、1949年になると、米国が計画していた「大領域」の支配域は激減した。
「中国を失った」のだ。・・・・・米国は当然のように世界を所有する権利があると
思っていたわけだ。 そのすぐあとに東南アジアも米政府の支配から抜け出した。
そのためインドシナ半島で恐ろしい戦争が起こり、1965年には米国の支配を復活
するためにインドネシアで大虐殺が行われた。 その間にも、ほかの地域では政府転覆
と大規模な暴力が振るわれた。どれも名目は「地域の安定化のため」だった。
==>> 今の時事テーマでいうならば、ウクライナはロシアの大領域であり、日本は
米国の大領域である、ということなのでしょう。
しかし、尖閣諸島や北方領土や台湾が、どの国の領域なのかについては、この本
では触れられていません。
そして、それらの「地域の安定化のため」に、なんらかの動きが、
陣取り合戦のように起こるのでしょうか。
その「安定化のため」の動きを米国ができるだけの力があるのかが問題です。
p108
問題は常に「過激なナショナリズム」だった。 多くの国々が独立独歩の道を歩もうと
試みたが、それは「大領域」の原則に反する。 この原則は根本的にまったく修正されて
いないのだ。 クリントンの方針は米国の経済権益のためには、軍事力を行使して
構わないというものだ。 原則が何も変わっていないことはNATOが世界に拡大された
ことで、すぐにあきらかとなった。
==>> と言うことになると、日本も「過激なナショナリズム」に走ってしまったら、
それなりの報いを受けることになるという話なんでしょうね。
民主主義の牙城を守るというような理想論ではなく・・・ということに
なりそうです。
つまり、「大領域」の所有者がどんな政治的な主義であるに拘わらず、その
原則に反するような政治的な動きは許されないということですね。
さて、そこで、私が随分前2013年に読んだ本にこんなのがありました。
孫崎亨著 「これから世界はどうなるかー米国衰退と日本」
http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2013/04/post-0ded.html
「この著者は、先の本で、日本の対米追随派と独自外交派を比較して、本人が
後者であることを明言した上で、分かりやすい論を立てているんです。
そして、その論ゆえに、今の日本の体制を牛耳っている対米追随派からさまざま
な言論圧力を受けているそうなんですけどね。」
p109
ずっと欧米の帝国主義の被害者だったグローバル・サウス(南半球の発展途上国)の人々は、
「人道的介入」の権利と呼ばれるものを辛辣に糾弾した。 「人道的介入」というのは
古い帝国主義的な支配の「権利」と同じであり、新たな装いをしているに過ぎないという
のだ。 その一方、米国の政策エリートたちからも疑問の声が上がってきている。
世界のほとんどの国からみると米国は「ならず者超大国となりつつあり」「社会に対する
唯一の外部からの脅威であり」「今日、米国は世界一の、ならず者国家」だという。
これはハーバード大学で政治学を教えるサミュエル・P・ハンチントン教授と、アメリカ
政治学会ロバート・ジャーヴィス会長の言葉だ。
==>> こういう考え方を読むと、日本という政治環境の中だけしかしらない
私のようなお人よしは、今まで信じてきた米国に対する考え方が
ことごとく崩れ去るような気持ちになります。
そういう観点から、今進行中のウクライナの件は、世界の各国がどのように
見ているのかが気になります。
もちろん、日本のメディアで呼ばれるところの「国際社会」という意味では
なく、各国の地元の生の見方が気になるということです。
p110
・・・深刻なのは、中東諸国が独立の機運を見せることだ。
さらなる危険は民主主義への本格的動きが起こることだ。 「ニューヨーク・タイムズ」の
主幹ビル・ケラーは、米政府が「北アフリカと中東全域で盛り上がる民主主義の気運を
大歓迎している」と感動を込めて書いた。だが、アラブ世界の世論に注意したほうがよい。
もし、大衆の意見が政策に影響するという民主主義の“最初の一歩”にアラブ世界が踏み出し
たら、米国を主要な脅威とみなすアラブの大衆に、米国も同盟国も追放されるだろう。
==>> 日本人は、このような現実があるということに、どれだけ気づいているので
しょうか。 特に、政治家や政治学者、そして軍関係者の認識はどうなのか。
アラブ世界が民主化すればするほど、日本は追放されるということですから。
もちろん、このチョムスキーさんの本みたいな情報が日本にも入ってくるから
それなりの立場の人たちは読んでいるでしょうけど。
p110
・・・ブッシュの政策は容疑者を捕獲して拷問することだったが、オバマになって簡単に
暗殺するようになったという。 テロ兵器(ドローン)の使用が増え、特殊部隊も増え、
その多くが暗殺部隊だという。 特殊部隊は147カ国に展開されており、総勢はカナダ軍
全体と同じ規模。 そしてこの部隊は事実上、大統領の私兵だという。
p111
著名な米国の社会哲学者ジョン・デューイによると、政治とは「社会を覆う巨大企業の
影」だという。 さらに「影が薄くなっても本質は変わらない」と警告している。
・・・現在では巨大企業のほとんどが金融機関だが、この暗雲のせいで、米国の二大
政党には伝統的な政党の面影が残っていない。 両政党とも国内の主要議論において、
極右の立場をとるようになっている。
==>> 暗殺部隊に関しては、大手メディアでも時々報道されますので、事実は事実
として表に出てはいるようですが、それをどのようなオブラートに包んで
いるかについては、注意しなくてはいけないということなのでしょう。
ニュースでは、頻繁に「某国が国際法を犯している」というような報道が
ありますが、どこの国についてそのように言い、どの国についてそのようには
言わないのか、そこがポイントかなと思います。
それにしても、米国の二大政党が、どちらも極右の立場をとっているという
話はちょっと驚きです。
日本の政治がその方向に流されるのは当然ということにもなるのでしょう。
p112
財政赤字削減について・・・・
「政権も、共和党が支配する議会も、国家予算の使い道については国民の価値観と
かけ離れている。 最大の違いは使い道だが、国民は軍事費の大削減を望んでいる。
政権と議会は穏やかな増加を提案している。 国民は職業訓練、教育、環境汚染対策
を望んでいるj・・・・だが、政権も議会も、それほど望んでいない」
2011年の米国の軍事予算は、世界の他の国々の軍事予算の合計とほぼ同じだった。
==>> 世界各国の軍事費の比較については、こちらの2019年のデータを
ご覧ください。
https://www.iiss.org/blogs/military-balance/2020/02/global-defence-spending
ここに米国の軍事費と、トップ15の内の米国以外の合計のグラフを棒グラフ
で比べてあります。(2位の中国と4位のロシアも含まれています。
日本は8位になっています。)
この二つの棒グラフの高さはほぼ同じであるということです。
それはともかく、米国においては、国民の望むものと、政権および議会が
望むものがかけ離れているということは、民主主義国家としてはどういう
ことかって話ですね。 つまり、金持ちが牛耳っているという話ですね。
p113
実に驚愕に値する。 だが、財政赤字削減は金融機関や超大金持ちの要求だ。
彼らにとっては急速に「劣化する民主主義」にこそ価値があるのだろう。
長期的な赤字危機は深刻だが、これはレーガン政権時代に始まっている。
彼の無責任な財政政策のため、世界有数の債権国だった米国は、世界有数の債務国に
転落した。 国の負債は3倍となり、経済に脅威を与えたが、それをジョージ・W・
ブッシュがさらに急速に拡大させた。 今では失業の危機がもっとも深刻な関心と
なっている。
==>> 世界各国の債務状況については、いろんなサイトがいろんな分析をして
いますが、ここではこちらのサイトを参考にしてみましょう。
https://finders.me/articles.php?id=1444
「国際通貨基金(IMF)の最新のデータによると、すべての国の債務残高の
合計は20年前、20兆ドル(約2200兆円)だったにも関わらず、現在は69.3兆
ドル(約7620兆円)に達している。この金額は世界のGDPの82%であり、
歴史上最も高い数値である。これは、それぞれの国が世界的低金利を利用し、
借り入れを積極的に行っているためだ。」
「1位 アメリカ 21.5兆ドル(約2362兆円)
対GDP比104.3%
2位 日本 11.8兆ドル(約1300兆円)対GDP比237.1%
3位 中国 6.76兆ドル(約744兆円)対GDP比50.6%
4位 イタリア 2.74兆ドル(約302兆円)対GDP比132.2%
5位 フランス 2.74兆ドル(約301兆円)対GDP比98.4%」
・・・これを見ると、アメリカもそうだけど、日本はアメリカのことを
心配するような状況じゃないだろうともいえそうです。
ただし、日本については、よく言われることですが、
「対GDP比で見てみると、最も高い国は日本で、その割合は237.1%と
断トツだ。これは予算の3分の1近くを国債で賄っているためだ。しかし、
日本の債務の多くは対外債務ではなく、90%以上を国民が円建ての国債として
保有しており、特段問題ないという見方もある。」
・・・つまり、日本の場合は、身内で貸し借りしているから問題ないでしょ
という話になっています。
ただし、ここで一番重要なのは、「彼らにとっては急速に「劣化する民主主義」
にこそ価値がある」という見方ですね。 彼らというのは超金持ちのことです。
p116
同時に、選挙にかかる費用も急上昇して、共和党も民主党も企業の財布に支配される
ようになり、政治における民主主義的プロセスも失われた。 両党が議会指導者の
地位を競売にかけてしまったのだ。 ・・・「先進国の立法府には珍しいことだが、
米国の議会政党は法律を作る重要な地位に値札を付けるようになった」。
より多くの資金を政党に持ってくる者が立法府で地位を得る。 結果、政党は民間資本
の召し使いに成り下がっていく。
p117
・・・世界は二つのブロックに分裂している。 “超大金持ち”とそれ以外だ。
この世界での経済成長は少数の富裕層のパワーによって発生し、消費もほとんど
富裕層が行っている。 超大金持ちたちの残り物を漁るのが「庶民」であり大多数だ。
==>> 政治もお金には敵わないという哀しい状況がアメリカの実態だそうです。
だから、日本の政治家も、上のグラスからこぼれてくるものを庶民は
有難くいただきなさい、落ちてくるまで待ちなさいと言ったわけですね。
要するに「トリクルダウン理論」ですね。
これに関しての、日本版はこちらに解説があります。
しかし、殊に今回のパンデミックの中では、仕事を失ったりして、
貧富の差が拡大するとともに、トリクルダウンも待っていられない状況に
なってしまいました。
ところで、ユヴァル・ノア・ハラリ著の「ホモ・デウス」においては、
この「超大金持ちとそれ以外」というのがさらに進んで、
「外部のアルゴリズムが力を持つ社会は、人間がいらない社会でもある。」
のように、ごく一部の人間を除いて、他の大多数の人間は不要になると
いうのです。
「「ホモ・デウス」が描く、私たちが想像もしなかった未来」
https://forbesjapan.com/articles/detail/22855/2/1/1
私自身がこの本と、その前の「サピエンス全史」を読んで思ったことは、
特に「ホモ・デウス」については、すべての高校で、歴史の副読本として
必須にすべきではないかと思ったぐらい、今からを生きる世代にとっては
知っておかなくてはいけないことだと感じました。
今からの人類の岐路が次の世代の運命を決めるからです。
p118
政治における民主主義を切り刻むことで、金融機関はこのプロセスを継続する基盤を
完成させている。 ただしそれは、被害者たちが苦しみの中で沈黙を選ぶ限りにおいて
だが・・・・。
今でも米国は世界最大の強国だが、世界の権力は多様化しており、米国がその意志を
押し付けることが、どんどんできなくなっている。 国内社会も大きく衰退している。
一般大衆の衰退が、想像もできないほどの富と特権を“一部の人間”に与えている。
彼らは特権階級の中でもごくわずかな“超大金持ち”たちだ。
・・・それ以外の人々の見通しは悲観的で、米国ほど豊かな国に住みながら、生き残り
という問題に直面している人々もいる。
==>> せっかくですので、ここで所得格差を示すジニ係数の世界ランキングを
みてみましょう。
https://theworldict.com/rankings/gini-coefficient/
「ジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近いほど格差が小さく、
1に近いほど格差が大きいことを示します。一般に係数が0.5を超えると所得
格差がかなり高く、是正が必要だとされています。」
アフリカ平均 0.62
中南米平均 0.47
アメリカ 0.39
イギリス 0.36
日本 0.34
世界平均 0.33
ロシア 0.33
カナダ 0.31
EU平均 0.30
スウェーデン 0.28
こうやってデータを見ると、さすがに北欧は素晴らしいですね。
アメリカは流石に「自由の国」と言うべきか?
そういう意味では、私は、日本という国はアメリカに追随して欲しくないですね。
では、次回は 「第六章 本当に米国は終わったのか?」に入ります。
=== 次回その6 に続きます ===
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