ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その4 温和な共和党となった民主党、 米国が所有すべき「大領域」、国際社会とは
ノーム・チョムスキー著「誰が世界を支配しているのか?」を読む ― その4 温和な共和党となった民主党、 米国が所有すべき「大領域」、国際社会とは
ノーム・チョムスキー著 大地舜 神原美奈子 訳
「誰が世界を支配しているのか?」を読んでいます。
「第四章 権力の見えざる手」
p089
現在の政策決定者はアドルフ・A・バールの判断に従っているとみて間違いない。
バールはフランクリン・D・ルーズベルト大統領に大きな影響力を持った顧問だ。
彼は、たぐい稀なエネルギー量を保有する中東を支配することは「世界を支配する」
ことになると思っていた。 同様に中東を支配できなくなったら、米国による世界支配
という計画に大きな支障が出ると信じていた。 この計画は第二次世界大戦中から今も、
世界秩序に大きな変化があったにもかかわらず、しっかり維持されている。
1939年に戦争が始まるときから米政府は、・・・・米国が支配すべき「大領域」を
描いた。 それには西半球、極東、元英連邦と中東のエネルギー資源が含まれていた。
ソ連がスターリングラード以降、ドイツ軍を摩耗させると、「大領域」構想はユーラシア
(アジアとヨーロッパ全体)に広がった。少なくとも経済の核となる西欧が含まれた。
==>> 今日現在、ロシアのウクライナへの侵攻が取りざたされて、世界経済にも
様々な形で影響が出始めているようです。
先日、FACEBOOKのニューズウィークのアカウントから下のような
記事が流れてきました:
ただし、しばらくして再アクセスしたら、「お探しのページが見つかりません」
という表示になり、該当記事は削除されたようです。
(よって、下の記事は、私が個人的に抜き書き・保存していたものです)
「NEWSWEEKJAPAN.JP
なぜアメリカは「ロシアがウクライナを侵攻してくれないと困る」のか」
「ロシアがウクライナを侵攻してくれると、あるいは侵攻しそうな様子を見せて
くれると、アメリカにはいくつものメリットがある。米軍のアフガン撤退の際に
失った信用を取り戻すと同時に、アメリカ軍事産業を潤すだけでなく、欧州向け
の液化天然ガス輸出量を増加させアメリカ経済を潤して、秋の中間選挙に有利
となる。」
「プーチン大統領がどんなに「ウクライナに侵攻するつもりはない。ウクライナ
がNATOに加盟することによってNATOが東方拡大することを阻止したいだ
けだ」と否定しても、「いや、騙されるな。プーチンは絶対にウクライナを侵攻
してくる」と断言し、しまいには「プーチンはウクライナを侵攻する決断をすで
に下した!」と、プーチンの心を見通すことができる「超能力」ぶりを発揮して
「ウクライナ侵攻」を譲ろうとしない。」
「世界はクリーンエネルギーを求めて動いているので、炭素排出量の少ない
天然ガスは人気の的だ。特に脱原発を掲げるドイツは、早くからロシアと協力
してノルドストリーム2の建築を進めていた。
しかしトランプ元大統領はそれを面白く思わず、親露に傾いていたメルケル
元首相とは犬猿の仲であったことは有名だ。なんとかドイツにノルド
ストリーム2を思いとどまらせたいのは、バイデンも同じなのである。」
「肝心のウクライナのゼレンスキー大統領はこれまでに何度も「ロシアの
ウクライナへの侵攻の可能性は非常に低い」と言っており、「もし本気で侵攻
してくるのならば軍隊規模が小さすぎ、現在の規模は毎年の軍事演習の規模
と変わらない」と繰り返してきた。
2月19日にも、ミュンヘンで開催されている安全保障会議でゼレンスキーは
「ロシアが侵攻してくると、これ以上、煽らないでくれ」という旨の訴えをして
いる」」
・・・・このような論調は、今私が読んでいるチョムスキーのこの本の内容に
通じるものがあるので、大変興味のある事態になっているといえます。
もちろん、私は日本に住んでいて、日本のニュースか、あるいはせいぜい
アメリカのニュースぐらいしか接することは出来ないわけですから、
アメリカ側の都合にあう情報しか入ってきていないとは思います。
p090
1989年に冷戦が解消され、NATOの存在意義がなくなったが、そのとき逆に
NATOは東欧まで拡張された。 以降、NATOは米国主導の軍事介入戦力と化し、
活動範囲も広がった。 NATO事務総長ヤープ・デ・ホープ・スヘッフェルは
「NATO軍は西欧に向かうガスと石油のパイプラインを防衛しなければならない」と
発言し、さらに、タンカーが通る海路も守るという。 それらもエネルギー体制の
「重要な基盤」だそうだ。
p091
米国とその同盟国は、何があってもまっとうな民主主義がアラブ世界に生まれることを
阻止する考えだ。 理由は簡単にわかる。 米国の世論調査機関が行った、アラブ世界の
世論調査を見るだけでよい。 あまり公表されていないが、米国の政策立案者たちは
もちろん知っている。
世論調査の結果を見ると、アラブ世界の大多数は、米国とイスラエルを最大の脅威と
みなしている。 エジプトでは90%の人々が米国を脅威とし、アラブ世界全体でも
75%が同様に考えている。 対象的なのはイランだ。 アラブ世界の10%しか、
イランを脅威だとはみなしていない。
==>> 今現在のウクライナの状況というのは、私のような凡人の日本人には、
ほとんど米国一辺倒の事情しか見えてこないわけですが、不偏不党を
理念とするチョムスキーさんにしてみれば、民主党であろうが共和党であろう
が、同じ米国であって、歴史的にみるならばとんでもないことをやってきた
超大国だという見方をしているわけです。
そのようなチョムスキーさんの本は、なかなか伝わってこない世界の常識
を垣間見るにはすぐれた情報源なのかもしれません。
実際に、上記のようなアラブ関連の情報はほとんどみたことがないですね。
つまり、日本は米国によって植民地としかみなされていない国のようですから、
そのような国としてコントロールされているのでしょう。
p093
NSC(国家安全保障会議)は、アラブ世界では、米国がこの地域の資源を支配するため
独裁政権を支持し、民主主義と経済発展を阻止していると思われていると説明した。
NSCによると、この見方は基本的に正鵠を射ているという。 これはムアシェーの原理
に基づき米国が狙っていたことなのだ。 “9.11”後に米国防総省が調査したところ、
今日でもアラブ世界ではまったく同じ認識だということが確認された。
勝者が歴史をゴミ箱に放り込み、敗者が深刻に歴史を受け止めるのはよくあることだ。
p095
アイゼンハワーが心配した反米「憎しみキャンペーン」が起こったことは不思議ではない。
米国とその同盟国は、独裁者を支援する一方、民主主義と経済発展を妨害してきたという
認識がアラブにはあるのだ。
一つだけ、アダム・スミスの弁護をしておこう。 彼は英国が現在では「新自由主義」と
よばれる、“健全な経済ルール”に従うと何が起こるかを理解していた。 彼は、もしも
英国の製造業者、商人、投資家が海外に向かえば、彼らは利益を得るだろうが、英国の
民衆は苦しむことになると警告した。
==>> 「この見方は基本的に正鵠を射ている」とNSCが言うのであれば、それは
正しいのでしょうね。つまり、アラブ側の見方は正当であるってことに
なります。
日本という国に住んでいる私のような凡人には、「独裁政権を支持し、
民主主義と経済発展を阻止している」と言われる国がまさか米国だなんて
思いもしないわけです。
そういう意味においては、アラブの人たちは賢いってことなのでしょう。
「ムアシェーの原理」については、検索にかかってきませんでした。
p096
「人びとの根本的人権を守る」というのは暗殺されたエルサルバドルの大司教の言葉
だが、彼もまた米国によって武装され訓練された軍隊に殺された数千人の犠牲者の一人だ。
その恐るべき時代の欧米に、ゴルバチョフのような人物はいなかった。 今もいない。
そして、欧米の権力層は、今でもアラブ世界の民主化に反対しているが、理由もはっきり
している。
「大領域」の原則は、今でも現代の危機や衝突に適用されている。
==>> いわゆる「アラブの春」というものが、結局どうなってしまったのか。
おそらく、私を含めて、日本人の多くは、アラブの春が成功することを
おおいに期待していたんだろうと思うのですが、民主主義の旗手だと
私が勝手に思っていた米国の原則はまったく正反対だったようです。
そして「アラブの春」については、wikipediaには以下のように総括されて
います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%96%E3%81%AE%E6%98%A5
「国際的な支援を得られなかったアラブの春は、一部地域を除き事実上挫折した。
結果的に、2011年から始まった一連の民衆蜂起は、暴力と経済破綻への扉を
開き、数百万人が難民や国内避難民となって家を追われ、数え切れない人々の
人生が台無しとなるものであった。」
このようなアラブの現実を振り返ると、チョムスキーさんの世界の見方が
ある一定の正しさを持っているように見えてきます。
p097
米政府はトルコの非服従を、失望しながらも黙認できる。 だが中国を無視するのは
もっと難しい。 欧米の報道機関は「中国の投資家・貿易商が欧米勢のイラン撤退後の
空白を埋め」、特にエネルギー産業で支配的な地位を拡大していると警告している。
米国務省は中国に対し、「国際社会」で受け入れられたければ、「国際的責任から逃げて
はならない」と警告している。
つまり“米国の命令に従え”ということだ。 この場合、「国際社会」とは米国と米国に
同調する国々のことだが、中国はこの言葉になんの感銘も受けないだろう。
p098
進歩的な雑誌「ニュー・リパブリック」は、「中国は10隻の戦艦を沖縄諸島沖合の
国際領域を通過させた」と心配した。 確かに当事者の日本にとっては凄い挑発だろう
が、語られていないのは米政府が沖縄県民の猛反対にもかかわらず、沖縄諸島を巨大な
軍事基地としている事実だ。 だが、米国の基本原則からいうと、沖縄の米軍基地は
中国に対する挑発ではないことになる。 なぜなら、米国が世界を所有しているからだ。
==>> 「国際社会」という言葉は、日本のマスメディアで盛んに使われる言葉
なんですが、本当のところは、どこの国のことを言っているのかなあ
という感じでした。 ここではっきりと解説してもらって有難い限りです。
この「国際社会」というのが、世界の国々の何割にあたるのかが知りたいと
思います。 少なくとも日本は入っていそうです。
上記の沖縄周辺、特に尖閣諸島の問題については、まさにここに書かれている
通りかと思います。 もし米国が「おれの所有地だ」と思っているので
あれば、日本は安心ということになるのでしょうか・・・・・
一方で、尖閣諸島は「日本の所有地だ」と日本が思ったときには、米国は
どう反応するのでしょうか。
また、この沖縄の構図は、今現在進行中のウクライナの件とも非常に
似通っているのではないかという気がします。
p099
富の集中は政治力の集中を生む。 そこで政府による財政政策や企業統治の規則、規制
緩和などは、さらなる富の集中を引き起こす。 その間に選挙キャンペーンの経費は
急騰し、二大政党は資金力のある業界の手に落ち、それもどんどん金融界中心となった。
共和党だけでなく、温和な共和党となった民主党も、負けずに資金力のある業界に頼る
ようになった。
これにより、選挙は見え透いたウソの芝居となった。
運営しているのはPR(広報)会社だ。
2008年にオバマが勝利を得た直後、PR業界の重役たちは大喜びし、オバマは
年間ベストのマーケティング・キャンペーンを行なったと表彰された。
==>> アメリカの政治に関する本を過去に2~3冊読んだのですが、ここまで
赤裸々に描かれているのは初めてです。 チョムスキーさんはジャーナリスト
がハラハラするほどに露骨に政治の実体を暴露するらしいので、
出版するにしても、出版を請け負ってくれる会社はなかなかないのだそう
です。
p102
現在は、国を移民に乗っ取られている意識が出ており、状態は悪化している。 白人種
はもうすぐ少数派となる。 個人的に権利を侵害されたと怒る人々のことは理解できる。
だが、残酷な国家政策には衝撃を感じる。
標的となっている移民たちは誰か?
・・・グアテマラ高地でレーガンお気に入りの殺し屋たちによって引き起こされた、
大量虐殺の災禍から逃れてきたマヤ族だ。 さらに、クリントンが締結したNAFTA
(北米自由貿易協定)による犠牲者のメキシコ人たちもいる。 ・・・米国・メキシコ
国境の武装化を行なった。
「自由貿易」という名称だが、「内国民待遇」をするという協定であり、・・・この特別
待遇は企業に与えられるもので、生身の人間には与えられない。 驚くことでもないが、
この政策は絶望した難民の洪水を引き起こした。 米国内では反移民感情が狂乱したが、
米国の労働者も同じように国家と企業が提携した政策の犠牲者だ。
==>> この辺りの、アメリカの事情は、先の大統領選での争点にも深く絡んでいる
課題かと思います。 その観点からいうならば、かのバーニー・サンダース候補
が左派だと危険視されながらも若者たちの支持を得たことは、若者たちの
危機感を表わしていたのかと、今更ながら納得ができます。
これらを読んでいると、共和党でもダメだし、共和党化が進んでいる民主党でも
ダメで、米国の政治はかなりどん詰まりにきているような感じもします。
独裁政権になるのか、あるいは逆に左派政権になるのか、・・・・・
p103
ヨーロッパ全域でネオ・ファシズムの政党が躍進しているのも恐ろしい現象だ。
過去にこの大陸で何が起こったかを思い出さなくとも、十分に不気味だ。
何が起こるか想像してみてほしい。 ユダヤ人がフランスから追放され、困窮し抑圧
される。 同時に大虐殺されたヨーロッパのもっとも虐げられた民族であるロマ人たち
に同じことが起こってもなんの反応もない。
==>> ここでは、フランスの他に、ハンガリー、オーストリア、英国、ドイツに
おける右派の躍進について懸念が書かれています。
日本においても、与党の某大物が、「ヒットラーの真似をすればいいんだよ」
みたいなことを言ったとか言わなかったとかニュースに流れたことが
ありますので、他人事ではありません。
民主主義国家といえど、いつどんな拍子に、独裁国家になってしまうのか
わかったものではありません。
p104
二十世紀における米国では、アングロ=サクソン人種が純潔であるという呆れた神話が
当たり前だと信じられていた。 信者には歴代大統領など主要人物たちも含まれる。
米国文学における人種差別は卑猥ともいえるレベルだ。 ポリオ根絶のほうが、人種差別
という恐ろしい伝染病を根絶するよりははるかに簡単だ。 そして、この疫病は経済が
低迷すると伝染力がより強まる。
ビジネスリーダーたちは、温暖化などリベラル派によるウソだと大衆に信じ込ませよう
としている。 だが実際は、脅威が深刻であることを彼らは理解している。
p105
この危機がいかに深刻なのかは、米国の議会を見ればわかる。 ・・・共和党議員の
ほとんどは気候変動を否定し、環境破壊を緩和させるかもしれない政策への資金を
すでに削減している。 困ったことに、その中には本当に温暖化などないと信じている
者もいる。 彼らは世界の温暖化などは心配するなという。 なぜなら神はノアに、
もう洪水は起こさないと約束しているからだという。
==>> ここでは二つの神話について語られています。 二つともに人類の
存続に関わる問題かと思います。 大量虐殺を引き起こす人種的偏見と
温暖化による人類の滅亡の危機です。
いずれにしても、神話を妄信することによって引き起こされる危機だと
言えそうです。
次回は、「第五章 米国はなぜ衰退し、何を引き起こしたか?」に入ります。
=== 次回その5 に続きます ===
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