妄想: 不思議な下町の「どどいつ割烹、お銭」
妄想: 不思議な下町の「どどいつ割烹、お銭」
何故だかまったく分からないのだが、私と相棒はある下町の安いアパートに暮らしていた。
そのアパートの前には銭湯があった。 かなり古い造りで、狭く、みすぼらしく見えた。
相棒がその銭湯から出てくるのを待って、貧弱な街の通りをそぞろ歩きしていた。
通りの左側に、以前から気になっていたひとつの割烹がある。
その前を通るたびに、店の中から都々逸を謡う女将の声が聞こえていた。
その女将はかなりの老女であったが、その声に惹かれるように私は暖簾をくぐった。
相棒もその後に続くように吸い込まれた。
その店は「どどいつ割烹、お銭」であったと思う。
店の中は雑然としていて、まるで作業場のような雰囲気であった。
「これが割烹なのか?」
と私は狐につままれたような、夢の中にいるような気がしていた。
女将は、我々を奥に案内し、丸太のようなものを二つ差し出して、そこに座れと言う。
我々がほとんど並ぶようにその丸太に腰を下ろすと、女将は、その前に細い木切れを
こんもりと積んで、そこに火を入れた。
「こんなところで焚火をして、なにを作るというのだろう」
こんな割烹料理店など見たことも、聞いたこともない。
メニューすらそこには出てこない。
相棒と二人で、丸太に座ってその煙を眺めていると、後ろから男の声が
「只今、見積もりをしていますので、しばらくお待ちください」と言った。
「見積もり? なんだそれは?」
ちょっと離れた座敷に座った女将が都々逸を謡っている。
「赤い顔してお酒を飲んで 今朝の勘定で青くなる」
私は、財布の中が急に心配になってきた。
ちょっとブラブラしたついでに入った店である。 財布の中には大枚がせいぜい1~2枚
しかないはずだった。 相棒は銭湯からそのままやってきたんだから、持っている筈も
ない。 クレジットカードは使えるんだろうか。
「捨てる神ありゃ 助ける神が なまじあるゆえ 気がもめる」
・・・女将の都々逸が聞こえてくる。
どうにかなるさと観念している内に、焚火が熱くなってきて、首筋に汗がにじんできた。
「ああ、暑い・・・・・」
私は寝返りを打って、目を覚まし、扇風機のスイッチをONにした。
== お粗末 ==
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