ビギナーズ・クラシックス「今昔物語集」を読む ― 3 美女に色仕掛けで操られ、鞭で打たれ、いつの間にか盗賊団に

 

ビギナーズ・クラシックス「今昔物語集」を読む ― 3 美女に色仕掛けで操られ、鞭で打たれ、いつの間にか盗賊団に

 

 

角川書店編 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典「今昔物語集」を読んでいます。

 


 

p157

 

人間にとりつく悪霊は、この世に未練・怨念を残した死者の霊が多く、これを死霊と

いう。 しかし、生きた人間の霊が肉体から遊離してとりつくものを生霊と呼んだ

相手に激しい悪感情を抱いている場合に起こる霊現象である。

とりわけ有名なのが「源氏物語」(葵の巻)に登場する六条御息所の生霊である。

 

・・・我にかえった後、・・・自分が生霊となって降伏されたことを知り、自責の念に

さいなまれる。

 

・・・自覚のないまま生霊となるのがふつうだが、本話の場合はっきり自覚していると

述べている。 しかも、女性に限るらしいのが、まことに恐ろしい

 

==>> 「捨てられた女の生霊、薄情な相手の男をとり殺す」という恐ろしい章です。

     昔から、猫と女は化けやすいといいますから、ご用心ください。

     ちなみに、除霊のことも書いてありまして、

     「修行を積んだ陰陽師や密教僧などが加持祈祷して生霊・死霊を退散させた」

     とあります。

     御用の節は、お間違いのないように。

 

     ちなみに、私が某日本人男性から聞いた話によりますと、

     第二次世界大戦の折に、フィリピンのバギオ市周辺の山で亡くなった

     日本兵の霊が、地元の女の子に取り憑いて、男の声で、日本語で

     しゃべったそうです。

     その内容は、キリスト教の神父や牧師が言っていることは理解できない。

     日本語を話す仏教の坊主をよこせ・・・というような内容だったとか。

     

     私も似たような話を別途聞いたことがありまして、地元の元ゲリラ兵の

     お年寄りが、日本人による慰霊を依頼してきたというので、その現場に

     般若心経のCDとパソコンを持って慰霊をしたことがあります。

 

     ことほど左様に、死霊となってからも、言語と宗教は大事みたいですから、

     英語のひとつも理解できるようになっておくのがいいかと思います。

     死んだら宇宙共通語があると思ったら大間違いみたいですよ。

 

 

p163

 

貧しさゆえに夫婦が分かれるのは、この当時めずらしいことではなかった。 現代のように、

夫婦のきずなを法律が守ってくれる時代ではない。 貧困から逃れ、生活を保障する新しい

相手を見つけるために、愛し合いながらも別れる例は多かった。

 

・・・この若侍も、仕官の費用のために、しかたなく新しい妻をめとった。 だが、希望が

かない生活が落ち着くと、思い出すのは捨てた前妻のことばかり。 ついに、前妻のもとに

戻る決意をする。

 

p164

 

・・・しかし、彼女にしても、それは覚悟の上なのである。 それほどに、当時の結婚関係

は不安定なものだった。

 

さて、若侍は前妻のミイラを抱くはめになり、前妻が従順で無抵抗だったから、よけいに

情念のおそろしさが増幅する・・・・

 

==>> 「現代のように、夫婦のきずなを法律が守ってくれる時代ではない。」という

     解説者の一文は、今の時代の感覚では、いろいろと物議を醸すようにも思い

     ますが、少なくともこの説話が描く時代の婚姻関係は不安定であった

     ということでしょう。

     説話は、前妻が戻ってきた若侍を何事もなかったかのように家に迎え入れ、

     その一夜を抱き合って過ごしたことが描かれています

     しかし、翌日、それが前妻のミイラであったことが発覚するというお話。

 

 

p181

 

平安京の治安はよいものではなかった。 まして深夜の平安京は、群盗が横行する

無法地帯と化した。 皇居でさえ、強盗に侵入され、女房が身ぐるみはがされてしまう

事件が起きたほどだ。

 

==>> この説話は、宮仕えの国家公務員が、残業で深夜になり、この無法地帯の

     中を帰宅する様子が描かれています。

     「阿蘇のなにがし」という書記官が、立派な牛車に乗って帰宅するのですが、

     帰り道で盗賊に会うのは必至であると読み、裸になって貴重なものはすべて

     敷物の下に隠して乗車します。

     そして、盗賊に会って、「もう既にさっき盗賊に襲われて、このとおりだ」

     ってなことを言うと盗賊は大笑いして過ぎ去っていったというお話です。

     タクシーの中で、こんなことをやっても、多分ムダだと思います。

     いや、いけるかな?

 

p210

 

とりわけ、男装した彼女が男を台に縛り付けて鞭打つ場面は、息を飲むほど魅惑的である。

しかも、字数たっぷりに、きめ細かく描いている。 そこに女のサディズムと男の

マゾヒズムの匂いをかぎとるのは、読者のお好みであるが、この女性上位の場面は、

ありきたりの古典のイメージを一変させるほど、現代的で新鮮な味がする。

 

芥川龍之介の「偸盗」は本話に取材したものだが、そこにはこうした妖しい魅力は

欠落している。

 

==>> この魅惑的な話は、「色香と鞭で若い男を調教する、盗賊団の美人首領」

     という章です。

     若い男が美女に誘われて、その家に入りびたりになり、優しくされたり、

     鞭でひっぱたかれたりしながらも、女の言うとおりに、役割を与えられて、

     何かの仕事の訓練を受けていきます。 男にはそれが何の訓練だかは

     最後まで分かりません。 そして、いよいよその仕事が盗賊の仕事だと

     分るのですが、その盗賊グループの首領が、遠目に、どうもその美女らしい

     という感じで説話は終わります。

 

     さて、若い男性諸君、そしてご同輩。

     女社長、女役員、女幹部の多い会社には重々ご用心ください。

     鞭で打たれて、働くことがお好きな方は、ご随意に・・・・

 

 

p215

 

逮捕された窃盗犯の自白をまとめた話である。 都の城南の正門が死体置き場と化して

いる描写は、当時の荒廃した政治状況を、生々しく伝えている。

 

見捨てられた姫君の遺骸と、それから毛髪をむしりとる白髪の老婆・・・・

 

この話に取材して、芥川龍之介は傑作「羅生門」を書いた。 

そこでは男の屈折した心理が細密に解剖されているが、「今昔物語集」は、彼が老婆の

懇願を無視して、奪い取った品物を淡々と書きならべるだけである。 まるで取り調べ

調書のような無味乾燥が、かえって不気味な迫真力を感じさせる。

 

ところで、黒澤明監督・・・「羅生門」があるが、これは「今昔物語集」の本話や

芥川龍之介の「羅生門」とは別のものだ。

 

p223

 

芥川龍之介の「藪の中」の原話である。

黒澤明監督の名作「羅生門」は、その「藪の中」を映画化したものだから、「今昔物語集」

「藪の中」「羅生門」は三人兄弟の仲ということになる。

 

 

==>> 黒澤明の「羅生門」は、過去に何度か観ました。

     何人かの目撃者が、それぞれの事情と視点から、まったく異なる証言をする

     奇妙な映画でした。 しかし、おそらくそのような異なる立場からの

     異なる見方、証言、というのがこの世の真実なのかもしれないと考えさせる

     映画でした。

 

     芥川龍之介の「羅生門」は、大昔に読んだ筈ですが、忘却の彼方にあります。

     そこで、こちらの朗読をyoutubeで聴いてみました。

     https://www.youtube.com/watch?v=Rbe6mCnnR_M


     「藪の中」の朗読はこちらにありました。

     (121) 国語「鳥海浩輔が読む、芥川龍之介『藪の中』」【朗読】 - YouTube


 

 

p224

 

そのなかで事務能力にすぐれた達筆な書記を一人選んで、別室にかんづめにし、不正の

ばれる書類を書き換えさせていた。

書記は思った、このように公文書を偽造させたからには、新任の長官に事実を暴露する

だろうと、長官は自分を疑っているはずだ。 もともと冷酷な性格だから、きっと自分を

消しにかかるだろう、そうなったら大変だ。 

 

・・・部下は武装し、弓に矢をつがえて立っていた。 そこで、書記は、「いったい、

どうなさるつもりですか」と聞いた。部下は、「あなたにはたいへん気の毒だが、長官の

命令とあれば、拒否できないのでねえ」と言葉を濁した。 

 

p229

 

「・・・母さんがどうなるだろうと思うと、殺されるつらさよりも、もっとつらく悲しい。

・・・・今一度、顔を見ておきたいと思って、やってきたのです」

 

書記の言葉を聞いて、部下たちは泣いた。 

     

==>> そして、この書記は、長官の部下によって、殺されてしまいます。

     今の時代、つい最近あった事件を思い出さずにはいられません。

     上の者の指示、あるいは忖度によって、下へ下へと指示がくだり、そして、

     有能な部下が理不尽にもただ独り責任を背負わされて・・・・・

 

p231

 

平安王朝というと優雅な生活を想像しがちだが、それを享受できるのは貴族社会の中の

ひと握りの上級貴族だけである。 中・下級貴族はいつも貧窮に悩まされていた。

それというのも、中央省庁の高官連中が利権を独占するからである。 だから中間

管理職になる者たちは、不平不満の渦の中で暮らしていた。 政界・官界の腐敗を

告発する文書は、千年も前から政府に提出されている。 今も昔も、こうした世界の

構造は変わっていない。

 

==>> ああ、哀しいかな、哀しいかな・・・・

     行政機関・立法機関と司法機関が、せめて独立していることを切に願うばかり

です。そして、それを担保するのが、特捜部やマスコミであることを信じたい。

 

 

p246

 

妻は、老いて醜く腰の曲がった姨母をますます嫌った。「はやく死んでくれたらいいのに」

と憎み、夫に、「姨母さんは鬼姑だから、どっか深い山の中に捨ててきてよ」と迫った。

 

・・・男は姨母を背負うと、山の遠く離れた峰の上に登って行き、・・・置き去りにして・・・

 

p248

 

男は、また山の峰に登って、姨母を家に連れて帰った。

 

p251

 

姨捨山伝説は棄老説話のひとつである。 労働力として役に立たない弱者を抹殺したり、

遺棄したりするのは、食糧不足が原因だという。 ・・・肉体労働にたよる農耕社会では

洋の東西を問わず、共同体のおきてとして受け入れられた痕跡がある。

 

==>> これは現代に於いても、根柢に於いては、社会システムとして何等かの方策が

     必要なものだと思います。特に、日本のような少子化高齢化社会においては、

     毎度政治課題として議論がされるべき課題でしょう。

     日本とスウェーデンのような国の間には、まだまだ根本的な国民の意識の面で

     ギャップがあるように見えますが、日本が今後どのような未来への国家像を

     描いていくかの議論の中には、北欧の福祉国家像は重要なヒントをくれるの

     ではないかと思います。

     国会議員のひとりひとりが、自分が描く50年先、100年先の日本の国家像

     を描いて主張する本を出版して欲しいなと思います。

 

     私たち古希夫婦は、とりあえず年金制度で守られて、生活が出来ていること

     を有難く思っているのですが、今後の子や孫の時代にどうなってしまうのか

     が大いに気になります。

     民主主義であることが最低限必要であると思いますが、セイフティーネットの

     ある社会であることも、社会と政治の安定を保持する上では必須であろうと

     思います。

 

     さて、以下は「解説」の部分に入ります。

 

 

p255

 

「今昔物語集」は日本最大の説話集であり、貴族文学の「源氏物語」に肩を並べる庶民

文学として、平安王朝を代表する横綱文学である。

しかし、その出生を洗えば、まさに謎だらけの本としか言いようがない。

編集の年次も編者(または作者)も、むろん目的もわからない

しかも六百余年もの間、公表されることなく歴史の闇に眠っていた

 

・・・書物から推定して、1120年ごろを成立の上限としている。

 

p258

 

中世の長い時代にも、限られた文人貴族や宗教人などの間で、ひそやかに回覧されて

いたらしいことを伝える記事しか残っていない。

 

p260

 

それまでの説話集でも、国内の広い階層に取材したものはあった。 けれども、舞台を

国外に持ち出し、これだけ大がかりに設定したものはなかった。

また、登場人物も、上は神仏・天皇・貴族・僧侶・武士から下は浮浪者・盗賊まで

ありとあらゆる階層の男女が泣き、笑い、怒り、悲しみ、そこへ動植物や霊鬼・妖怪ども

も参加するといったぐあいである。

 

==>>  さあ、とりあえず、「今昔物語集」のつまみ食いを終わりました。

      もちろん古文で読むというのは、私には難儀ですので、しっかりした

     現代語訳の本があれば、是非とも次回、分厚い本で読んでみたいと

     思っているところです。

     しかし、すでに何冊か「ツンドク」状態の本がありますから、いつに

     なるかは分かりません。

     おまけに、4冊セットで5千円以上するようですからねえ・・・・

     (とりあえず、現代語訳の日本文学全集の中の1冊だけ、注文しましたが・・・)

 

 


 

=== 完 ===

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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