黒木登志夫著「新型コロナの科学」を読む ― 1 常識はずれの「ずる賢い」新型コロナウイルス

 

黒木登志夫著「新型コロナの科学」を読む ― 1 常識はずれの「ずる賢い」新型コロナウイルス

 

 

黒木登志夫著「新型コロナの科学:パンデミック、そして共生の未来へ」を

読んでいます。

 


 

この黒木さんは、2000―2020年に日本癌学会会長をされていた方のようで、

3カ国5つの研究拠点でがんの基礎研究などをされていたそうです。

 

私がこの本を読もうと思った動機は、マスコミやインターネットでの新型コロナに関連

する情報をある程度全体的に捉えたいということと、新型コロナ感染症がどのような

ものであるかを正しく理解したいという思いからです。

 

この本は、2020年12月の初版が出ていますので、2021年8月のデルタ株が猛威

を振るっている現在ではやや状況が変化しているでしょうし、書いてある内容も少し古い

情報になっている部分があります。

 

また、ここに引用する内容は断片的ですし、私の個人的感想は本の趣旨とは異なる

場合が多々あると思いますので、ド素人の個人的感想ということでご了解ください。

正しい理解のためには、実際のこの本を手に取ってご覧になることをお薦めします。

 

 




===

 

p3

 

近代医学がワクチンを作り、抗生物質を開発したが、いまだ、特効薬もワクチンもない

感染症の方が多い。 ウイルス疾患の中で両者がそろっているのはインフルエンザぐらい

である。 コロナウイルスのSARSMERS、そして新型コロナウイルスに対しては

ワクチンも治療薬もない。 撲滅された感染症は、天然痘(痘瘡)だけである

 

p6

 

14世紀の死亡者はどのくらいであったのだろうか。

・・・当時の資料から推測すると、死亡率は実に50%を超えていたのではないかと

いう。 フィレンツェでは60%が死亡、ベネチアでは75%という記録もある。

・・・ヨーロッパの推定総人口1億人のうち2500万人くらいがペストで死亡した

のではないかと推測している。

 

==>> ここでは人類がどのようにパンデミックを生き延びてきたかを書いて

     あります。 特にペストはカミュの小説で有名ですが、そこには

     「人間に不幸と教訓をもたらすために今でも世界のどこかに隠れているのだ」

     と書いてあるそうです。

     (私も一応読んでみたのですが、読むのにかなりの辛抱が必要な小説でした。)

     2020年の当初から現在までの新型コロナウイルスによる死亡率は

     ペストのように高くはありませんが、今後どのような変異株が出てくるかは

     分かりませんから楽観はできません。

 

 

p20

 

ワクチンも治療薬もなく(今も同じだが)、病原体が何であるかも分からなかった時代、

どのような対策がとられていたのだろうか。 内務省の「流行性感冒」によると、政府の

対策は、マスクの着用、うがい、室内の換気、患者の隔離、大勢が集まるところへの

出入り自粛などである。 コロナの時代の今、われわれが気を付けることは、100年前

とほとんど変わっていない。

違うのは、うがい、仁丹の代わりに、手洗いが推奨されていることくらいである。

 

==>> この部分は、1918年秋に日本に上陸してきたスペイン風邪についての

     記述です。

     2021年になって日本でもファイザーとモデルナのワクチン接種が実施

     されていますので、特に高齢者には安心感が広がっているかと思います。

     ワクチンの開発スピードが100年前とはおおいに異なっていることが

     幸いなことだと感じます。

 

p31

 

SARSの患者は、コロナ感染症のように動き回って感染を広めることはできず、

死に至る。 ホストがつぎつぎに死ぬと、ウイルスは生きる場を失い、自らも消え去る

ほかにない。 かくしてSARSウイルスは自滅した。 2003年7月5日、WHO

SARSの収束を宣言した。 ウルバニが感染してからわずか4カ月と5日で、SARS

われわれの前から姿を消した。

SARSに比べると、新型コロナウイルスははるかにずる賢い。 軽症者が80%を占め、

しかも感染しても症状のないときにウイルスをまき散らす。

 

==>> 新型コロナウイルスがSARSに比べていかにやっかいなものかが書いてあり

     ます。 所詮人間がウイルスを拡散させる原因になっているわけですから、

     日本脳炎における蚊のようなものですね。

     いわばインターネット上のウイルスやいわゆるフェイク情報をまき散らして

いる人間と同じということになりそうです。

     (私のこのブログがそのようなウイルスでないことを祈るのみですが・・)

     SARSのような死亡率の高いウイルスは自滅してくれるんですが、

     人間が作り出す上記のようなSNS上のウイルスは自滅してくれないので

     困ったものです。

 

 

p55

 

感染したが症状の出る前、本人も周囲の人も感染していると気が付かないときに、感染する

ようだったら防ぎようがない。 そのような困ったことが、新型コロナウイルスで起こる

ことが分ったのは、1月末、ヨーロッパ最初の感染事例の分析からであった。

・・・しかし、「無症状感染者からの感染」という重要な発見は、最初は受け入れられ

なかった。 

 

p56

 

この常識外れの感染は、すぐに受け入れられたわけではなかった。 論文への批判は、彼女

らの表現を借りれば、「ツナミ」のように押し寄せてきた。 ・・・・スウェーデン、

フランスの健康当局も、無症状者からの感染に否定的であった。 イギリスの緊急科学

委員会は、うわさにすぎないと問題にしなかった。 

・・・しかし、間もなく、別な証拠があがってきた。・・・会社のカフェテリアで食卓塩の

瓶を手渡しただけの二人の間で感染が起こったのであった。 ・・・全くの無症状であった

二人の間の接点は食卓塩の容器、あるいは、「食卓塩を取って下さい」というような

短い会話だけ。

 

・・・この事例を見て、無症状者からの感染を認めざるを得なくなった。

 

p57

 

無症状感染者からの感染が例外的な感染様式でないことは、その後の研究によって、

疑う余地はなくなった。 5月になると、44-56%の感染は無症状感染者という

報告が相次いだ。

 

p58

 

新型コロナウイルスの感染を防ぐには、無症状の人をスクリーニングしなければならない

 

==>> 世界の専門家が揃って「常識外れ」とした新型コロナウイルスの無症状者

     からの感染。 ことほど左様にこのウイルスは正体不明のものである

     ようです。

 

p59

 

クラスターは圧倒的に屋内で発生する。 1月4日から2月11日までに武漢で発生した

3人以上のクラスター318のうち、屋外のクラスターは1件のみである。

日本の分析では、屋内は屋外よりも19倍もクラスター発生のリスクが高い

このこと自身、「三密」とエアロゾルが感染を広げる上で重要な役割を果たしていることを

意味している。

 

==>> 「三密」はもう既に聞き飽きるほど聞いた言葉ではあるのですが、

     飽きたといって放り投げるわけにはいかないようです。

     感染防止の上では、結局これしかなさそうです。

     今現在はワクチン接種が進んでいるとはいえ、低い確率で感染することが

     あるとの情報がインターネットなどで報告されています。

 

p60

 

大阪大学の三浦麻子(社会心理学)の調査によると・・・感染したのは自業自得と

考える日本人が欧米と比べて非常に多かった。 「自業自得」「個人責任」の

考え方は、「感染した奴が悪い」のだとして感染者を排斥し、それが差別につながる

ことになり、ひいては科学的な対策の障害になる。

 

p61

 

アメリカが一番寛大のように見えるが、トランプ大統領の感染に対して、アメリカ国民

は厳しかった。 新型コロナを軽視し、マスクを推奨せず、ソーシャル・ディスタンス

を守らずに感染したのは、大統領の責任と考えている人が、国民の大半を占めていた。

 

==>> 個人の責任と言い切れれば簡単なのでしょうが、しっかりと対応をしている

     人であっても感染することがあるので自業自得だと差別するのは、いわゆる

     自粛警察のようで嫌ですね。

     正義感の強い人ほどそういう傾向にあるそうです。

     また、そういう正義感の強い人でも感染するのが新型コロナであるようです。

     アメリカの大統領の件については、バカバカしくてコメントする気にも

     なりません。

 

 

p63

 

感染者の20%は肺炎になり、さらに2-3%は重篤化して、集中治療室(ICU)

送られ、呼吸管理、ECMO(体外式人口肺)による治療などが必要になる。

・・・サイトカイン・ストーム、血栓症、心筋梗塞、脳梗塞、肺栓塞などを合併すると

予後は悪い。

 

 

p65

 

カリフォルニアの報告では、68%に嗅覚異常が、71%に味覚異常が見られた。

 

==>> ここには新型コロナ感染症の病状が書かれているのですが、

     2021年8月現在では、デルタ株が主流になっていますので、

     こちらのサイトで最新の情報をチェックしてください。

 

     「変異ウイルスの特徴・最新情報」

     https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/newvariant/

 

     「専門家会合の脇田隆字座長は「デルタ株は感染力が従来のウイルスの

2倍程度で、従来と同じ対策を同じ程度の強さで講じても制御が困難だ。

感染が急拡大している地域では人流を抑えるだけでなく、人と人との接触

機会の削減を行うしかない」と話しています。」

 

「この病院では、720日時点の入院患者は9人で、▽60代以上が2人、

▽50代が3人、▽40代が3人、▽30代が1人で、全体の8割が50代以下

なっています。」

 

     「デルタ株と夏風邪を見分ける症状」

https://news.yahoo.co.jp/articles/782e0f14d3141cb493e73f7299551ded8257954c

 

「これまでの新型コロナでは、嗅覚障害や味覚障害が出る人が多かった。

一方、デルタ株では少なくなっています。代わりに強く出るようになった

のが、頭痛やのどの痛み、発熱など、まさに夏風邪をこじらせたような症状

です。その結果、“夏風邪だから放っておけば治るだろう”と積極的に受診せず、

感染が広がっていると考えられます」

 

「症状が夏風邪に似ているからといって、ウイルスが弱くなったわけではない。

シンガポール国立感染症センターは、デルタ株は従来株に比べ、重症化や死亡

のリスクが4.9倍になると発表している。」

 

・・・上記のように変異株によって、症状や重症度・致死率、そして

従来は高齢者が危ないとされていたものが、若い人たちの間で蔓延する

状況になっています。

 

 

p66

 

肺炎には大きく細菌性とウイルス性があり、さらに死亡統計上は誤嚥性肺炎がある。

このうち、肺炎球菌とインフルエンザウイルスに対してはワクチンがそれぞれ予防に

効果を上げている。 それでも、日本の肺炎死亡者は年に11万9300人(2016年)

、死亡者総数の9.4%を占めている。 全年齢層では死亡原因の3位だが、80歳代

では第一位である。 肺炎死亡者が12万人もいることを考えると、見逃された新型

コロナ肺炎死亡者がいても分からないであろう。

 

p66

 

インフルエンザによる肺炎死亡者は、日本では1500人程度(2016年)である。

・・・アメリカではコロナの直前(2020年冬)・・・2200万人がインフルエンザに

罹患し、21万人が入院し、1万2000人が死亡したという。

・・・一番の理由は医療格差であろう。 ワクチンをしない人、医療費を払えない人が

多いのだろう。 それに、インフルエンザに細菌性肺炎を併発しても、日本のように

抗生物質をすぐに出すことはない。

 

===>> ちなみに、日経新聞のサイトで新型コロナのグラフを見ると、

      8月15日現在の米国の数字は、感染者数 3662万6724人で、

      死者数は 62万1202人となっています。

      (致死率は 1.69%)

      (ただし、この数字は2020年1月23日から2021年8月15日までの

       集計です。)

 

      米国の新型コロナの数字を乱暴に1.5で割って、一年分と見做した場合、

      インフルエンザとの比較は以下のようにできるかもしれません:

                  感染者数     死亡者数    致死率

      インフルエンザ    2,200万人  1万2000人  0.054%

      新型コロナ      2,441万人 41万3000人  1.7%

      

 

      ところで、インフルエンザと新型コロナの比較については、

      新型コロナ騒動で、インフルエンザの影が薄くなったとのニュースもあり

      ます。

 

     「昨年比「600分の1」の衝撃 日本のインフルエンザ「消滅状態」」

      https://news.yahoo.co.jp/byline/mamoruichikawa/20201205-00210138

     「昨年は同時期に、全国で27,393件の発生が報告されましたが、今年は46

でした。」

「オーストラリアの他の南半球の国々のデータも見ましたが、同様のインフル

エンザ「消滅状態」が起きていました。」

「オーストラリア保健省は次のように指摘しています。

 

新型コロナウイルス感染症の流行に関連して行われた公衆衛生上の対策や、

メッセージを多くの人が守っていることが、インフルエンザを含む急性呼吸

器感染症の感染拡大に影響を与えている可能性が高い。

 

・・・つまり、素人考えですが、「三密」回避などの新型コロナ対策が、

インフルエンザにはてきめんに効果があったけど、当面の敵である

コロナにはなかなか通用しないということになりそうです。

 

 

p67

 

新型コロナによる肺炎は、細菌とは大分違う。 細菌の場合、主として炎症による

浸出液が肺胞内を満たすのに対し、コロナの場合は肺胞の壁(間質)が炎症で厚くなる

このため、コロナウイルスに感染した肺は、CT画像上、すりガラス様と言われる

薄い影となって写る。 

 

p69

 

コロナ感染が疑われる患者が入ってくると、病院はPCR検査と同時にCT撮影をして、

コロナ肺炎を確かめる。 しかし、すりガラス様の影は、コロナ特有ではなく他の疾患

でも見られるので、新型コロナ感染の補助診断として位置づけられている。

 

==>> 上記では、CT検査とPCR検査が書かれていますが、これ以外に、

     パルスオキシメーター、人工呼吸器、ECMOなどについても書かれています。

     最近のニュースでは、ホテル療養や自宅待機組で、パルスオキシメーターや

     簡易的な人工呼吸器の配布などが実行に移されているようです。

     しかし、東京だけでもこれらの入院待ちの人たちが3万人以上とされて

     いますので、実際上のトリアージの段階であるように見受けられます。

 

p70

 

誰もが経験しているように、感染による炎症がその部位に留まっているうちは、

腫れ、痛みなどの局所反応であるが、広がると発熱などの全身症状が出てくる。

これは、免疫細胞が分泌した炎症性サイトカイン(タンパク分子)のためである。

さらに大規模な感染が起こると、生体防御の範囲を超えて、サイトカインが過剰に

分泌され、サイトカインがサイトカインを呼び、ポジティブフィードバックが

かかって、制御が効かなくなる。 サイトカイン・ストームである。

・・・ついには、全身の臓器に炎症反応を起こすようになる。

血圧が低下し、ショック症状になり、さらには、血管内で血が固まり(播種性血管

内凝固)さらに多臓器不全となる。

 

==>> つまり、自己防衛が過剰反応して自分を痛めつけるということのようです。

     より詳しくは、下の有識者会議のサイトでご覧ください。

     (ただし、2020-05-28時点での情報です。)

 

     「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である」

     https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/4565

     「―約80%の感染者は無症状か軽症で経過するが、20%は重症肺炎となり、

そのうち30%は致死的な急性呼吸促迫症候群(ARDS)となる

―現時点で有効な抗ウイルス薬や、ARDSに対する確立した治療方法はなく、

1日も早い治療薬の開発が望まれる。」

COVID-19におけるARDSはサイトカインストームによって生じていると

考えられており、ARDSの治療には単に抗ウイルス薬のみでは不十分で、サイト

カインストームを抑制することが必要であると考えられる。」

 

 

p75

 

死亡診断書には、(ア)直接の死因、 (イ)(ア)の原因、(ウ)(イ)の原因という

ように、死亡の原因を順を追って書く。 たとえば、(ア)多臓器不全、(イ)肺炎、

(ウ)COVID―19(検査陽性)のように書く。 COVID―19が書かれていれば、

新型コロナウイルス感染症による死亡として扱うことになる。しかし、感染者が交通事故

で死んだような場合は、コロナ感染による死亡とはならない(感染者として数えられるが)。

 

・・・ロシアでは、死亡診断書には、直接の死因(上記の(ア))で記入し、新型コロナ

感染を表に出さないようにしているためだという。

・・・なお、10月時点では、ロシアの致死率は1.7%に「改善」された。

 

日本の新型コロナ感染症の致死率は、10月7日時点で、1.93%(1580

/81836)である。 同日の世界全体では、2.93%・・・なので、日本の

死亡者は世界のほぼ3分の2である。

 

p76

 

致死率はある病気の罹患者が、その病気により死亡する率(%)。

死亡率は、日本全体で人口10万人あたりの死亡者の率である。

 

==>> インターネットサイトで感染者数などを掲載しているところでは、

     時折各国のデータをそのまま比較することはできないと書いてあります

     ので、その背景には様々な理由がありそうです。

     しかし、余程の秘密主義の国でない限りは、少なくともその国だけを

     時系列でみればある程度の傾向は読み取れるものと思いたいところです。

 

 

== その2 に続きます ==

 黒木登志夫著「新型コロナの科学」を読む ― 2 メルケルはR(再生産数)を語る、日本はどう? (sasetamotsubaguio.blogspot.com)

 

 

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