立花隆著「「宇宙からの帰還」 ― その1 信じられないアポロ13号の生還

立花隆著「「宇宙からの帰還」 ― その1 信じられないアポロ13号の生還

 

立花隆著の「臨死体験」に続いて「宇宙からの帰還」を読んでいます。

 

 


 

 

この本を読む気になったのは、立花さんの「臨死体験」の本がきっかけです。

https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2021/10/blog-post_90.html

宇宙飛行士の体験の中に臨死体験に共通する部分があるとの示唆があったので、

「意識とは何か」を今現在の読書テーマとしている私としては、興味が湧きました。

 

ちなみに、この本は、宇宙飛行士を目指す人たちのバイブルにもなっていたようです。

では、毎度ながら、ボチボチ読んでいきます。

 

=====

 

p11

 

気圧がどんどん下がると、液体の沸点がどんどん下がり、ついには体温でも体内の水分が

沸騰しはじめるのである。 ・・・そして、人体は一見個体のように見えるが、実は、

膜に包まれた液体といったほうが近い存在なのである。

 

・・・実に人体の七割は水分である。 これが沸騰し、ガス化したらどうなるか。

・・・全身が風船玉のようにふくれ上がり、やがて破裂して死ぬ

 

p14

 

月は自転しながら地球のまわりを公転し、その地球がまた自転しながら、太陽のまわりを

公転している。 ・・・月が太陽との関係において一回転する時間(すなわち、月面上で、

日の出――昼間――日没――夜間――日の出の一周期に要する時間つまり月時間に

おける一日)は、地球時間の27.3日間にあたる。 逆にいえば、地球時間の一日は、

月時間(月の一日を24時間とみなした時間)の53分弱にしかあたらない。 つまり、

アポロ11号は月時間では約47分しか滞在しなかったことになる・・・・

 

==>> 立花隆さんの本が優れているところは、私のようなど素人にもちゃんと理解

     できるように、このような書き方をしてくれるところだと思います。

     サルでも分かるように、それも科学的に納得できるような書き方であると

     いうことです。

 

P17

 

一旦地球を離れると、地球時間の地球上における実用性は完全にその意味をうしなう。

地球を離れれば、天体の運行は地球からの観測とはちがって見えるからである。

そして、宇宙空間の中を動いていれば、天体の運行はその動き故に時々刻々ちがって

見えてくるのだから、そこに時間の基盤を置くことは意味をなさない。地球時間は

宇宙では実用的ではないのである

 

宇宙船上の時間と飛行管制センターの時間を合わせておくことは、きわめて大切である。

宇宙船上のコンピュータは能力が必ずしも充分でないから、ヒューストンのスペース

センターの超大型コンピュータの支援なしには、宇宙船はうまく飛行できない

 

・・・宇宙船が月の近くまでいくと、電波で指令を送っても、それが到達するまでに

時間がかかる。 ・・・指令が届くまでに1.27秒かかる。

 

==>> まあ、この辺りの話は、地球上のあちこちにその地域の標準時というものが

     あるので理解できる範囲ですが、最近は月どころか、何年も掛かるような

     ところまで観測機を飛ばしていますから、余程精密な計算ができるものが

     スペースセンターになければコントロールなどは到底無理だと言うことですね。

     こういう本を読んではじめて、JAXAなどのプロジェクトの凄さも

     やっと理解できます。

 

p23

 

ジャイロスコープは定期的に較正してやらなければならない。 どうやって較正するか

というと、宇宙飛行士の目測による位置測定によってである。 船舶の航海士が六分儀

で灯台や星を頼りに位置を測定するように、宇宙飛行士も六分儀を持参して、自分が

宇宙空間のどこにいるかを測定するのである。

 

・・・それをコンピュータにインプットすると、自動的にジャイロスコープの狂いが

較正される仕掛けになっている。

 

==>> 宇宙飛行士は海図の代わりに星図使って航海士と同じようなことを

     やっているそうです。 まさに大航海時代の幕開けという様相です。

 

p27

 

170万年間、地球から一歩も出ることなく育ってしまった人類は、その意識の底の底

まで、地球的ローカル性によって様式づけられてしまっているから、地球的ローカル性

がユニバーサルであるといまでも大半の人は思い込んでいる

・・・宇宙飛行士にとってすら、その意識の骨の髄まで滲みこんだ地球的ローカル性を

脱することは容易なことではなかった。

 

==>> これは当然といえば当然のことでしょうね。卑近な例で言えば、島国根性

     かと思います。 幼児の頃は家の周りしか知らず、小、中、高ぐらいまでは

     学校が含まれる地域ぐらいしかしらず、その後大学や就職で他県に出て

     方言や生活スタイルの違いに気が付き、海外に出るようになると、言葉や

     国民性の違いを思い知らされ・・・・

     それが宇宙空間ともなると、実感や直感では測り知れない異次元のような

     空間に行くわけですからね。

 

p29

 

宇宙空間では「近い」、「遠い」は意味を持つが、「高い」、「低い」は意味を持たない

人間は床に立つのではなく、空間に浮かぶのだから、どの壁面も均等に利用できるので

ある。 そういう状況の中では、空間の広がりの感覚が全くちがってくると、宇宙飛行士

たちは異口同音にいう。

 

p31

 

これは水中だから疑似的無重力体験にしかならないが、ジェット機の弾道飛行より簡単

にできるので、訓練時間はこちらのほうがはるかに長い。

こうした訓練をいくら積み重ねてみても、宇宙空間のほんとの無重力状態ばかりは、

実際に体験してみないと、全くわからないという。

 

・・・「・・宇宙では、ほんとにスーパーマンと同じように空を飛べるんだからね。

あの格好をまねて飛ぶんだ。 いくらやっても、あればかりはあきないね。 ・・・・」

 

==>> 私は小さい頃からよく空を飛ぶ夢をみました。

     生家の二階の縁側から飛び立って、市街地を越え、鉄道の駅を越え、

     その先の佐世保湾を越え、赤崎岳を越え、九十九島が広がる海へと

     スーパーマンのように飛んでいくのです。

     成人になってからは、都会のビルの間を飛ぶようになりましたが、

     思った高さをキープできず、失速することが多くなりました。

 

p32

 

・・・

それぞれの人にとって環境とは、

「私を除いて存在する全て」

であるにちがいない。

それに対して宇宙は、

「私を含んで存在する全て」

であるにちがいない。

環境と宇宙の間のたった一つのちがいは、私・・・・

見る人、為す人、考える人、愛する人、受ける人である私

 

この詩を何度も読み返して、シュワイカートは目を開かれる思いがしたという。

かれがアポロ9号で宇宙体験をしたのは、1969年。 フラーと対談したのは、その

8年後の1977年である。 この詩によって、自分の8年前の宇宙体験をより掘り下げ

ることができるようになったのだという。

 

==>> この詩を読んで頭に浮かぶのは、「臨死体験」の本に出て来た「私」の

     存在です。 その中の典型的な例としては、身体が無くなり私という

     視点だけが宙に浮いているという感覚であるようです。

      そのような感覚は、立花隆さんが試したように私も試してみた

     アイソレーション・タンク(または、フローティング・タンク)での

     疑似無重力体験でもある程度は感じられるようです。

     https://sasetamotsubaguio.blogspot.com/2021/11/blog-post_26.html

 

さて、ここからいよいよアメリカの宇宙飛行士たちがどのような宇宙体験

     をしたのか、そしてその後どのような人生を送ったのがが、インタビューなど

     を通じて明らかにされていきます。

     

p35

 

宇宙飛行士が帰還すると、直ちにNASA(アメリカ航空宇宙局)によって徹底的な

デブリーフィングがおこなわれる。 デブリーフィングとは飛行の過程で体験した

あらゆることを、逐一詳細に、各分野の専門家が入れ代わり立ち代わりインタビュー

して、それに答える形で報告させることである。

 

・・・しかし、このデブリーフィングは、・・・あくまで技術的かつ科学的側面に限定

されていて、心理的精神的側面からおこなわれたことはない。

 

・・・それくらいNASAは技術者中心社会なのである。・・・初期はすべて軍のテスト

パイロットの中から選ばれ、その後も、ジェット機のパイロット、科学者の中から

えらばれた技術系人間たちである。

 

==>> つい最近になって、民間のフツーの大金持ちが宇宙ステーションに行ける

     ようになって来ましたが、是非ともそのような人たちの中に、

     心理学者、哲学者、芸術家、音楽家、文学者、宗教家などなどの人間を対象と

して研究、創作するトップクラスの人たちを送ってもらいたいと思います。

     

 

p37

 

C・P・スノーが「二つの文化」でつとに指摘しているように、現代文化の最大の

特徴は、それが科学技術系の文化と、人文系の文化の二つに引き裂かれていることに

ある。 どちらの文化の担い手たる知的エリートも、もう一つの文化に関しては、

ごく少数の例外を除いては、大衆レベルの知識しかもっていないのである。

 

・・・「まあ、せいぜいその辺のハイスクール卒業生の平均レベルといったところ

だろう。 思想的に深みのある書物を読んだことがある人などというのは、きわめて

少ない。 特に宇宙飛行士はそうだ。 ・・・哲学書などは読む暇がない人生を

送ってきた連中だ。 ・・・もちろん、少数の例外はあるがね」

と、・・・エゼル博士はいう。

 

==>> ここで、エゼル博士というのは、ヒューストンの宇宙センターで、NASAの

     歴史をまとめる係を任されている歴史学者 E.C.エゼル博士で、

     NASAで人文科学を専攻した人間はこの私だけだと述べた人である。

     つまり、それ以外の人たちはいわゆる科学バカの集まりだというわけです。

 

     元々宇宙開発は軍のプロジェクトという位置づけでしょうから、科学者中心

     であることは自然なことという見方も出来るのでしょうが、それが人類に

     及ぼす影響は他とは比べ物にならないくらい大きいのですから、

     人類が人類であるかぎり人文系からの研究があってしかるべきでしょう。

 

     いままでに私が読んできた本の著者の中には、数学者であり物理学者であり

     同時に哲学者であるという人も何人かいましたので、そのような人たちが

     今後宇宙を体験して多くを語っていくことを期待したいと思います。

 

 

p40

 

宇宙飛行士たちが書いた著書を片端から読んでみたが、・・・宇宙体験のピークをなす

部分ですら、そのときの自己の内面にかかわる記述はまるでなきに等しいのである。

 

マイク・コリンズ(アポロ11号)がいうように、

もし詩人や哲学者を宇宙飛行士にしていたら、宇宙船は宇宙にたどりつけなかった

ろうし、たどりついたとしても、地球に帰還できなかったろう」

というのは、たしかに事実だ。

実際、実例があるのである。

 

1962年にマーキュリー7号で・・スコット・カーペンターは、・・・唯一詩人の魂を

持つ男と言われた。 ・・・・その彼が宇宙空間に舞い上がったとき、彼はその美しさに

夢中になってしまった。 ・・・熱中しているうちに、帰る時間がきてしまった。

・・・大気圏再突入のための姿勢制御操作が少し遅れてしまったのである。

 

==>> このカーペンターさんは、操作が誤っていたにも関わらず、奇跡的に

     帰還できたのですが、一時はカプセルもろとも焼け死んだと思われて

     いたそうです。

     要するに、科学バカと文学バカのそれぞれが、得意な分野での仕事を

     しなければ人類にとって必要なものはバランスよくは手に入らない

     もののようです。

 

p44

 

実をいうと、一人の詩人も宇宙飛行士に採用されなかったが、詩人になった宇宙飛行士

はいる。 ・・・画家になった宇宙飛行士はいる。 宗教家・思想家になった宇宙

飛行士もいれば、政治家になった宇宙飛行士もいる。 平和部隊に入った宇宙飛行士

もいれば、環境問題に取り組みはじめた宇宙飛行士もいる。

 

シュワイカートのことばを借りれば、

「宇宙体験をすると、前と同じ人間ではありえない」

のである。

 

==>> このような、いわゆる変身は、「臨死体験」の本にも出て来ます。

     臨死体験という不思議な経験をした人の中には、それまでのその人の

     人物像からは想像もできない程に、人格が変わってしまったように変身する

     人がいるというのです。

     おそらく、そのような普通ではない体験をした人たちの中から、宗教の

     創始者のような人物が現れるのではないかとほのめかす記述もあります。

     いわゆる神秘体験とか啓示を受けたというようなことですね。

 

 

p46

 

地球環境の主役をつとめているのは、大気と水である。 大気は地球を20キロの

厚みで包んで保護している。 ・・・地球の大きさに比較するとほんの薄い膜のような

ものである。 地球の直径は1万3000キロある。 これを一千分の一に縮小して

みると、ちょうど運動会で大玉転がしに使う大玉くらいの大きさになる。 その上に

厚さ2ミリの膜を張り付ければ、それが大気の層だ。水の層になると、もっと薄い。

・・・わずか0.16ミリの薄膜である。

 

p47

 

「地球は宇宙のオアシスだ」

といったのはジーン・サーナン(ジェミニ9号、アポロ10号、17号)だが、この

ことばには、宇宙空間という生命の砂漠を旅した宇宙飛行士の心情がよくあらわれている。

宇宙空間には生命のかけらもなく、生命が存在するのは、自分たちがいる宇宙船と、

何十万キロもかなたに小さく見える青い地球だけなのだ。・・・・自分と地球を結ぶ、

切っても切れない生命という紐帯の大切さを認識せずにはいられない。

・・・・自分の生命にとっては、地球の生命は唯一のより所なのである。

 

==>> このような思いを人類のすべてが心に刻めるように、世界のリーダーたちは

     この地球を運営して欲しいとつくづく思います。

     地球あっての人類ですからねえ。

     子どもでもサルでも分かるシンプルなこと・・・・

     北極や南極の生きものたちは、もっと分かっているのかも?

 

p52

 

事故発生から一時間経過したところで、司令船の電気はあと十五分しかもたないことが

判明して。 それは呼吸用の酸素もあと十五分しかもたないということである。

地球へ帰還するのに最低3日はかかるという時点で、あと十五分しかないのである。

考え得る唯一の応急策はただ一つしかなかった。

月着陸船を救命ボートにするほかなさそうだ。 ・・・・」

 

p53

 

このままいけば、地球に戻るのに、90時間かかることが予測された。 二人で60時間

しかもたない酸素、電気、水を三人で90時間ももたせることができるかどうか。

 

p54

 

とりわけ緊急を要したのは、慣性誘導装置のデータを月着陸船に移すことだった。

・・・そのデータなしには、宇宙船がどこをどう飛んでいるのかわからなくなるのだ。

そしてそれがわからなければ、ヒューストンからの支援もできなくなる。

 

==>> これは1970年に起こったアポロ13号の事故対応の描写です。

     事故発生が判明してから15分間でやるべきことがどのようにギリギリの

     状態の中で進められたかが詳細に書かれています。

     映画「アポロ13」もありました。

     https://www.youtube.com/watch?v=8EL1aZGgrMM&t=2s

 

 

p56

 

使うことが可能なエンジンは、月着陸船のエンジンだけだった

・・・このエンジンで、月着陸船、司令船、支援船がつながったままの宇宙船全体を

地球軌道まで戻さなければならないのである。

・・・唯一可能なのは、月へまず向かい、月の向こう側をまわってくるという手だった。

・・・なぜなら、月へ飛行中の宇宙船は、ブーメランのように自然に地球に戻る軌道に

乗っているからである。

 

 

p62

 

宇宙飛行士たちは、それから地球に帰還するまで寒さにこごえつづけなければならな

かった。・・・着水してからも、カプセルの中では人の吐く息が白くなったほどである。

・・・全員が睡眠不足におちいった。 そのため、最も大事な再突入時には、覚醒剤を

服用しなければならなかった。

 

p63

 

この問題もまたヒューストンからの支援で解決された。

月着陸船内にあるありあわせの材料を使って、月着陸船の換気孔と、司令船のカートリッジ

を結合させるアダプターを作る方法を考えだしたのだ。使った材料は、いらなくなった

チェックリストとか、汚物処理用のポリ袋とか、不用のホースとか、接着テープとか、

ほんとにありあわせのものだった。

 

p64

 

船外の放出された小便は一瞬のうちに凍結し、無数の水滴になって散乱し、

宇宙船の周囲をただよう。

「宇宙船からの眺めの中で、最も美しい眺めの一つが、日暮れ時の小便だ。一回の

小便で、一千万個くらいの微小な氷の結晶ができる。 それが太陽の光を受けて

キラキラ七色に輝き、えもいわれず美しい。 信じがたいほど美しい」

 

p68

 

ともかく、こうしてアポロ13号の宇宙飛行士たちは、無事に地球にたどりついた。

・・・救出されたときは、ほとんど口もきけないありさまだった。・・・

「地球を離れてみないと、我々が地球で持っていたものが何であるのか。 ほんとの

ところはよくわからないものだ」

 

==>> これはほんの少しの抜き書きですが、このアポロ13号の話は、

     息もつかせぬような緊迫感が伝わってきます。これは立花隆さんの

     詳細にわたる調査やインタビューによるものだと思います。

     アポロ13号の事故がこれほどまでに極限状態にあって、奇跡的に生還できた

     ということが信じられないほどです。

     こちらに、ドキュメンタリーがありました。

     1994年制作のもので、この本の著者である立花隆さんが解説しています。

     アポロ13号 奇跡の生還 - YouTube

 

次回は「神との邂逅」という部分に入ります。

 

=== 次回その2 へ続きます ===

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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