河岡義裕編「ネオウイルス学」を読む ― 3 ウイルスは我々の生態系の一部、昨日のウイルスは今日のウイルスとは違う
河岡義裕編「ネオウイルス学」を読む ― 3 ウイルスは我々の生態系の一部、昨日のウイルスは今日のウイルスとは違う
河岡義裕編「ネオウイルス学」を読んでいます。
P126
ウイルス学の幕開けは、植物(タバコ)に「病気を起こす」ウイルスの研究として始まり
ました。 植物ウイルスと同じように、動物ウイルスの研究もやはり家畜を病気にする
ウイルスの研究から始まりました。しかし現在では、植物、動物に限らず、宿主に
病気を発生させるウイルスは全体の一割にも満たないことがわかっています。
==>> さて、ここがこの本のタイトルである「ネオウイルス学」の目的に通じる
ところであるわけですが、その主旨をこちらのサイトで発見しました。
漫画もありますよ。
https://cls.kuicr.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/Neo-Virology-News-Letter-01.pdf
「従来のウイルス学は、病原微生物であるウイルスを対象とした研究に偏重して
きました。私たちが知るウイルスの姿は、ごく限られたものであり、自然界で
のウイルスの存在意義を解明するための科学研究は、まだまだ十分とはいえ
ない状況にあります。
本領域では、ウイルスを地球生態系の構成要素として捉え、ウイルスが生物の
生命活動や生態系に及ぼす影響やその機能メカニズムを解明するために、
「ネオウイルス学」という新学術分野の創出を目指します。」
「ウイルスによる生態系制御システムという複雑系の研究を展開します。」
「生命誕生と共に出現したウイルスは、生物の進化には欠かせないパートナー
だったと考えられます。最近の研究から、私たちのゲノムにはウイルスに由来
する遺伝情報-内在性ウイルス-が数多く存在することが明らかとなりました。
では私たちは、なぜ自らの設計図に非生命体であるウイルスの情報を取り込
んできたのでしょうか。」
「ヒトは一生の大部分を潜伏感染するHHVと共生します。
ヒト集団とHHVの進化パターンには高い相関性が認められていることから、
両者は高度な共生関係を確立し、地球上で数百万年の時を刻んできたといえ
ます。しかしながら、今日に至るまで、ヒトとHHVの共生関係の生理学的意義
は全く明らかになっていません。」
p138
コップ一杯の海の水。 この中に、数百億を超えるウイルスが浮かんでいるという・・。
・・・海だけではありません。 池でも湖でも、自然界の水の中にはとてつもない数の
ウイルスが浮かんでいます。
p152
珪藻がどんどん分裂して増えていくと、時に分裂速度の遅い細胞(いわゆる「老いた細胞」)
が現れる。 すると、ウイルスは選択的にこれを攻撃します。 元気に増殖している細胞
はウイルスに対しても耐性がありますが、「老いた細胞」はウイルスに乗っ取られ、大量の
子孫ウイルスを放出しながら崩壊していきます。
・・・残酷、と感じられるかもしれません。でも、珪藻個体群全体として見れば、
老いた細胞の成分が環境中に放出され、細菌による分解を受けて栄養塩として再び利用
できる形になる(リサイクルされる)ことは、むしろプラスなわけです。
==>> ここでは水の中でのウイルスの話がでています。
これを読んでいると、なんだか人類に対する新型コロナウイルス、それも
デルタ株よりも前の日本でのウイルスの行動を連想させます。
つまり、従来株は、高齢者をターゲットにしていました。狙い撃ちです。
私自身が70歳ですから、正直に言えば、もう死んでもいいやと思っています。
ですが、コロナに感染するとかなり苦しい最後になるようなので、小心な私は
まっ先にワクチン接種の予約をして、二回の接種を終え、興味本位で抗体検査
までやりました。
コロナがぽっくり逝ける病気なら、ワクチン接種はしなかったかもしれません。
スウェーデンでは、国民の合意のもとで、高齢者に関してはトリアージを
しています。 ムダな医療費を使わないという国の政策です。
私自身は、延命処置などは要らないという考えですから、このスウェーデン
の医療政策はひとつの見識であると思います。
p157
現在、ウイルス学の分野では、土壌や海水などの環境やさまざまな生物からサンプルを
採取し、次世代シークエンサーを活用したゲノム解析が盛んです。 我々の専門的な
言葉で「メタゲノム」、あるいは「メタトランスクリプトーム(RNAの場合)」と
言います。
・・・従来はサンプルからウイルスを分離、培養、増殖させる過程を経て「ウイルスがいる」
と認識していましたが、現在ではウイルスのゲノム配列情報だけで、「ウイルスがいる」と
認識されるようになってきたのです。
==>> この「メタゲノム」というのは、大雑把に言ってしまえば、一網打尽にした
環境のサンプルの中にウイルスのゲノムをみつけて、このサンプルの中に
「ウイルスがいる」と、状況証拠で犯人をつきとめるようなやり方なのかな
と思います。
p159
ウイルスは生物の細胞に吸着し、細胞の膜と融合して細胞内に入ることで感染を起こし
ます。 細胞に入る時の鍵となり、細胞側にある鍵穴を破るタンパク質を研究すること
は、それを攻撃のターゲットにするワクチンの開発にもつながります。
p160
私の研究室には実験装置がなく、私自身の実験はしません。 常にコンピュータと
にらめっこするのが日課で、刻々と変異していくウイルスのゲノム配列を見て、
タンパク質の変化や、アミノ酸置換を見ています。 アミノ酸置換とは、タンパク分子
の中のアミノ酸が別のアミノ酸に突然変異する現象で、たった一つのアミノ酸が変わる
ことでウイルスの機能がガラリと変わることがあるのです。
==>> 私にはこの研究者の仕事の具体的なイメージが掴めないのですが、
この著者の説明によれば「私の専門は、さまざまな生物のゲノム配列を
比較解析する研究です。」と書いてあります。
しかし、それにしても、時々刻々と変異していくものを見ているというのが
想像を絶する凄さを感じます。
それらの変異のいくつかが、人類に悪さをすることになるかもしれない
わけですね。
p164
胎盤はがんと密接な関わりがあることが知られています。 がん細胞は「細胞浸潤」
といって、組織や臓器の中に侵入し、血管から栄養を勝手に奪ってしまいますが、
このメカニズムが胎盤とよく似ているのです。 実はがんの組織にも、ウイルスに
由来する配列の発現が見られる場合もあり、ゲノムの中に内在化したウイルス由来の
配列とがんの関連については私たちも解析を進めています。
==>> このようなウイルスがヒトに胎盤をもたらしたということは、すでに
読んだところです。 p95に書いてありました。
ウイルスは人体を作って来た元にもなっているようです。
p164
変化のスピードが甚だしい。 およそ1年間に24,25個ぐらいの塩基の変異が蓄積
し、加えて蓄積しないさまざまな変異を含めダイナミックに進化しています。
ということは、今存在している新型コロナウイルスは、流行初期の新型コロナウイルス
と、ある意味別のコロナウイルスになっているわけです。
これほどのスピード変化は、ほかの生き物ではありえません。
==>> 下のニュース記事は8月13日のものですが、従来株とデルタ株はかなり
異なるものであることを警告しています。
「デルタ株の感染力、インフルの4倍 ~「新しい危険なウイルス」~」
https://news.yahoo.co.jp/articles/13d735a72b3d1806d541ab568afe583adc0b46b8
「水痘並みの感染力があるということは、季節性インフルエンザの4倍以上の
感染力があることになる。水痘の感染力を示す基本再生産数は8~12。
インフルエンザや従来型の新型コロナウイルスは、1.5~2とされることを
考えると、デルタ株は別のウイルスと考えるべきだ」。
「このデルタ株は、これまでの新型コロナとは別の新たな危険なウイルスと
捉えるべき。つまり、状況は一変したと言えるのではないか」
「実際、デルタ株の感染者で入院が必要となる確率は、従来型に比べて2.2倍、
死亡は2.4倍に増加するとの報告がカナダからあるほか、シンガポールや
英スコットランドからも同様の情報がある。」
・・・こういうデルタ株の状況をみると、変異のスピードと変異の程度が
予想以上であることがよく理解できます。
ワクチンでどこまで対応ができるのか、心配になります。
p167
我々が増幅して増えていく生き物であるならば、ウイルスはそのメカニズムの隙や漏れを
利用して勝手に移動し、増えていく。 生命がある限り、「ウイルスフリー」な生活は
実現しないと思うのです。 別の言い方をすれば、ウイルスは我々の生命の一部であり、
移動する遺伝体だとも考えられます。
==>> ここまでこの本を読んでくると、この言葉がすんなり理解できますね。
我々自身がウイルスでできているってことですから。
p183
クライオ電子顕微鏡と高速原子間力顕微鏡の組み合わせには、大きな可能性を感じて
います。 究極的には、細胞の中でウイルスが増殖する時、ウイルスタンパク質が
どう作られ、どう動き、どう変化し、どう集合し、最終的にどうやってウイルス粒子が
作られているのか、原子レベルで丸ごと見てみたい!
==>> これは電子顕微鏡を使ってナノレベルでウイルスの構造などを研究している
方の言葉です。 原子レベルで見るというのは、それは興味深いですね。
もしかしたら、生命というものが分るかもしれません。
p184
致命的な感染症であっても、途上国でしか発生しない感染症に対してはなかなか
薬ができないのが現状です。 薬の開発には膨大な予算が必要なため、製薬会社も
利益を考えると手を出しづらいのだと思います。 ラッサウイルスを専門とする
ウイルス研究者も世界にわずかしかいません。
そこで、僕が始めたのはドラッグポジショニングと言って、既存の薬の名かから
ラッサ熱に効く薬がないか探すことです。
==>> この方法は、今の新型コロナウイルス感染症でも実際に模索されている
ことですね。
「新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向」
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/
このサイトのリストにはイベルメクチンは入っていませんが、アビガンは一応
入っているようです。
イベルメクチンについては、いろいろと議論があるようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/de6e6465983c718629f51603f771e99358cbb87d?page=3
「イベルメクチンはCYP3A4という代謝酵素で代謝される薬です。この手の
代謝プロファイルの薬剤は、薬の飲み合わせや、肝機能が低下した患者で血中
濃度が想定よりも高くなってしまうことがあります。治療において注意が
必要な薬です」
・・・・ということですので、素人が安易に使うのは危険であるようです。
== その4 に続きます ==
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