乾敏郎・阪口豊著「脳の大統一理論、自由エネルギーとはなにか」を読む ―1- 脳は身体の外も内も平等に推論する

乾敏郎・阪口豊著「脳の大統一理論、自由エネルギーとはなにか」を読む ―1- 脳は身体の外も内も平等に推論する

 

 

 

乾敏郎・阪口豊著

「脳の大統一理論、自由エネルギーとはなにか、すべての脳機能は推論である」

を読んでいきます。

 

なぜこの本を読む気になったかと言えば、「統一理論」という言葉に惹かれたからです。

物理学の分野では、量子力学と相対性理論を統一する理論が求められているという話を

いままで読んできた本の中で何度も目にしました。

そのような話がついに脳にまで及んでいるのかという驚きが湧いたのです。

 

しかし、なんと言ってもかなり難しそうな話なので、こちらの動画でちらっと

予習をしておきましょう。

 

自由エネルギー原理ってなに?

https://www.youtube.com/watch?v=LU21q8BFziM&t=22s

「最近よく聞く脳の理論「自由エネルギー原理」。その概要ついて、わかりやすく紹介し

ます。後半では、神経細胞の方程式と自由エネルギー原理をつなぐ、私たちの最近の理論

研究について紹介します。」

 

iii

 

・・・この脳画像に基づく実験によって、心の動きを調べる心理学と神経系の仕組みを

調べる神経科学との共同研究が進み、知覚や認知、記憶などの機能のメカニズムの研究

が大きく前進したのです。

 

 

iv

 

脳の中には個々の機能に専門化した特別な仕組みが用意されているわけではなく、多数の

神経細胞(ニューロン)がつながった大規模なニューラルネットワークの中で信号が

行き来することによって、これらの機能が実現されているからです。

 

・・・2006年頃からカール・フリストンというイギリスの研究者が、脳の情報処理

の原理を説明する一般的理論「自由エネルギー原理」を提案し、この理論に基づいて

脳のさまざまな機能の説明を試みてきました。

 

 

v

 

しかし、残念なことにこの理論は高度な数学を用いて記述されており、数学や物理学の

知識の裏付けを必要とするため、だれでもすぐに理解できるようなものではありません。

実際、著者の私たちお論文の内容を理解するのに最初はずいぶん苦労しました。

 

==>> 以上ば「まえがき」の部分なんですが、この本の著者たちですら、

     最初は非常に苦労したほどに難しい理論であると書いていますし、その内容を

     広く知ってもらう必要があると考えてこの本を出版したとしています。

     私は、数学も物理もさっぱりなので、途中で投げ出す可能性が大ですが、

     とりあえず読んでいきます。

 

 

p001

 

私たちは、特に意識せずとも、仕草や表情、話し方などから(直接は知ることができない)

相手の心のうちを推測している。 このように自分が得た情報からわからないものを

推測する人間あるいは脳の機能は「推論機能」と呼ばれる。

 

・・・いま目にしているこの世界(これを自分の外の環境という意味で「外環境」と

呼ぶことにしよう)もまた、私たちの脳が推論した結果であるといえる。

 

p002

 

一般に、網膜像から物の形状や色、物までの距離や物の配置などを理解し「見えている」

という感覚・意識が生じる機能は「視知覚」と呼ばれるが、まさに視知覚は、網膜の情報

をもとに外環境を理解しようとする推論機能によってもたらされているのである。

 

==>> ここでは脳の「推論機能」について説明しています。

     確かに、私たちが世界とか外界とか言っているものは、目、耳、鼻、皮膚感覚

などを通して入って来たさまざまな情報にもとづいて推論によって作られた

     ものなんですね。

 

p003

 

・・・「自由エネルギー原理」である。 さらにフリストンは、人間の認知や思考、意思

決定、発達など、人がもつさまざまな機能もこの原理で理解できると述べており、以来、

このアイデアが現在まで脳の研究に大きな影響を与えつづけている。

 

 

p006

 

ウルリック・ナイサーの「知覚サイクルモデル」である。 ナイサーは、人間や動物が

外環境に対して意味付けをし、行動を通じて知識(シェマと呼ばれる)を変えていくという

能動的な知覚サイクルの重要性を説いた。 1976年のことである。

 

p007

 

・・・しかし、これらの機能が具体的に脳のどのようなネットワークによって作り上げ

られているかは不明であった。

しかし、自由エネルギー原理によれば、この知覚と運動の循環が合理的に説明できる

のである。

 

==>> ここでは、カール・フリストンの「自由エネルギー原理」と、ウルリック・

     ナイサーの「知覚サイクルモデル」が結びついたことが述べられています。

     ここに書かれている知覚と運動の循環が脳の機能として重要であることが

     この後に何度も出て来ます。

 

 

p008

 

フリストンの自由エネルギー原理は、川人・乾の視覚認識モデルを包含し、さらに

ナイサーの知覚サイクルモデルをも説明できる枠組みであり、それゆえ、脳の統一的

原理を与える理論と考えられているのである。

 

p015

 

・・・外環境を知覚する際、脳は感覚信号(感覚情報を表わす神経活動)そのものを

理解しているのではなく、感覚信号の原因となった外環境の構造や状態を推論している

ということである。 つまり、私たちが知覚するのは「物体の大きさ」であって、

網膜像そのものではない。

 

 

・・・推論すべき外環境の状況は「隠れ原因」「隠れ状態」(直接知ることができない

「隠れた情報」という意味)と呼ばれている。

つまり、「物体の大きさ」という隠れ原因は感覚信号(網膜像)から推論しないといけない

のである。

 

==>> ここでは、この推論は、「事前確率分布、条件付き確率分布という二つの

     確率分布を利用して、最大事後確率推定によって」行われているとの説明が

     あります。

     要するに、ヒトの脳は統計的な処理をするように動いているということの

     ようです。

 

 

p016

 

推論を始めるとき、脳はまず、隠れ状態について何らかの想定(これを信念と呼ぶ

ことがある)をおく。 そして、その想定が正しければこんな感覚信号が得られるの

ではないかという予測信号を生成する。

 

そして、この予測信号と実際に受け取っている感覚信号を比較して両者のずれを計算

する。 このずれを「予測誤差信号」という。

 

p017

 

予測誤差が最小化されるように頭の中の想定を書き換えることで、私たちは外環境に

何があるかということを理解しているのである。

 

==>> なんだか凄いコンピューター処理がされているような雰囲気になってきま

     した。 脳がまず想定(信念)をして、予測信号を生み出して、

     外から入ってくる感覚信号と比較して、そのズレをチェックしながら

     外の世界の有様を作っているという話なんです。

     なぜ感覚信号だけじゃいけないのか、信念や予測信号まで必要なのは何故なの

     か・・・・

 

 

p021

 

そして、この認識確率と真の事後確率の違い(ダイバージェンスと呼ばれる量)と、いま

述べたシャノンサプライズを足し合わせたものが、物理学で知られている「ヘルムホルツの

自由エネルギー」と等しくなる。 つまり、

 

<ヘルムホルツの自由エネルギー> 

= (認識確率と真の事後確率のダイバージェンス)+(シャノンサプライズ)

 

が成り立つ。

 

==>> ここで、私はほぼ迷宮に入り込んでしまいました。

     そこで、こちらの動画でなんらかのヒントを得たいと思ったのですが・・・

     【大学物理】熱力学入門⑤(ヘルムホルツの自由エネルギー)

     https://www.youtube.com/watch?v=N1tub3Ofh1E

     

     ・・・結局無駄な抵抗でした。 しかし・・・・

     動画の最後のほうに、こんな説明が出て来ました。

     「内部エネルギーの変化から必ず伴う

      束縛エネルギーだけ引いたものが

      自由に取り出せるエネルギー

     ・・・・なんとなく「自由」の意味の片鱗が分かっただけでもよしとします。

 

     そして、たまたま見つけた動画で、この本の説明に沿った内容のものが

     ありまして、非常に私にとって助かる「数式を使わないで説明する」という

     ものがありました。

     シンギュラリティサロン講演記録「自由エネルギー原理と視覚的意識」2019

     https://www.youtube.com/watch?v=VPHZDYps4Gk

     この動画の中で私にとってヒントになったのは、

     「外界の状態の推定がより正確になる行動選択をする。

      ==> 変分自由エネルギーを下げる

     という解説の部分でした。

     そして、この動画の中に、事前分布と事後分布の説明もありました。

 

     上記の動画の中でのまとめ的なものは以下のように書いてあります。

     「自由エネルギー原理(FEP)とはなにか

     ・いかなる自己組織化されたシステムでも、環境内で平衡状態でありつづける

ためには、そのシステムの(情報的)自由エネルギーを最小化しなくては

ならない。

     ・適応的なシステムが無秩序へ向かう自然的な傾向に抗して持続的に存在し

      つづけるために必要な条件。

     FEPは適応的システムについての理論。

     情報理論的な意味での変分原理?」

     としています。

 

     それに加えて、

     「FEPと現象学に基づいた意識理論」というまとめの中には、

     「意識とは、イマココの推測q(x)と世界のモデルp(x、s)が一体と

     なって知覚のたびにオンラインで照合され続けるprocessである。」

     ・・・という非常に興味深い説が書いてあります。

 

p022

 

エネルギーを最小にするような認識確率を求めればよいことになる。

そこで、フリストンは、知覚の過程を「ヘルムホルツの自由エネルギーを最小化する」

過程だと考えたわけである。 自由エネルギーを最小化するように推論を行なうこと、

これが、自由エネルギー原理である。

 

==>> 話が前後してしまいましたが、つまりは、フリストンさんは自分の脳の

推論説に、ちょうどよい物理学の理論がないかと探したらそこに

ヘルムホルツさんの説があったから、それを情報理論に転用したという

ことのようです。

     フリストンさんは神経科学者で、ヘルムホルツさんは、生理学者でありかつ

物理学者なんですね。

 

 

p023

 

予測誤差は予測信号と感覚信号の差であるから、誤差を小さくするには予測信号(正確に

はその源である信念)を変化させてもよいし、感覚信号を変化させてもよいわけである。

 

p024

 

能動的推論において感覚信号を変える一つの例は「視線(あるいは眼球)を動かす」

ことである。 視線を動かせば視野が変わり、網膜に映る像は変化する。それによって、

予測信号と一致する感覚信号(網膜像)を観測できれば、予測誤差を小さくすることが

できる。

 

・・・このように、脳は能動的推論において、自由エネルギーを小さくすべく、自分の

推定が正しいことの証拠となる観測信号を得る努力をするのだと考えられている。

つまり、脳は「自己証明する」のである。

 

==>> この部分には、上でみた動画「シンギュラリティサロン講演記録「自由エネルギ

ー原理と視覚的意識」」で解説があった能動的推論の仕組みについて書いてあり

ます。 私の理解では、脳が「ころばぬ先の杖」のように推論をして、

外世界からの感覚器官を通じて入ってくる感覚信号との誤差を小さくする

ように頻繁に調整を行なっているということのようです。

つまりは、できるだけエネルギーを使わなくて済むように、サプライズがなくて

済むように、ポイントを絞って脳の注意を向けるように働いているようです。

こういう理解でいいんでしょうかねえ。

 

p028

 

信号の精度を能動的に制御して、その信号のもつ意味の重大さを操作する機能を

「精度制御」と呼ぶ。 そして、フリストンの理論では、この「信号の精度を高める」

操作が「注意を向ける」という機能に相当すると考えるのである。

 

 

p032

 

神経科学の研究においてドーパミンがニューロン活動を促進することはこれまでに

知られていたが、ドーパミンが信号の精度を変えるという観点は自由エネルギー原理

の理論において新しく提案されたものである。

このような提案により、ドーパミンと脳内信号処理の関係が明らかになっただけでなく、

ドーパミンの過剰や欠乏が精神疾患を引き起こすメカニズムに対して合理的説明を

与えることができるようになった。

 

==>> ドーパミンの働きについては非常に多くの機能がありそうですので、

     こちらでチェックしておきましょう。

     ドーパミン

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%9F%E3%83%B3

     「カテコール核を持つアミン(カテコールアミン)で、中枢神経系の伝達物質、

及び末梢のシグナル分子として働く。」

「線条体、前頭前野、海馬、側坐核などにおいて、神経細胞の興奮性やシナプス伝達に対して多様な修飾作用を持つ。」

パーキンソン病では黒質のドーパミン細胞の変性による線条体ドーパミン量

の低下が生じ、静止時振戦、筋固縮、無動などの運動機能の障害が生じる。」

「認知機能。ドーパミンは学習・記憶、注意、実行機能などの認知機能を調節

ることが示されており、特に作業記憶に対する寄与に関して多くの知見が存在

する。」

「網膜においてドーパミンはアマクリン細胞と間網状細胞(Interplexiform cell

から放出され、視細胞から神経節細胞へのシグナル伝達とその側方調節の両者

の修飾に関与する。」

     「統合失調症及び精神病性障害にドーパミン神経系の異常が関与することが

示唆されている。」

 

・・・・このような様々な働きがあるドーパミンですが、少なくとも

脳の情報処理の仕組みに関しては、自由エネルギー原理なるものが

かなり有望な仮説として登場したということのようです。

 

 

p035

 

フリストンは、運動野が出力する信号は「筋感覚の予測信号」(「運動するとこの

ような筋感覚信号が観測されるはずだ」という予測)であると提案したのである。

・・・・この考え方がまた、神経科学のみならず心理学や精神医学などに大きな影響

を与えている。

 

 

p040

 

このように私たちは知覚と運動の循環的因果性のもとで外環境を理解し、そして

外環境に働きかけているのである。

 

ところで、脳は外環境だけでなく自分の身体内部(内環境)に対しても、同じように

「知覚」し、また、「働きかけ」ている

 

たとえば、脳は内臓や血管の状態をコントロールすると同時に、それらの状態を把握

している。

 

==>> つまり、どうも、脳にとっては、自分自身の身体も「外」という感じで

     扱っているようですね。 それほど脳は、五臓六腑とは違っているという

     ことなんでしょうか。

 

 

p042

 

このことを実験的に確認したのがサラ・ブレイクモアという研究者である。

彼女は、自分がくすぐる場合、くすぐったことで引き起こされる皮膚からの触覚信号

が神経系内部で抑制されることを明らかにした。

 

・・・一般に、自分の運動によって引き起こされる感覚は抑制されることが知られて

いて、フリストンの理論ではこれを「感覚減衰」と呼ぶ。 

 

==>> これは何の話かといえば、自分で自分の体をくすぐってもくすぐったく

     感じないのに、他人からくすぐられるとくすぐったいのは何故なのかという

     疑問です。

 

 

p047

 

行動は、外環境の情報を捉える外受容感覚(視覚、聴覚など)と自分の身体の状態

(関節角度や身体全体の動きなど)を捉える自己受容感覚の両方を処理する高次の

ニューロンの働きによって現れると考える。 

 

p048

 

エネルギー原理では自己受容感覚は運動制御信号にもなる・・・・・

 

いま、目の前のコップに手を伸ばす場合を考えてみよう。 この場合、このニューロンは

コップの外受容感覚(網膜像)と、コップを把持するための自己受容感覚の予測信号

を出力すると考えられる。 

・・・能動的推論によって知覚と運動が循環するからである。

 

 

 

p049

 

最近、赤ちゃんの研究で、物体が予期しない動きをしたとき、赤ちゃんは驚くだけでは

なく、物体に手を伸ばしてつかもうとする行動が見られることが報告されている。 

これはまさに、外受容感覚の予測誤差が大きいときに、予測に合うような運動をすること

によって予測誤差を低下させる行動であると考えることができる。

 

==>> いま、ふっと、この赤ちゃんの話で頭に浮かんだんですが、

     ひとつの独立した生命体としての赤ちゃんは、その身体を平衡状態に保とう

     とする、つまり、エントロピーが低い安定状態に保とうという脳の働きに

     よって、このような能動的推論をして、エネルギーを最小限に抑えると

     いうことをやっているってことなのでしょうか。

 

 

さて、次回は 「4  意思決定―二つの価値のバランス」から読んでいきます。

 



 

==== 次回その2 に続きます ====

 乾敏郎・阪口豊著「脳の大統一理論、自由エネルギーとはなにか」を読む ―2- 人間は環境の不確実性を最小化するような行動をとる、自分でやった感はどう作られるか、感情は内臓に直結 (sasetamotsubaguio.blogspot.com)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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