橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―8― 日本は「まかせて文句をたれる作法」、中国は「引き受けて考える作法」、アメリカに似ている合理性
橋爪x大澤x宮台 「おどろきの中国」 を読む ―8― 日本は「まかせて文句をたれる作法」、中国は「引き受けて考える作法」、アメリカに似ている合理性
「第4部 中国のいま・日本のこれから」に入ります。
p292
どうして、中国の「資本主義」だけが順調なのか。 それがじつは社会主義体制だから
です、という逆説になっている。
さらに付け加えておくと、社会主義国が資本主義っぽくふるまっている一方で、資本主義国
が社会主義っぽくふるまっているという状況もあります。
p294
もうひとつがベーシック・インカム。 つまり、一般市場でも貨幣という“投票権”を
誰もが行使できるように保証するというアイデアですね。 ようは、市場からバカげた
ものを退場させるための“万能投票権”を最低枚数保証する。
一種の普通選挙権みたいなものなんですね。
==>> 日本で言うならば、昔から「護送船団方式」というのがありますね。
今もこういうのがあるそうです。
トヨタ、NTT、東芝…量子技術開発に日本企業が「護送船団方式」で動く理由
https://diamond.jp/articles/-/273723
ベーシック・インカムが投票権という考え方があるんですね。
なるほど、何を買うかという投票をしているわけか。
買う選択枝が強制的に狭められる社会は、社会主義という言い方もできそう
ですね。
p295
中国共産党がやったことは、社会主義を資本主義につくりかえたんだから、これが
共産党か。 ブルジョワ政党じゃないのか。 ここが、いまの中国のいちばん奇妙な
点です。
彼らが社会主義と言っているのものがほんとうに社会主義なのか、市場経済といっている
ものがほんとうに資本主義なのか、考えておく必要がある。
==>> 私が漠然と感じるのは、社会主義というよりも、権威主義とか独裁体制
という方向です。
ロシアにしても、そんな感じだし、アメリカでさえ、最近の雰囲気は
分断の結果どちらに転ぶのかという嫌な感じがします。
p302
昔の腐敗・汚職はかわいかった。 松下の大型カラーTVが届いたぞ、みたいな。
いまは鉄道部長(部長は、大臣相当)が捕まったら、汚職金額が数百億人民元とか、
桁がちがうんですね。 権限がお金になるんです。
なんで権限がそんなにあるかというと、共産党の独裁だからです。
p303
文革の思わぬ作用、意図せざる効果がやっぱりあったのではないか。
つまり、文革は、市場経済に適さないような、さまざまな中国の伝統や習慣、
行動様式を一掃したところがあるわけです。
==>> 共産党の一党独裁によって、権限を持った幹部には、莫大なお金が
入るようになった。
そして、文革の思いもしない効果として、旧習のようなものが無くなり、
市場経済が一気に花開いた、ということになりそうです。
p307
鄧小平が再登場できたひとつのきっかけは、毛沢東とニクソンが会見して、アメリカが
安全保障のパートナーとして、後ろ盾になったことです。 これは共和党政権だから
できたんだけど、共和党政権は、反共(マルクス主義に反対)です。
ソ連に反対することが第一。 ソ連に反対するためなら、中国をサポートして、
ソ連の勢力を削いでやろう。 こういうプラグマティックな選択が可能だった。
民主党だったら「容共」路線と疑われてしまうが、ニクソンは反共の闘士ですから、
こういう選択ができた。
中国はこの時期、本気でソ連との戦争を覚悟していた。 そのために原爆の開発したし、
北京でも天津でも、国中で大学生や労働者が駆り出されて、大きな防空壕を掘っている。
つまり、本気だったんです。
==>> こういうところが、国際政治の奇妙というか面白いところなんでしょうね。
同じことをやっても、共和党と民主党では、評価のされ方が異なる。
日本にはこういう戦略的な大胆さがあるのか、凄く気になります。
おまけに、日本は結局、二大政党制にできなかった。
p311
日本は改革開放のため、かなり資金を出した。 円借款とか、それから、アメリカ以上
に日本が改革開放に手助けしたのは、経営管理ですね。 生産プロセスを改善するとか、
人事とか、品質管理とか、・・・・
p313
契約を結んでも、頻繁に「事情変更」ということで反故にされてしまう。 しかし、
逆に、幇の内側だと、そもそも契約なんかいらないわけです。
幇の内側の人間に対しては、人びとは徹底的に利他的になるので、互いを契約なんかで
拘束する必要はない。 しかし、幇の外の人間に対しては、ウソをついても裏切っても
何の問題もないし、・・・・・対内道徳と対外道徳がまったく異なっているような、
同心円構造が重なっている。
==>> つまり、アメリカが中国とくっついて改革開放を始めて、日本はそれに
くっついていろいろと協力をしたんだけど、契約という資本主義の根本的
なルールの部分に関しては、機能しないことがあるって話ですね。
まあ、日本人は几帳面だから、そういうところにイライラして、
相手を「嘘つき」だとかなんとか言うわけですけど、相手国のそういう
文化的実状をちゃんと調べておかなかった日本人のお人好し加減ってこと
になりそうです。
p316
第一は、香港とか台湾とか、大陸から見て「華僑」(オーバーシーズ・チャイニーズ)
みたいな人たちがあいだに入っている点があるんじゃないか。 彼らの役割は、日本で
いう総合商社みたいなもので、アメリカや諸外国に対して、こういう製品をこういう数量
でこういう価格で、納期までに届けますと約束し、注文を取ってくる。
中国的な人間関係のテクニックも総動員して、西欧的な絶対の契約を、実現できる
ようにせっつく。・・・・これらの人びとがインターフェイスになっている。
第二は、留学帰国組のテクノクラートの人びとが、それぞれの組織で、指導的な
役割を担っている。
・・・十年ぐらい前の数字では、アメリカに留学した中国人が四十万人。そのうち
十万人が帰国した。
==>> この本は2013年に出版された本ですから、もう十年も前の話に
なるわけですが、今や、中国とアメリカの関係は最悪になって
いるわけですね。
香港はもちろん潰されてしまい、台湾もかなり危機的な政治状況に
なってしまった。
そして、アメリカ留学組などは、中国の権威主義的な動きに嫌気をさして、
国外に脱出している人たちも増えているようです。
中国人の「祖国脱出」が静かに進む…人気移住先・日本を中国資本が席巻か
https://diamond.jp/articles/-/309010
「上海に親戚を持つ都内在住の孔慶さん(仮名)は「今逃げないとヤバい、
と脱出を考える人が増えました。移住への関心は間違いなく高まっています」と
話す。「上海ロックダウン」の後遺症が決して軽微なものではないことが
うかがえる。」
「孔さんは「目的地を日本に選ぶ人が多い」という。6月1日から上海では
ロックダウンが解除され、日本も1日当たりの入国者数の上限を2万人に引き
上げたが、これを契機に来日した中国人留学生もジワリと増えた。
これは“大失業時代”を迎えた中国からの脱出と見ることもできる。国家統計局
が2022年7月に発表した数字によると、都市部の16〜24歳の失業率は19.9%。
5人中1人に職がない状態だ。」
「アメリカはアジア人にとって危険、イギリスは雨が多く食事が合わない。香港
は狭すぎるし、他のアジアの国は知名度が低い。消去法で残ったのが、円安傾向
が続き、祖国にも近い日本でした」
海の向こうの話だと思っていると、いつの間にか日本も巻き込まれてしまう
ってことですね。
p318
・・・プラグマティックなところは、実はアメリカ人とよく似ている。 日本よりも
よく似ているんじゃないかと思う。 昇進は抜擢人事だし、給与は、横並びじはみんな
満足せず、仕事に見合った給料をくれと言っているし、キャリアパスが人それぞれなのは
中国共産党のシステムから言って当たり前。 そして組織合理性を追求する。
個人合理性と組織合理性をどう調和させるかとおいう課題と直面している点で、
アメリカとよく似ていて、日本とは似ていない。
p319
日本は、「まかせて文句をたれる作法」であって、「引き受けて考える作法」では
ない。 で、まかされる側は、残念ながら知識や合理性を尊重する作法ではなくて、
空気に縛られる作法ですよね。 これが組み合わさると、なかなか合理的な意思決定
はなされません。
==>> おそらくこの辺りが、戦前・戦中からの日本の無責任体質として、
日本人に引き継がれているんでしょうね。国会の議論なんかをたまに見て
いるとイライラするのは、こういうところかなと感じます。
議論がすれ違って、ふわふわしている感じしか残らない。
それが政治家だと言ってしまったら終わりですね。
p321
非合理なものは、中国では宗教のかたちをとるわけだ。 民衆の怨念みたいなものが
たまると、だいたい道教に行ったり、白蓮教や義和団に行ったり、法輪功に行ったり。
太平天国になったりもした。 そこで政府は、政治的な反対運動よりも、宗教的で
非合理な反対運動により敏感に反応する。
p322
日本は残念ながら合理的なマインドをもった媒介者の樹立に、とりわけ戦後は失敗した
ということのようですね。
==>> どうも、この辺りが日本と中国ではおおいに異なっているようですね。
中国は共産党独裁で合理的にことを考えるのに対して、日本はなにかと
いうと神道的なもの、精神的なものに頼ろうとする。
宗教的といってもいいのかもしれない。
もしかしたら、そういう雰囲気の中で、世界的に人気を集めている
アニメ映画もできてきたんじゃないかとも思えますが・・・
こういうアニメ映画、私も大好きなんですけどね。
一方アメリカでは、合理的に考える人びとと非合理的に考える人びとが
政治的な意味で完全に分断されているように見えます。
p324
アメリカに留学して近代的な社会科学の知識を身につけた中国人エリートたちの
少なからぬ部分が、「中国が市場経済化と民主化を両立させることはおそらく
できない」と言います。 そして、中国を崩壊させないためには、参加と自治を
旨とするような民主主義を導入してはならないと考えている。
・・・彼らは、「by the people(人民による)」はかならずしも「for the people(人民の
ため)」にはならない、という理屈で考えているわけです。
そして、いま優先すべきは「for the people」であると。
==>> これは、一時期あった、中国が民主化に向かうのではないかという観測を否定
する内容になっていますね。
「民主主義を導入してはならない」と中国のエリートたちが考えていると
言うのも分かるようなきがします。 十数億人の国を崩壊させないためには、
それが重要だということなのでしょう。
中国人民のためには、徳による政治ができる現代の皇帝が必要であると
いうことなのでしょう。
その為に、どこまで監視社会が強化されるのかが恐ろしいところですが・・・
p325
民主主義は、複数政党制で自由選挙で議会制民主主義だ、と私たちは思うかけだけど、
実はキリスト教文明圏だって、こうなったのはつい最近のことで・・・・
そのひとつの傾向は、神政政治というものだった。 カルヴァン派の信徒はカルヴァン派
だけで集まり、政治的な団体をつくり、宗教的リーダーが政治も行なう、というのが
一番よい、みたいな考え方です。
・・・アメリカはこういう傾向がいまでも少しあるんだけど、それを民主主義によって
克服した。
==>> この辺りは、アメリカの十年前の状況を比較的楽観的に述べているように
思えます。 しかし、今現在のアメリカの政治状況を見ていると、「民主主義に
よって克服した」と言えるのかどうか、はなはだ疑問です。
そのあたりのアメリカの深刻さは、こちらの本を読めば理解できます。
リチャード・ドーキンス著「神は妄想である」
http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2021/03/post-5d9d05.html
「1.
アメリカという国がいかに恐ろしい宗教国家であるのかを初めて
知った。 進化論を信じている人がアメリカ国民の10%にも満たないと
いうことは驚き以外のなにものでもない。
日本が曲がりなりにも政教分離を保って、科学教育を実施していることを
有難いと思う。」
p326
神政政治がなぜ世俗化された民主主義に移行するかといえば、神政政治が、プロテスタント
の基礎のうえにつくられたという点が重要です。 プロテスタントの特徴は、自分の
独自の聖書解釈や信条を、すべての人びとに説得的に説明できないところにある。
だから、解釈ごとに分裂してしまい、教会がいくつもあるんですよ。
そこで国家は、世俗のものとなり、教会と分離するという流れになった。
p327
中国の場合は、宗教改革を経ていなくて、人びと全員が「中国教徒」なわけだから、
解釈をめぐって争う余地がない。 たんに官僚組織の中で、党派闘争があるだけです。
==>> ああ、プロテスタントが民主主義政治の基礎にあったというのは初耳です。
カトリックの場合は、バチカンがありますからね。
解釈はバチカンがやってくれるって話ですね。
日本の場合は、「日本教」ということがよく言われてきましたが、
「中国教」というのは、これも初耳です。
まあ、日本よりも長い歴史を持っているわけだから、あっても不思議じゃ
ないですけど・・・
p328
中国的原則をもうちょっと敷衍すると、天が、政治の正しさの根源。 でも天は、
見えないし、観察もできないでしょう。 現実問題として天は何かというと、人民の
評判なんです。 人民の評判を失うと政権は崩壊する、というふうに実際は機能して
きたわけね。 ・・・官僚や、統治者がうまくふるまって、人民を満足させるという
順番だから、人民以前に官僚が存在する。
「主権」はあくまで、天命をうけた天子にある。
==>> 「人民による」政治は、中国の場合は無理だけど、天によって選ばれた
皇帝のような統治者が、人民の評判を気にしながら政治をやるという話に
なっています。しかし、その不満が爆発したときには、その王朝は終わって、
次の皇帝を選ぶということになるわけですね。
「人民のための」政治が行なわれる限りは、その王朝は存続できる。
まあ、このような意味では、遠回りの民主主義と思えなくもないですが・・・
p329
いわゆる先進国と言われていた国々は、いま、参加と自治という意味での民主主義と
グローバル化した資本主義のあいだの両立不可能性に悩んでいます。
新興国がどんどんせり上がってくる中で、右肩上がりではなくなったので、富や財の
配分比よりもリスクの配分が主題化されやすくなった。 つまり、不安ベースになって、
それゆえポピュリズムが起動しやすくなり、民主主義が合理的な政治的決定に
結びつきにくくなっている。
==>> これはまさに、アメリカの現状のように見えます。
ポピュリズムによって、二大政党制が崩れてしまうのではないかと感じます。
p331
中国も右肩上がりが難しくなったときにやはり社会主義(共産党一党支配)とグローバル
資本主義の両立困難という危機に陥るのではないでしょうか。
==>> これは十年前の本ですが、今の現状を言い当てているように見えます。
それも、パンデミックによって加速されたと考えるべきでしょうか。
こちらのサイトでは、民主主義国家が減少していることを解説して
います。 私の個人的な感じでいうと、アメリカもどう転ぶか分からない
なあという懸念をもっています。
後退する世界の民主主義 現状と背景を解説
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/478164.html
「自由で民主的なのは60の国と地域。非民主的とされるのは、その倍の
119の国と地域に上っています。 非民主的な国の中でも、政治権力を一部
の指導者が独占する、いわゆる権威主義に向かう国が増えています。」
「また各国でみられる「政治の分極化」がかかわっているという指摘もあります。
格差の拡大や政治の腐敗、移民問題などをめぐって、政党間の対立が極端に深ま
ると、市民の間で、自分たちの立場を代表してくれる人物であれば、民主的な
価値観にこだわらず、強権的な指導者でも構わないという風潮につながると
いう分析です。
とくに近年は、ソーシャルメディアの爆発的な普及によって、意見の対立、政治
の分極化が加速しています。
またロシアや中国がソーシャルメディアを通して、民主的な国や地域に偽情報
を流したり、選挙に介入して意図的に対立を煽ったりすることで、激しい分断が
生じ、民主主義が弱体化しているという指摘もあります。」
さて、ここまで読んでくると、かなり民主主義に関して、懐疑的になってしまうんですが、
日本の場合は、アメリカ次第なので、今後のアメリカの大統領選挙が大いに気になる
ところです。
では、次回は「第4部 ― 6 中国は二十一世紀の覇権国になるか」から
続けます。
==== 次回その9 に続きます ====
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