立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その2 宇宙飛行士はどのように超能力を獲得するのか?
立花隆著「宇宙からの帰還」 ― その2 宇宙飛行士はどのように超能力を獲得するのか?
立花隆著の「臨死体験」に続いて「宇宙からの帰還」を読んでいます。
いよいよ、私が一番興味を持っている部分にはいります。
「神との邂逅」
p69
宇宙飛行士たちの宇宙における認識拡張体験の話を繰り返し聞いているうちに、私は、
宇宙飛行士とは、「神の眼」を持った人間なのだということに思いあたった。
・・・天はいつも神の座であった。 西洋近世以前の絵画には、天にいて、地上を見下ろ
している神の姿をいくらも見ることができる。 現代人はそれを比喩的表現と解釈する
かもしれないが、当時は描く人も見る人もそれが現実描写であると思っていたのである。
p70
最初に天を周回したユーリ・ガガーリンは、こう述べた。
「天に神はいなかった。あたりを一所懸命ぐるぐる見回してみたがやはり神は見当たら
なかった」
p71
・・・アメリカ人にとって、ガガーリンのセリフは、第一に神への冒涜であった。
第二に、無神論コミュニズムのアメリカ・キリスト教文化に対する優越性を誇る挑発的
言辞であった。・・・・アメリカは、ソ連との競争に勝つことで、キリスト教文化の
無神論文化に対する優越性を示さねばならなかった。
==>> 最近の大統領選などでも顔を出してくるアメリカの宗教・宗派問題ですが、
先端科学・宇宙開発の先頭を走るアメリカが、あまりにも、あまりにも
宗教的国家であることが、私には非常に皮肉なものにしか見えません。
科学的・論理的思考と神秘主義が、どうしても両極端にしかみえず、
その両方がアメリカの中でごった煮になっているからです。
p72
「アメリカの大衆は(そしてNASAも)、キリスト教の堅固な信仰を持っていない
宇宙飛行士を空に打ち上げることにいい顔をしないだろう。何しろ、宇宙飛行士たちは
天高く、いわば、神さまのオフィスの近くにいくわけだから」
と、カニンガムはいう。ところが、実はかくいうカニンガム自身は、信仰を持って
いなかった。 ハイスクール時代に信仰を捨て、不可知論者になったという。
・・・すると公報係は、
「それじゃ、“うちの家族の宗教は”とかいってごまかしたらどうかね」
と示唆した。
・・・で、記者会見になり、シュワイカートは宗教を問われると、
「特にこれという好みはありません」と答えた。
これは実に巧みな答えである。 シュワイカートは「宗教に対する好み」という意味で
こういったのだが、聞くほうは「教派に対する好み」という意味に解釈する
(いろんな教派を転々とする人は結構いる)からである。
==>> アメリカの大統領選でも候補者が宗教的にどうかということは大問題で
あるようですが、宇宙飛行士に関しては、国の英雄となる立場であるので、
殊更に重要なことになっているようです。
宇宙飛行士になるような人たちは、この当時は、ガチガチの理系で、それも
軍関係者がほとんどだったそうですから、文系的な考え、なかでも
神秘主義的な考え方からは一番遠いところにいるような人たちだったよう
です。 そういう人たちに宗教的であることを絶対的な要件とするような
期待感があること自体、不思議な現象に思えます。
カール・セーガン著の小説「コンタクト」を読めば、その辺りの面倒臭さが
よく理解できます。
p75
この点に関して、最も有名なのがジム・アーウィン(アポロ15号)の例である。
彼は宇宙飛行前は、人なみの(教会にいくだけの人)だはあったが、とりわけ信仰心
が強いわけではなかったという。ところが、宇宙から帰ると、宇宙で、とりわけ月面上で、
神の臨在を感じたとして、NASAをやめて、伝道者になってしまったのである。
==>> さて、いよいよ、月面で神の啓示なるものを受けてしまった人の話
が出て来ました。
この部分が私が興味を持っているところなんですが、要点の部分と
思われるところだけを抜き書きします。
p76
灰長石の存在は、月がその創世期に溶解状態にあり・・・
・・・地球と基本的には同じ構造をしているだろうことを推測させた。 実際、それは
後に、月面上に置かれた地震計の観測によって確認された。
・・・この灰長石が、“ジェネシス・ロック”と呼ばれる所以は、分析の結果、この石が
46億年前のものであることが判明したことにある。
p77
・・・月で46億年まえの岩石が発見されたことから、・・・・一度に太陽系の天体が
できたということは、その点において、聖書のジェネシス(創世記)の天地創造の神話
に合致する。
==>> ここで聖書の創世記に書かれていることこそが真実であると信じる宗派の
ひとたちのことが関連づけられていますが、リチャード・ドーキンス著の
「神は妄想である」には以下のような記述がありました。
http://baguio.cocolog-nifty.com/nihongo/2021/03/post-5fb40c.html
「p182
ありえなさという問題に対する答として自然淘汰が有効であり、偶然と設計が
はなから不適格であるのはなぜだろう。その答は、自然淘汰が累積的な過程で
あり、これが、ありえなさという問題を小さな断片に分割するから、である。
小さな断片のそれぞれは、小さなありえなさをもつが、それほどはなはだしく
ありえないわけではない。こうした小さなありえなさをもつ出来事が非常に
多数集まってひとつながりになれば、その累積による最終産物は、実際、
とんでもなく非常にありえないもの、偶然が到達できる範囲をはるかに超える
だけのありえなさをもつことになる。
・・・創造論者には、この点がまったく目に入らない。
なぜなら彼・・・は、統計学的にありえないことの創生をたった一度かぎりの
出来事として扱うことにこだわっているからである。 彼は累積の力という
ものを理解していないのだ。」
・・・そして、アメリカには、進化論を教えずこの創造論が真理だとする教育を
している学校も現にあるようだ。 さらに厄介なのは、トランプ政権の
陰謀論に勢いづいてか、公立学校の教育にもこの進化論排除の風潮が
出て来ているらしい。
先端科学で勢いを増す、中国とは正反対の動きをしているように見えます。
p79
「・・私には、その石がそこにそうしてあったこと自体が、神の啓示と思われた。
・・・神が私に地球に持ち帰らせるために、そこに置いてくださったものであることを
確信した。」
p80
この詩は、まるでアーウィン自身の体験をそのままつづったもののように思われたのだ
という。 彼もまた、宇宙の聖域で神の顔に手をふれたのだという。
彼は宇宙で、月で、神がすぐそこに臨在していることを実感して(「ふり向けば、すぐ
そこにいるのだはないかと思われるくらい、神は近くにいた」という)・・・・自分の
残りの人生を神に捧げることを誓ったのである。
p81
日を追って、評判が大きくなり、ついに、月から帰って3か月目の71年10月には、
ヒューストンのアストロドームで、5万人の聴衆を集めて大集会が開かれるところまで
いった。
・・・職業的伝道者として、自分の体験を語り、神の福音を説きつづけて今日にいたって
いるのである。
==>> ちなみに、この本の初版は1985年です。
仮に、日本人の宇宙飛行士が、こういう体験をしたとしたら、普通の日本人
はどういう反応をするのでしょうね。とても5万人を集めるような集会を
開けるとは思えません。
しかし、今までに宇宙飛行士になった日本人も10名以上になっていますので、
科学的な発見以外の精神的な部分での著書などを読んでみたいものです。
p88
アメリカの大学は日本の大学とちがって、政治や産業と密接にリンクしていて、政学協同、
産学協同が成立していることはよく知られているが、同時に軍学協同も同じように
高レベルで成立している。 誘導ミサイルなどの軍事工学のコースは、大学のコース
とはいえ、事実上、軍の、軍による、軍のためのコースであり、学生はほとんどすべてが
軍人なのである。
p89
ソ連が世界最初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げたのは、・・・1957年10月の
ことである。・・・・アメリカ大陸の上を1時間半おきに電波を発しながら飛んでいる
重量86キロのスプートニクは、もしそれが核爆弾だったらという恐怖をアメリカ人大衆
に与えた。
==>> 人類というのは本当にやっかいな生き物です。
「残念な生き物事典」の筆頭にあげたいくらいです。
それはともかく、世界の中の超大国といわれる国では、こういう話は
常識なのでしょう。
私の知人で、ヨーロッパ留学をした女性がいたのですが、彼女が専攻したのが
「平和学」だそうです。どんな内容の授業だったのかを尋ねたところ、
多くが戦争に関する講義だったそうです。 それほどに、平和と戦争は
裏腹であるという常識がヨーロッパにはあるのでしょう。
平和とは戦争状態ではないこと・・・と言えるのかもしれません。
私は1950年生まれですが、本当に平和な時代に生まれたものだと
思います。平和ボケの一期生と呼べるかもしれません。
p103
聖書には、この世のすべてを獲得しようとも、汝の魂を失うことになったら、何の意味
があろうか、とある。 ・・・・ファウスト的な心境になることが人間にはある。
・・・月の高みに達するために、私はいかなる犠牲もいとわなかった。
そしてまさに全人生を賭けた目的であるその高みに達したところで、私はその目的の
ために捨て去っていた神に再び出会ったのだ。
==>> ここはアーウィン飛行士の言葉を書いてあるところなんですが、
もともとは「いいかげんな信者だった」と書いてあります。
p103
アメリカには、・・・・キリスト教のあらゆる教派がある。 ・・・政府統計で
信者5万人以上の教派教団だけで83ある。
p104
キリスト教の歴史の長いヨーロッパでは、どこの国でも、その国の国教的立場の教派
があり(たとえば、南欧とフランスはカトリック、ドイツと北欧はルーテル派、
イギリスは聖公会など)、それ以外の教派はごく少数である。
・・・アメリカではあらゆる教派が入り乱れて伝道活動をしているし、また、どの
教派も国のすみずみまで教会を置けるほどには大きくない・・・・
・・・アーウィンのように教派を変えることは珍しくない。
p106
南部バプティストの教義はきわめて保守的で、聖書に書いてあることはすべて字義
通り真実であるとするファンダメンタリストである。 他の教派が、現代の科学的知識
と矛盾しないように、聖書のある部分(たとえば天地創造を伝える創世記など)は
神話で、たとえ話であるとして合理化をはかろうとするのに対して、頑固に反対している。
・・・南部バプティストが強い地域の学校では進化論は教えない。
・・・あらゆる意味での性解放に反対だし、目下問題の男女同権憲法修正案(ERA)にも
断固として反対している。
・・・もともと南部のプア・ホワイトを基盤に発展した教派であって、その後の発展も、
社会的には下層の都市住民が中心であるから、決してエリートの宗教ではない。
==>> このあたりの、アメリカの宗教事情に関しては、大統領選挙の際の
共和党と民主党の闘いの中で、クローズアップされた点ですね。
いわゆるプア・ホワイトのファンダメンタリストが白人至上主義も
相まって、トランプを支持し、アメリカが分断されてしまいました。
その点、日本という国は、実に平穏な国だと思います。
ちなみに、アメリカのどこの洲が共和党なのか民主党なのかについては、
こちらのサイトに色分けがありました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%84%E5%B7%9E%E3%83%BB%E9%9D%92%E3%81%84%E5%B7%9E
「赤い州・青い州(あかいしゅう・あおいしゅう)は、アメリカ合衆国の州の
近年(特に2000年以降)の大統領選挙における政党支持傾向を示す概念である。
共和党を支持する傾向がある州を赤い州(red state)、民主党を支持する傾向
がある州を青い州(blue state)と呼ぶ。」
さらに、アメリカの宗派がどの地域に分布しているかはこちらで:
https://gigazine.net/news/20070710_map_of_religion_usa/
「よく小学校の前で小冊子みたいなものを配っていたりするバプテスト。
南部で圧倒的に強い。」
「北部に多いルーテル教会。代表的なプロテスタントの流れをくんでいる。」
「バイブル・ベルト」と呼ばれているのは:
「アメリカ合衆国の中西部から南東部にかけて複数の州にまたがって広がる
地域で、プロテスタント、キリスト教根本主義、南部バプテスト連盟、福音派
などが熱心に信仰され地域文化の一部となっている地域。同様にキリスト教会
への出席率の非常な高さも特徴になっている。社会的には保守的であり、進化論
を教えることが州法で禁じられていたことがあるなど、キリスト教や聖書を
めぐる論争の絶えない地域である。」
・・・上の3つのサイトを重ね合わせてみると、大雑把な宗派と政治的傾向が
読めるかもしれません。
この本は1985年初版で上のような状況だったわけですが、
2007年初版のリチャード・ドーキンス著「神は妄想である」には、
あまりにも宗教的なアメリカ人の中に、実質無神論者もかなり増えて
来ているということが書かれています。
p113
宇宙飛行士は家庭をかえりみる暇がない。まず勉強が大変である。 天文学、航空工学、
航空力学、ロケット推進、コンピュータ、通信工学、数学、物理、高層大気圏物理学、
宇宙空間物理学、環境制御、医学、気象学、誘導制御、宇宙航法、地質学、岩石学、
鉱物学などなど、それぞれの課目を何十時間も学ばされるのである。
それぞれの課目をトップクラスの学者が、セミナー形式で教える。
p114
各種の危険にどう対応するかなどを学んで、実際にパナマのジャングルにいって、
サバイバルの実習をやらされた。沙漠でも実習をやらされた。
==>> まあ、アメリカの中で理系のトップエリート集団を作りだすシステムが
NASAにはあるということですね。 国の威信をかけて世界のトップを
走り続けるためには、そのような組織的な体制が必要だということなの
でしょう。 少なくとも独裁体制の国ではそれが当たり前なのでしょうが、
民主主義の国ではそのような体制を維持するのはなかなか骨が折れることだ
と思います。
p121
・・・アーウィンはカッとなって怒り狂う。 亭主がその人生を賭けてきた大目的を
いま実現させようというときに、女房たるもの家庭をしっかり守って、精神的に全面的
にバックアップすべきではないか、と。 このあたりアーウィンは日本男性的家庭観の
持主なのである。 しかし、奥さんのほうは、そういう家庭観を受け入れない。
・・・こんなことなら、もうアポロ15号の任務も返上し、宇宙飛行士もやめてしまおう
かと考えたことが何度もあったという。
==>> これは宇宙飛行士にはつきものの家庭問題であるようです。
むちゃくちゃ忙しい、それこそ命がけの仕事に熱中すればするほど、
月に近づけば近づくほど、奥さんは離れていく・・・・
p123
アメリカ人のキリスト教信仰は、日本人が一般にこれがキリスト教と想像しているような
信仰とはかなりかけ離れているのである。
p124
・・・メインラインでは最大の教派であるメソディストの場合、神の存在を信ずる者
60パーセント、イエスを神の子と信じる者54パーセントしかなかったのである。
・・・実は同じ質問を、牧師、教会教職者たちにぶつけた調査がある。・・メソディストは
ほとんどがリベラルであるから、その数字を見てみると、神の存在を信じる者
46パーセント、イエスを神の子と信じる者31パーセントという驚くべき結果が出て
いる。
・・・それに対して、南部バプティストはどうか。 これは実に見事に、99パーセント
の人が神の存在も、イエスの神性も信じている。・・・ファンダメンタリストの99
パーセントがやはりその両方を信じている。
==>> これはアーウィン宇宙飛行士が、奥さんとの諍いに関連して、
教派を南部バプティストに変えることによって、奥さんとの関係を
ある程度修復できたという文脈で出てきています。
そして同時に、アーウィン宇宙飛行士が若い時に感激の涙を流した教派が
南部バプティストだったということも書いてあります。
そして、そのような宗教的状況の中で、アーウィンさんは月に行ったという
流れになっています。
p130
面白いのは、アーウィンが、宇宙に出てから頭の働きがものすごくよくなったような
気がすると述べていることだ。 同じことを指摘した宇宙飛行士は他にもいた。
アーウィンの宇宙船では、クルーの三人ともそのことを実感した。 頭の中が明晰
そのものといった感じになり、精神能力が拡充した感じになる。感じだけではない。
宇宙船の操作にしても、地上での訓練の何倍も効率的にやることができた。
何を考えても、すぐにピンとくる。クレールヴォアイヤンス(透視能力、ESP能力
の一つ)とは、こういう状態をいうのではないかと思うくらいだったという。
・・・アポロ14号のエド・ミッチェルの場合は、この体験が特別強力で、自分は
ほんとうにESP能力を持ったのだといい、月から帰ってからESP研究に熱中し、
そのための研究所すら設立してしまうのである。
==>> さあ、いよいよ、宇宙空間での神秘的な話がでてきました。
しかし、ここで、アーウィンさんは、冷静に「この頭脳の明晰化、精神
能力の拡充は、100パーセントの酸素を吸い続けたために、脳細胞が
平常の状態より活性化したためではないかと考えている」としている
そうです。 結果だけをみて驚くのではなく、その原因についても
しっかり捉えている点がさすがです。
そこで、空気中の酸素濃度が人びとにどのような影響を与えているのかを
ちょっと検索してみたところ、下のような動画がありました。
酸素濃度と病気との関係を述べています。
そしてまた、高濃度酸素の吸引によって、さまざまな効果があることも
書かれています。
(一般社団法人日本先進医療機器促進協会による動画です)
https://www.youtube.com/watch?v=5MRk_ece8wo
また、こちらのサイトには面白い研究報告がありました。
「受験生で高濃度酸素の新たな効果を確認」
https://news.panasonic.com/jp/press/data/jn061011-1/jn061011-1.html
「松下電器産業(株)ホームアプライアンスグループは、代々木ゼミナール及び
名古屋工業大学と共同で、約30%の高濃度酸素の吸引による新たな効果として、
記憶の向上に関連する効果を検証し、(1)記憶力の向上 (2)学習時の疲労感の
軽減 (3)ラットにおける記憶力の向上および遺伝子解析による学習・記憶関連
遺伝子の発現増強を確認しました。」
・・・これらのサイトに紹介されている効果から類推すると、宇宙飛行士が
一定の経験をすることが説明できるのかもしれません。
最後のラットの遺伝子解析の部分は、将来の人類の進化を暗示するような
内容を含んでいるようにもみえます。
=== 次回その3 に続きます ===
====================================
コメント
コメントを投稿